ボロボロの身なりの青年は、Kブロックの大型施設へ攻撃を仕掛けようと手を構える。魔力が手に集中し射出されようとしたそのとき彩虹寺の声が耳に入る。懐かしいと追い感覚が現れて、ボロボロの身なりの青年はその手を止め声の方向へと体を向ける。視界がとらえたのは、こちらへ向かってくる複数の人間だった。メガネの長身の男性と青めの黒髪ロングヘアの少女、緋色の瞳の黒髪ショートヘアのボーイッシュそして、日の光にさらされて様々な色に見える髪を持つ彩虹寺。ボロボロの身なりの青年はその四人をじっくりと見てさらにどこか懐かしい気分になる。そんな気分に浸っているさ中、後ろからひねくれたような声を聞く。そして、思い出す。銀色の使徒のサソリという男と一緒に晴山優吾をおびき寄せるために作戦を実行していることを。
「LEOさん。すみませんが、彼らを追い払ってください。私たちの目的は晴山優吾のみですので…」
LEOと呼ばれる黒い鎧は四人を睨み、手を広げて魔法を発射する。四人はその魔法を避けて取り囲み、捕縛しようと構えるとサソリがそれを邪魔しようと間に入る。
「困りますよ~彼は借りものなんです。ここで捕まえられては私の存在が危ういんですよ~」
「借り物?誰から彼と行動しろと言われているんだ?」
「おっと、これは秘密でした…それよりも、私とLEOにかまけていていいんですか?」
星々は背後からの魔力に反応し、すぐにその攻撃を防ぐ。そこには晴山優吾に似た少年が星々へ爪を立てていた。班員は少し驚いたが、星々から詳細を聞いているため躊躇なく攻撃をすることができた。銀色の使徒教祖 ギンロ=ジルヴァスはあまりに薄い反応に一度距離をとる。
「なぁんだ…この姿なら皆驚くと思ったのに……」
頭を掻き困ったような表情をすると鼻先へ氷の弾丸が迫っている。ギンロはその弾丸を避けると、弾道をたどり視線を向ける。そこには氷の銃を構えた雪白 夢希がいた。そんな夢希と影を伸ばして拘束して来ようとして来ている義理妹の焔 凪へ聞かせるように口を開く。
「あれ?君、混じってるね?君だけじゃない……そこにいる影を伸ばそうとしている彼女も……」
二人は一瞬驚いたが、今は気にせず夢希は引き金を弾き、凪は影を伸ばし攻撃を仕掛けるが、同時攻撃にも関わらずギンロはその攻撃をかわす。
「おいおいせっかく魔族の血を持っているのに当てるくらいはしてもらわないと……」
ギンロはそういうと二人に一瞬で詰め寄る。夢希はその後頭部に照準を合わせて引き金に指をかけるが、ギンロはすぐにしゃがんで視線を逸らす。
「ゆき
ギンロに気を取られていた夢希は目の前に来ている凪が出した影の刃に気が付いていなかった。影の刃はすでに夢希の胸の先まで来ている。避けられるはずもなく、影の刃はそのまま夢希の胸へと刺さろうとしていたが、そこへ星々が二人の間へ水魔法を繰り出す。
「アクアボール!」
夢希の胸の位置でアクアボールは止まり、凪の影の刃はその水の中で止まる。凪は魔法を無事に解除すると、つかさず、逃げようとしているギンロの影を掴む。
「ありゃ、これは一本取られそうだね。」
ギンロはそういうと、人から魔族へと姿を変えその爪で自分の影を突き刺し、凪の魔法から強制的に逃げた。ギンロはサソリのもとへ跳躍すると大声で合図をする。途端に四人の真上には太陽を遮る影を作るほどの大岩を持ったエファが降ってきた。エファは無言でその岩を四人へ投げ落とす。だが、四人は冷静にその大岩を魔法で粉砕し、そのまま周りへの被害を考え、さらに粉砕された細かい岩も空中で処理する。四人は土煙を振り払い、さらなる劇劇に備えたがそれこそが罠であった。土煙がなくなり視界が良好になるとボロボロの身なりの青年が魔法を発射する準備を終えていた。
「発射……」
溜った闇の魔力弾が四人に向かって発射される。四人は一度避けようと回避の足向きになったが、気が付く。ここが町中で自分たちが避けるとさらに被害が広がると。四人はそのまま各自の魔法で相殺しようとしたが、その間に晴山優吾が入ってきた。
「優吾君!!よけ……」
星々が言い終わる前に優吾はその魔力弾を切り伏せた。いや、剣の魔力で「相殺した」が正しい表現だった。ぶつかり合った魔力同士の煙を振り払い剣を鞘へ戻す。
「優吾君…それは…」
「あの、呪いの剣です。でも、もう、誰も呪いませんよ。」
龍の刺青が消えている優吾をみた星々はすぐにその言葉を信じた。優吾はそのまま前方の四人をにらみつける。視線がぶつかり合う優吾とギンロ。優吾は最初ギンロの容姿に少し驚くが雰囲気でこいつがボスだと感じ取る。ギンロはそんな優吾へ挨拶をする。
「やぁ、晴山優吾。僕らは銀色の使徒。僕は教祖のギンロ=シルヴァスだ。よろしくね。」
「あっそ…で?お前らはなんで、俺が欲しいんだ。」
「人類…いや、魔族の救済のためだ。」
「救済のための行為が破壊かよ?」
「何事も、創造の前には破壊があるものさ……でしょ?」
当然でしょ?と言わんばかりのギンロの態度に、優吾は睨んでいる目にさらに力が入る。ギンロは優吾の殺気にすぐにこちらには来る気がないと判断し、サソリとエファを連れて踵を返す。
「ギンロ?なぜ背を向けるのです?」
「彼には僕らの考えは分からないらしい……だから、LEO君あとはよろしくね。」
LEOは頷くと優吾の方へ向き直る。優吾はLEOと視線が合うと魔装をする前にLEOへ質問をする。
「お前は人間だろ?なんで、あんな人間を襲う魔族に加担するんだ?」
「俺は、彼らの指示には従っていない。あくまでマスターの指示に従っているまでだ……」
「あいつら以外に誰かいるのかよ?」
LEOはその質問に答えず無言で闇の魔力を棒状に変えてそれを武器として優吾へ迫った。優吾はLEOの速さに追いつけず、紙一重でその攻撃を手に持っている剣で受け止める。そして、互いに一度距離を取る。
「企業秘密ってことか?」
LEOは優吾を睨むと魔装をする。黒い鉄の塊が宙へ舞うのを見ると、優吾も同じく魔装をする。優吾の周りにも鉄の塊が宙へ舞う。
「「魔装」」
二人は詠唱すると互いに拳を固め拳をぶつけた。互いの鉄の塊は互いを相殺しながらそれぞれへ突き刺さり鎧の形を形成した。
「
「
互いにぶつかった拳に力を入れ押し通そうとするが、黒い鎧の方が力が圧倒的に優吾を上回っている。優吾は力で敵わないと悟り再度距離を取る。LEOは距離を取られると間髪入れずに優吾へ距離を詰め、第一班の四人が追いつけない速度で優吾を掴み真っすぐ投げ飛ばす。
「優吾君!」
「琉聖さん!俺は大丈夫です!とりあえず…………」
ドップラー効果で声が聞こえなくなっていった優吾に星々は小さくなっていく優吾の姿を一班を引き連れて追いかけた。
Kブロックから距離が離れた廃工場の方角へと飛ばされた優吾は上から追ってきたLEOに踏みつけられながら背中が地面に叩きつけられる。
「ごふっ……」
LEOは踏みつけた優吾の腹にさらにちから力を込めて踏みつける。優吾はその足をどけて抜け出す。そのまま距離を置き、背中に携えた剣を鞘ごと構える。LEOはそれに対するように闇の魔力を剣の形にして構える。LEOは一歩を踏み出し切っ先を優吾に向かって突き出す。優吾はLEOの切っ先を剣で受け流そうとするが、LEOはそのまま剣を横へ振り、優吾を凪腫らう。優吾はそのまま横へ飛ばされると、廃工場内のドラム缶の山へ突っ込む。
「くっそ…タイミングが…………」
ぐったりとした優吾の頭にドレイクとドラゴの声が聞こえてくる。
『少年。
『いけるさ。兄貴が言うなら』
優吾は、フラフラと立ち上がり剣を真横に持ち鞘に手をかけ抜刀の構えをする。LEOは優吾のその行動を見るとすぐさま先ほどと同じ速度で優吾へ迫るが、優吾が剣を鞘から少し抜くとその魔力があふれ出す。その魔力に気おされ、LEOは吹き飛ばされる。優吾はゆっくりと抜刀し詠唱する。
──────邪を絶つ我が剣、その身に刻め
完全に抜刀すると同時に白い鎧へ剣の龍気がまとわりついて行く。その龍気は飛龍の形になると、優吾を包み込みその鎧の形を変えた。まとわりついた龍気を振り払うと、英雄の力を宿した魔装戦士が現れた。
「
全身が紫になった鎧の頭は龍を連想させる形となっており、凄まじい魔力を放っている。優吾は溢れ出る力を噛み締めるように手のひらを見る。
「これは、今までの魔装と格段に違う…………力があふれてくる。」
LEOは優吾の魔力を見て、魔力の刃を両手に携えた。
「どんな姿になろうとも、関係…ない。」
そのまま距離を詰めてくるLEOだが、優吾はただ待ち構える。だんだんと距離が迫る中、LEOの剣が届く範囲まで来る。優吾はその間合いを見ると抜刀していた剣を縦に構えてLEOの双剣を受け止める。そのまま、剣を縦にゆっくりと降ろすと、LEOは剣の魔力で再度優吾と距離が空いた。LEOは格段に強くなった優吾に刃を消し、拳を構える。優吾はそのままゆっくりと歩き出し、剣を構えなおす。優吾のゆっくりな動きにLEOは拳を解放し手のひらに魔力を溜める。最初に打った魔力弾をまた作ろうとしているようだ。優吾はLEOの様子に余裕そうにゆっくりと歩いてLEOとの距離を詰める。LEOはそんな優吾へ溜った魔力弾を至近距離で射出する。射出された魔力弾は当然、優吾へ迫るが優吾はその魔力弾を腕で振り払う。振り払われた魔力弾は空高く飛び空中で爆発する。LEOは魔力弾の攻撃は無謀と判断し、拳を握り、素早く優吾へ叩きつける。優吾はその拳を剣で受け止めLEOを切り付けるが、LEOはその攻撃をよけ、素早く動き優吾を翻弄する。拳を当てれば、その場を離れまた距離を詰めて拳を当てる。ヒット&アウェイの戦略をする。そんな攻撃が続くが、優吾は動じない。だが同時に素早く動いて攻撃を仕掛けたいとも思っていた。
『ドレイクモードは動きが遅い代わりに魔力と力が強くなるが……龍化にはもう一つモードがある…少年。もう一個詠唱してみろ。』
優吾は剣を鞘にしまい、腕と平行になるように腕にくっつける。
──────魔を打つ我が拳、その魂に叩きつける。
「
剣が紫に輝き優吾の両手へ吸収されると、魔力量が異常に減少し始める。そして、先ほどとは違う蛇龍の龍気が現れ優吾の体に巻き付く。そして、二度目の龍化魔装。龍気を振り払うと優吾の両手には龍型の「
「やめとけ。もうそんな力残ってないだろ。」
LEOは無言で拳を突き出すが、やはりその拳は力なく優吾の鎧に当たるだけだった。優吾はその拳を手に取り、膝を付いたLEOと目線を合わせるようにしゃがむ。
「人間なら、こんなことはもうやめてくれ。」
LEOはなおも無言で優吾を睨む。そんな時、二人の頭上から何かが迫ってきた。優吾は、LEOをかばいながら避けると、降ってきたのは銀色の使徒の3人組だった。
「LEOくんを回収しにきたよ~」
優吾はギンロをにらみつけるとLEOを自分の後ろに下げる。
「バカか。渡すわきゃねぇだろ。こいつは人間だ。」
「そりゃ残念だ。でも、回収して来いって言われてるからな……」
優吾はギンロの殺気に押しつぶされないように鎧のモードを切り替え、剣を手に持つ。
「こいつが欲しけりゃ、俺を倒してからにしな…」
「はぁ、気は乗らないけど……君がどうしてもっていうなら、僕も少し本気を出そうかな?」
優吾とギンロは視線をぶつけたまま互いににじり寄っていった。
34:了