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第6話 私、主人公してるよね


 日が昇りワゴン車の中にサンサンと輝く光が降り注ぐ。

 眩しさに刺激され、「うーーん、眠いーー」と呻きながらゴロリと日陰に逃げる。

 でも意識は覚醒する。


 目を薄っすらと開け起き上がり「うんーーーーん」と延びをする。


「おはよーー、ラビ」

『おはようございます、サクラ』


「今日もがんばるぞーー」


『一週目のノルマはクリアしましたが、ダンジョン維持費がまだ足りません。

 KPを稼いでください』


「うぐ、さすが有能秘書、分かってます」


 ドアを開け外に出て大きく伸びをする。

 朝の涼しい空気をお腹いっぱい吸い込んで吐き出す。


「よし! ラビ、死体の処理はどうするの?」


『死体は吸収して魔素に変換が基本です。

 装備品も魔素に変換か再利用です。


 良い機会なのでダンジョンの役割と機能の一部を説明します。


 この地球を魔素が豊富にある世界に変えるのがダンジョン使命の一つです。


 魔素は全宇宙に存在しますが、地球には1立方メートルに1つ有るか無いかの非常に希薄です。


 人間の意思が作用しても、自然界の熱運動エネルギーや電磁エネルギーに紛れて存在を確認する事は不可能です。


 その魔素を利用可能な濃度に、徐々に増やすのが目的の一つです。


 変換後の魔素はダンジョン管理領域に広く散布します。


 モンスターが倒された時もモンスターを構成する魔素が開放されて拡散し、その魔素が風や熱運動により世界に広まって行きます。


 魔素は体内に入り操作可能な魔素を魔力と呼びます。

 人間のLvや魔法やスキルは管理者が他の世界で作られた魔素利用技術を地球人類に適応する為に作られたシステムです。


 魔素利用システムは初めて魔物を倒した時インストールされ、以後、魔力を持って魔物を倒す事で魔素保有量が上がり最大保有量がLv数値として表示されます。


 魔素利用システムが体内に有ると、魔素を利用したスキル、肉体強化や魔力バリアーとしてのHPや魔法等が使えます。

 それらはシステム内に作られた機能です。


 ちなみに、サクラやモンスターは全て魔素で構成され、魔力量は多ですが使用可能魔力にはLvと種族により限界があります。


 死体以外の不要な物も分解して魔素に出来ますが、倉庫に入れて再利用がいいかも知れません。


 倉庫内にそのまま保存するか、分子や原子に分解して素材にできます。金や鉄が取れますよ』


「うおーーそんな事までできるんだ、驚愕です。

 ゴ、ゴミ問題が一気に解決!」


『申し訳ございません。

 使命に必要な最低限の分解はしますが、そうで無い物は大量のDPを要求します。

 KPを稼ぎまくっても足りないですよ、良いですか?

 それに欲を出し過ぎると、使命に障害と判断して消しますよ』


「怖、ラビの発言は冗談に聞こえない」


 思いのほか怖い話で鳥肌が立ちブルと震えた。


『ダンジョンの情報は必要な時々に説明しますが、それをどの様に活用するかはサクラの考え次第です。

 使命実行に金が必要なら金属ゴミから回収します』


「イエッサー、ラビ教官! お手柔らかにお願いします」


 直立になり敬礼しながら答えるサクラだった。


 その後ダンジョン管理領域の説明を必要と思われる部分のみ受ける。


 一通り説明が終わって。


「死体のダンジョン回収はどの様にすれば良いですか?」


『サクラの周囲にダンジョン領域を作り、指定の物をどうするか私に指示してください。

 ただしDPが無いので、KPをDPに変換してください。

 KPがまた減ってしまいますが、もともと危険域です』


「ではまず4KPをDPに変換して、私を中心に30メートル四方をダンジョン領域に」

『了解………… 完了』


 私は寝ていたワゴン車の横に闇収納から乗用車を出す。

 その2台の前に死体を8体出す。


「乗用車は倉庫に保存、死体は魔素に変換、死体の持ち物は私の前に出して」

『了解』


 その瞬間、車と死体がまるで地面に溶けるように沈み、その後私の前に6人の持ち物が下から浮き上がる。

 それは、まるで分類整理された状態で現れた。

 ダンジョン倉庫の機能がとても便利だった。


 聞くとラビが吸収物を全て解析して倉庫に分類保管しているとか。

 一般的な倉庫では無く、まるでデータベースの高次元分類の様な形で保管しているらしい。

 ラビが優秀すぎる。


 出てきた持ち物の中から車の鍵とお金、それを別の場所に移す。

 次に服を一枚一枚見たが大きすぎて駄目だった。


 そしてスマートフォンを手に取り、ネットで情報をと思ったが重大な危機に気がつく。


「ラビ、不味い! この場所がバレた。

 スマホの位置情報や時間がサービス元に記録された。

 行方不明の捜索で明るみになる。


 スマホの移動情報が無くこの場所に突然現れる、不思議事件の発生だ。


 この鍵とお金以外吸収して魔素に分解おね。

 それと、車の中にも盗難防止の位置通知装置やスマホが有るかも。

 通信機器があったら分解して」


『了解』


 一旦ワゴン車も調査のため地面に沈み、倉庫に収納されていく。


「当面はこれでいいか、車は何かに使えるかもと思ったけど活用は難しいかな、運転もできないし。


 しかし、ネットのサスペンス小説を読みまくって良かったーー。

 私、主人公してるよね。

 次は服が欲しい。ラビ、DPで服出せる?」


『問題ありません』


「では服一式と靴、小さめのバックパック、タオルとハンカチ、ウエストポーチ、かわいい財布3個お願い」

『了解』


 前の地面に指定の物が下から浮き上がる。

 聞くと、全て魔素で出来た何かだった。


 白い下着の上下の横に、空色の長袖セーターその横に、大きめの可愛い感じのパーカー、紺の膝丈フレアスカート、白のハイソックスに拳まである丈夫なベージュのスニーカー。


 そして、バックパック等があり。

 最後に可愛いい柄の小さな財布が3つある。


 服を着て靴を履けば、元気な少女の出来上がり。

 クルリと回って調子を見る。


「いい感じ!」


 お金は12万円程有ったので、財布1に2万入れてバックパックに、財布2に9万入れ闇収納に、残りを財布3に入れてウエストポーチに。


 車の鍵は闇収納に、ハンカチはウエストポーチに入れ腰にしっかりとセット。

 バックパックにはタオルと倉庫から出したお菓子とペットボトルのお茶を入れ背中に装備。


 これで移動準備は全て終わった。

 周りを歩いて見回し、何も無いのを何度も確認した。


 歩き回った跡や車の跡がある。

 背の低い草が全体にあるから、数日で消えると思うけど今消すのは無理だと諦めよう。


「ラビ、最長の転移を安全な場所におね」


『お待ちを、ダンジョン領域を解除してください。

 Lvを取得した人はダンジョン領域に入ると気が付き危険です』


「なる、ダンジョン領域解除で転移よろ」

『了解』


 一瞬で景色が変わるが森の中、方向が分からなかったりする。


「あと5回か、慎重に使わないとね。

 ラビ昨日行った場所と離れた街に方向教えて」


 ラビに方向を聞き、てくてくと歩き出す。

 もう全裸は卒業、どこに出しても普通の女の子、完璧です。

 しばらく歩いてお菓子を食べお茶を飲む。

 ふと、異常に気がつく。


「あれ、おしっこも大も出ないけど?」

『食べたのは全て魔素に変換しているので出ません』


「な、なるほど、本物のアイドル仕様になったんですね。

 アイドルはおトイレに行かない!」


 無駄なネット知識に汚染された頭でニコニコ喜ぶ。


「あれ、変換された魔素はどこに行くの?」

『マスターが消費する魔素以外は、コアの中にある亜空間に収納され不要な分を順次ダンジョン管理領域に拡散します』


「え! なら食べても太らないの!」

『はい』


「た、食べ放題だーーーーーーーーー 夢見たい」

『いえ、満腹感や食べ過ぎた苦しみが有るので無理かと。

 それに、限度を超えた食事の欲望はサクラを消しますよ』


「サー、イッエッサー。ラビ教官の指示に従います!」


 雑談をしながらてくてくと歩いて行く。


 数時間歩き、森が終わると遠くに町並みが見え道路が見え始める。

 そしてふと気がつく。


「ラビ、魔素の拡散は誰かに気づかれない?」


『移動で濃度差が大きく違うと、感のいい高Lv保持者に気が付かれますね………………


 普通のダンジョンでは広い範囲でとても薄い濃度差なので気が付かれません。

 まして、モンスターが死ぬと多くの魔素を拡散する。

 その濃度差が大きいのでモンスターの戦った場所が分かるだけです。

 ダンジョン内で戦わない限り魔素でダンジョンが見つかる事は無いです。


 しかしサクラの場合魔素の薄い場所に移動するし、直接戦うので吸収分解も多いですね…………


 分かりました、吸収した魔素の自動拡散を中止し魔素倉庫も拡大します。

 いつ拡散するかは相談しますね。

 良いですか?』


「さすがラビ、そこまで対策できるとは凄いです。

 ウフフフ、魔素拡散で陽動に使える。

 逃げる方法が増えた! やったね!」


 事前に危険要素が消え奥の手が増えたサクラは、ニコニコしながら街に向かうのだった。


 街中に入り、見かけた人に本屋の場所を聞き本屋に向かった。

 本屋では全国地図と北海道の地図を買い、店員にインターネットカフェの場所を教えてもらう。

 インターネットで情報収集だ。


 道に迷いながらも繁華街に入り、商店の人にインターネットカフェの場所を聞き、到着する。


 インターネットカフェの個室に入り刑務所の情報を探す。

 刑務所の一覧と場所の地図をプリンターで印刷。

 行動は深夜だ。


 情報を入手したので刑務所の場所を確認するためにインターネットカフェを出る。


 少し遠いが市内見物も兼ねて歩いて向かう。

 ダンジョンマスターのためか体の疲れはほとんど感じない。

 だが元人間なので精神的疲れが出てしまう。


 適度に休みつつも刑務所に着いた。

 近くにあるデパートに入り喫茶店の最奥に入りジュースを頼んでゆっくり椅子に座る。


 ダンジョン管理領域の説明は以前に受けていた。

 その監視視点を使って刑務所の内部調査をする。


(ラビ、ダンジョン管理領域視点の映像と音声出して)

『了解』


 私の頭の中に、まるでドローンで空中撮影した様な映像と音声が入ってくる。

 目を瞑り映像に集中する。

 そして、私自身を前から見下ろしていた。


(この私は小さすぎて小学生低学年の幼女に見える。

 腕細過ぎだし、色白すぎだし、黒髪ストレートの撫子少女?

 私の外見を直接見た、これ小さ過ぎない?)


『ええ、あの空間に呼んだのは17歳以上70歳以下。

 これほど小さい人は居ませんでした。

 サクラが動かず黙っていれば、とても可愛い少女です』


(グザッ、刺さったし、心の中の独り言に反応するなし)

『了解』


 ラビの酷い評価に泣きながらダンジョン管理視点の移動練習をする。


 私が行きたいと思った場所、見たい場所にドローンが飛んでいるように移動できる。

 元々リトルダークエレメントとして無自覚に飛んでいたので、飛ぶように移動するのは違和感が無かった。

 その場所に居るように見聞きできる。


 この監視視点はダンジョンを管理するのに最適だと思えた。

 ただし常時見れないのが欠点だ。

 ラビに任せられないかな?


(ラビ、管理領域の監視とか調査は任せられる?)

『出来ます』


(そう、お願いした時はよろしくね)

『はい、ダンジョン階層管理が無い分、処理が余っていますので要件を指示してください』


(では、私がマークした場所覚えて転移先等によろ)

『了解』


 始めにのデパートの天井や屋根の隙間で人が入らない場所を数か所マークする予定。

 それを深夜までの待機場所にしよう。


(ラビ、睡眠の範囲を広げたいんだけど?)

『DPを使って睡眠のLvを上げてください』


(じゃ、KP4を変換してDP有るだけ睡眠Lv上げおね)

『またKP1とDP最低になるのですか…… 私のアラームが鳴り止みません。

 しかし必要な事、了解です』


 結果、睡眠(高)Lv3/10となり、半径600メートルの指定範囲かつ72時間以下の時間指定睡眠になった。

 今の所、この睡眠に抵抗できる人間は居ないと思われる。


 しかし睡眠が掛かった数秒後に強い衝撃や状態異常解除魔法や解除アイテムで起こせる。

 すごい性能の割に、強く叩くだけで解除できる微妙な魔法であり、取得に必要なDPも少なかった。


 ピーキーに磨きがかかったとラビがブツブツ言っている。


 ダンジョン管理視点で私が飛ぶように移動する。

 まずは、デパートの壁の中や天井を突き抜け、誰も入らない場所を探す。

 良い感じに固いコンクリートの隙間を発見マークする。

 ねんの為飛び回り数カ所マークする。


 私のダンジョン管理領域は半径2キロ、此処から刑務所全体が入っている。

 デパートを出て刑務所に向かう。


 時間をかけて刑務所のすべての場所を調査。

 管理棟や監視場所、牢屋や独房など十数ヶ所をマークする。

 転移のためでなくラビに憶えてもらうためだった。



 長い時間の調査が終わり、喫茶店を出て寝具売り場に向かう。

 布団一式と枕を買ってトイレに行きデパートの潜伏場所に転移。

 コンクリートの床に布団を敷いて横になる。


(ラビ、何も無ければ深夜1時に起こして)

『了解しました、おやすみなさい』



ーーーーーー



(マスターダンジョンコアに定期報告。


 今回もコアの危機アラームは鳴り続けている。


 しかしマスターの行動は、使命を積極的に行う意思と行動を示している。


 危機アラームは無視し、マスターの自主性を優先する。


 また、マスターの種族及び性能は、防御が無く、攻撃もデス魔法のみ、防御と攻撃の使役モンスターも無い、コアも無防備。

 とても特異な設定であり、今後の観察が重要であると付け加える。


 以上報告を終わる)


 サクラの寝顔を見ながら。


(おやすみサクラ、良い夢を)と願う。





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