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第3話 手紙


 私が深く長く思考し決意と覚悟を決めるまで、ラビは静かに待っていた。


 数分だろうか、数十分かもしれない。


 そして……


「ラビ、使命を行う意志と覚悟が決まったよ」

『了解しました、全力でサポートいたします』

「よろしく」


 その言葉と共に朝焼けの青空を見上げた。


 薄暗い林は夜明けの時間だった。


 気が付かない間に太陽は上り、朝日が照らす明るい世界に変わっていた。


 草木は湿り気を帯び朝日を受けて輝いていた。


 その世界に私は立ち、青空と草木の雫が輝く世界を見渡す。


 悲しくなる程に綺麗な世界だった。


 膨大な人を殺すと、残酷な決意をしたのに、世界はこんなにも綺麗な舞台を用意するなんて。


 涙が一筋零れていた。


……

…………


 私が落ち着くまで待っていたラビが話し始める。


『日本の初代ダンジョンマスターから攻略本と手紙が有ります。


 手紙は、゛肩車をした小さな少女へ、お兄さんより゛


 肩車ができる小さな少女と言われる程、小さい少女はサクラしか居ません。

 他の女性は全員背が高いです。

 この少女はサクラですね?』


 衝撃的な言葉に目を大きく開けてラビを見て答える。


「は、はい! 絶対私です!

 まさかお兄さんから手紙が届くとは思わなかった!

 ください!」


 答えると共にラビの前に封筒と紐閉じした書類が浮いていた。

 封書には、゛肩車をした小さな少女へ゛

 書類には、゛日本のためのダンジョンマスター攻略本゛

 と書かれていた。


 震える手で封書と書類を手に取る。

 書類を左脇下に押さえて、封書を両手で見る。

 裏には゛お兄さんより゛と書かれ、その下に小さく。


 ゛身長、約130センチで小学生低学年みたいな少女。

  合言葉は私の最後の言葉「◯こうで◯って◯そう」゛


「ぐぐぐーー、小さいですよ私は!

 でも17歳ですからね!

 それにラビ! 合言葉聞いてないでしょ!」


『いえ、130センチの身長はサクラ以外居ません。

 他は全て150以上です、20センチも違います。

 合言葉を聞く必要がありませんでした』


 私はプンプン怒りながらもわくわくしながら封書を開け手紙を取り出す。


 近くの木陰に行き、幹を背にして座って手紙を読み始めた。

 ラビも私の近くにフワフワと着いて来て隣にいる。


 実態が無いのに触れる不思議は無視、いえ気がついていないだけ。


 タイトルに゛君に感謝を゛で始まった手紙。




ーーーーー お兄さんの手紙 一枚目 ーーーーー



        君に感謝を



 地上に降りた時、目の前にあるダンジョンコア以外何も分からないだろう、私もダンジョンコア以外分からなかった。


 そして、コアAIと会話が始まる。


 いろいろな事実、驚異の内容、使命の非常さ、今後に必要な行動、ノルマとして強制される内容、等々多くの事を話した。

 その間、君のとの言葉を思い出す。


 『日本の未来を守りたい』 君の望み。

 『向こうで合って話そう』 君との約束。


 私の親族や友人との繋がりの記憶が消え、私の個を特定する記憶も消えた今。

 不安定な私にコアが一方的に提示する目的とノルマが襲う。


 しかし、君との約束が私を支えた。

 君に会うため生き続ける、何が最良かを常に考え行動を始めた。


 しばらくして……


 この世界に君がまだ来て居ないことを知った。

 君と会うことが困難であることを知った。

 君との約束が守れないことを知った。


 私の目標の一つが消え、生きる目標しか残っていない。


 時がたち……


 生き続けるためだけに人を殺すのは難しい、とても難しい。

 とても、とても、とても、とても難しい。


 精神が混乱し、混乱し、混乱し、混乱し。

 モンスター暴走を行い、無差別に大量KPを稼いで、私も特攻して殺しまくろう、と破滅を望んでしまった。


 その時、君の言葉を思い出した。


 『日本の未来を守りたい』


 君の望みだ。


 無差別大量殺人を繰り返して、日本人を間引きして人口が1/10になったら日本が壊れてしまう。

 君の望みを私が壊してしまうと気が付いた。


 私は君の望みを叶えたい。

 そのために深く深く考え、アイデアを試し、対策を実行した。

 もう不安定な私は消え前に進んでいた。


 そして、『日本の未来を守りたい』が私の真の目的となった。


 真の目的を持った私は、困難な目標を成すための行動が生き甲斐になり、生きる希望となった。


 そして、次代のダンジョンマスターに向けた。


 【日本のためのダンジョンマスター攻略本】


 を作った。


 君は私の心を救った。


 心から、ありがとう、最大の感謝を君に送る。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



 一枚目を読み終わった時点で、ぼろぼろと涙を流し過ぎて次が読めなくなっていた。


 私が死亡したのはダンジョン災害が発生して数年後、幾つもダンジョンが破壊されたのを知っている。


 私は日本の157代ダンジョンマスター。


 ここに攻略本が有る。


 だから、お兄さんはもう居ないと理解してしまった。


 私は攻略本と手紙を胸に抱えこみ。


「お兄さん、お兄さん、お兄さん、うわーーーーん」


 大声で泣き始めた。





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