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第7話 これからが本番


『ピピピ、ピピピ、サクラ起きて。

 ピピピ、ピピピ、サクラ起きて』


 頭の中に響くアラーム音は轟音で、半端なく叩き起こす。


(お、起きた、起きたから止めて!

 そのアラームは酷すぎ!)


 頭の中に響くアラームに意味も無く両耳を押さえて起き上がるサクラ。


『おはようございます、サクラ』


(ラビ、その起床アラーム弱くして、大き過ぎて頭がガンガンする)


『了解、徐々に強くなる設定に変更します。

 今は深夜の1時です、転移回数は6回に回復しました』



(おはようラビ、今日で3日目だよね、攻略本見せて)


『む、時間的にはまだですが、日にちは3日目ですね。

 どうぞ』


 私が読むために実体化したお兄さんの攻略本を受け取り、その表紙を何度も撫ぜてから読み始めた。


 所々【禁則事項】と消してあったが、読めば読むほどお兄さんの分析力に驚かされ、各種実験結果と対策や方針が具体的に書かれていた。

 その苦悩の大きさと苦しみと悩みを切実に感じた。

 涙を流しながらも全て読破する。


 胸に攻略本を抱きながら静かに涙を流していた。

 さあ、次は私の番だ。

 お兄さんに負けない仕事をしよう。



(もう作戦開始時間ですね、はぁーー、この内容はきつかった)


 気を取り直して作戦準備を始める。

 実体の攻略本を持ち歩くのは危険のため、ラビに消してもらう。

 攻略本は黒い霧になって消えた。


 ラビに聞くと魔素で作られた紙のような何かで、分解で魔素になり周囲に拡散したのだった。



 靴を脱いでバックパックに入れ、ウエストポーチもバックパックに入れる。

 布団は購入時の大きなバックに枕と共に入れる。


 座った状態でパペットドールの憑依を解く。

 ガシャリと人形が床に崩れ落ちる。


 木製のデザイン人形に服を着せた姿で崩れていた。

 とても間抜けな格好だった。


 ふと自分を見ると憑依した時の服装になっていた。

 ただし、透明に近い薄い黒の半透明。

 胸の中に真っ黒な球体、ホーラー映画そのものの幽霊です。


(この状態で壁抜けできる?)

『元々ダンジョンコアに実体は無いので、問題ありません』


 良かったと言いながら布団のバッグとバックパックとパペットドールを闇収納で回収する。


 手ぶら状態になり【インビジブル】の魔法をかける。

 この魔法は、インビジブルLvより低い探知魔法や各種探知に非感知になり、目視や匂い、気配も消える。

 体を見ると少し薄くなった状態だった。


(ラビ体見えるけど?)


『外部からは見えません、自身が見えないと行動が不便ですよ。

 それと他の魔法を使うとインビジブルが解除されるので注意してください』


 了解と言いながら空中浮遊で移動してみる。

 壁に向かって進み、壁に手を入れると何も抵抗なく壁に手が入る。

 続けて顔が壁に入ると視界が闇になり抜けると普通に見えた。


 そのまま進みデパートの外壁を出ると、十数メートル上空にいた。

 下には街頭に照らされた4車線の道路と歩道が見える。

 落ちる! と体が固くなったがそのまま浮遊していたので安堵した。


 自身の体が見える空中移動は、管理領域視点のドローンの様な移動と違い本当に高い所に居る感覚があり驚いた。

 これは練習して慣れないと不味いかな。


 前を見ると壁に囲まれた刑務所全体が見える。

 ダンジョン管理領域の監視視点と同じだった。


(さて、これからが本番!)

『KPのために頑張ってください』


 ラビは情緒が無いなーー、と言いながら刑務所中央に向かって飛んでいく。


 中央の地面に立ち、刑務所全体を対象にした【範囲8時間睡眠】に続き【インビジブル】の魔法をかける。

 十数秒待ち、もう一回掛けるかなーーと言いながら【範囲8時間睡眠】【インビジブル】を掛ける。


 そして受刑者の場所に飛んでいく。

 牢屋のフロアーに着き。


(このフロアーの牢屋にダンジョン領域おね)

『ダンジョン領域を作るDPが足りません』


(え!?)と茫然となる。

 さっきDP使い切ったんだ、アセアセ。


(わかりました、先ずはKP稼ぎます!)


 と言って壁を抜けて牢屋に入り【デス】、次の牢屋に行き【デス】を繰り返す。

 インビジブルが消えて暗い中、黒い人形の影に胸の中の黒い球体が浮遊して動いていた。


(よし、稼いだKPを変換して、このフロアーの牢屋にダンジョン領域おね)

『了解………… 完了』


 ダンジョン領域に【範囲デス】を行う。


(ダンジョン領域で死んだ死体は服ごと吸収して魔素に変換おね。

 生きてるのが居たら教えて)


『了解………… 完了しました、生者は居ません』


 その後ダンジョン領域を解除して次のフロアーに行き、同様に広範囲を纏めて処理しKPを稼ぐ。

 次の建物に行き同様に処理する。


 個室や独房等離れた場所も事前調査で分かっているので、全てを処理する。

 不明な部屋は【インビジブル】して直接行き受刑者を目視確認して処理する。

 明るい部屋に入った時は驚いて硬直するが、多くのモニターの前で寝ている職員を見て安堵した。


 もちろん守衛や職員は処分の対象から外している。


 数時間で全ての作業が終わり、【インビジブル】を行い森に向かって全速で飛んでいく。



ーーーーーーーーーーーー



 午前5時には森の奥に着き、安全を確認して木陰に座った。


「終わったーーーー 緊張した!」


『おめでとう御座います。

 ダンジョンを作ってから最短時間で累積1000KP達成、最高記録になりました。

 2位とは予想を超える差がついています。

 試験期間中のレコード達成は初めてです。

 報奨として大量のDPが贈与されました。

 このレコードは記録されます』


「え、レコードなんてしてるの、それに記録って」


『レコードや記録は試験期間が終わった、全ダンジョンマスターに公開されます』


「なな、なんだってーーーーーーーー」


 叫び声えが夜の森に響き渡る。


『個人名は出ません、157ー23279の個人番号が有るので問題ありません』


「157って157代目だよね? 23279とは通番?」


『157は日本の代番号、23279はサクラの識別番号でランダムにふられます。

 サクラの番号は、試験期間中ですがレコード記録のために正式に157代と識別番号が振られました』


「まあ個人名が無いならいいか。

 よし、KPもDPもたくさん使うぞ!」


『ダンジョン維持費は余裕を持って残してください。

 そして危機アラームを止めてください』



 ラビと相談した結果、今回の贈与DPと変換DP分で色々変更する。


 ダンジョン

  転移20回/日


 種族 ハイダークエレメント   Lv1/20

     (上位闇源精霊、リトルの2っ上)

     (闇や影に潜り移動可能)

    変異型パペットドール(世界樹の木製)

     固く物理と魔法防御が高い。

     付与系魔法に親和性が最高。

 物理耐性、魔法耐性の中LV1をパペットドールに付与、パペットドールの防御を超えた攻撃が私の防御に当たる二段防御。

 パペットドールが壊れると憑依が強制排除。


 魔法

  インビジブル(高) Lv1/10

  闇収納(小)    Lv10/10(接触で単体収納)

  物理強化(中)   Lv1/10

  魔法防御強化(中) Lv1/10(魔法防御)

  眷属(小)     Lv10/10(20の眷属可、他者を使役する最大数)


 ラビが評価し始めた。


『特化でピーキーなのは変わりませんが、パペットドールに入った時の防御が良いですね。

 殴っても殺せ……ゴホン、小学生程度の力では無理でした。

 まあ、普通の剣ではほぼ傷も付かないし、銃等の飛び道具に怯えなくていいですね。

 これで、現代兵器のはほとんどが効果が最小です。

 銃では物理的なノックバックが起こる程度、大砲が直撃すると物理衝撃で吹き飛ばされパペットドールのHPが減る程度です。

 ただし魔力の入った攻撃は剣でも弓でもダメージが入るので注意してください』


 次に私は使役モンスターを作る。


「私の下位最小のモンスターで憑依可能なの有る?」


『リトルダークウィスプが半透明の小さな闇の玉で、空中を浮遊移動し壁も透過するモンスターです。

 Lv1の状態ではLv1未満の者しか憑依できない。

 憑依しても何かする能力を持っていません。

 普通の人が強く叩く程度で霧散して死にます。

 攻撃力もありません、人を惑わすぐらいです』


 その後、ラビからリトルダークウィスプの仕様を細かく聞く。


「いいね! それにデス(小)Lv3と睡眠(小)Lv3を習得出来る?」


『闇と黒魔法に親和性が有るので、その低いLvならDPを使えば出来ます』


「よし、LVを持っいない人は睡眠Lv3で1時間睡眠、デスLv3で3時間後の死呪い、うまくいく。


 今から小さいダンジョン領域を作って、魔法を2つを習得したリトルダークウィスプを500召喚、必要DPはKPを変換して使用で」


『よく分かりませんが了解です』


 私を含み、前に7メートル四方のダンジョン領域ができ、数えられない程の重なった召喚魔法陣が現れた。

 その全てから小さな半透明の闇の毛玉の様なものが浮き上がる。

 私の前に多数の闇毛玉が分散して立体的にふわふわと浮いていた。

 とても幻想的な光景に見入ってしまう。



ーーーー



 今から始めるのは、70歳以上で生命力の弱ってる人を処分することだ。


 お兄さんの攻略本を読んで、地域に一定のKPが無いと判断した時、ダンジョンの数が増えるとある。


 実際、ラビに聞くと隣国の清中共産主義国家(以後精中共と略)が対処を誤り、初期は14ダンジョンだったが、今は国中に約380もダンジョンが出来ている。

 他の国も増えてる。

 日本が最も増加率が低いそうだ。

 お兄さんの攻略本効果が凄い。


 当初は1国に1ダンジョンと、人口が多い所は約1億人に1ダンジョンが出来た様だ。

 地球全体で100程度できると思う、今は数千を超えても不思議は無い。


 清中共は対処が後手後手となり、核も使用された。

 核はダンジョンとモンスターにあまり意味が無く、環境を破壊するだけなのに。


 攻略本とラビ情報から。

 ダンジョンモンスターは魔素で出来た生物の様な物。

 もちろん私もダンジョンマスターと言うモンスターだ。


 身体は魔素で出来ているため放射能の影響は無い。

 熱線も影響が無い。

 物理的衝撃を受けて飛ばされるが下位モンスター以外はダメージ程度。

 流石に爆発の近くなら物理衝撃で上位も死ぬらしいが。



 そして核が使用された地域はKPが少なくなるためダンジョンがより増えてしまう。

 尚かつ、ダンジョンが汚染されて人間が入れないため、破壊できないダンジョンになってしまう。


 まさに後手後手のパレードだ。


 現代兵器が効き辛いのは、魔素で構成されるモンスターにダメージを与えるには、魔力(魔素)を元にする攻撃が必要だからだ。


 モンスターを倒すには魔素の保持Lvを上げ、魔力の籠もった攻撃が必要、現代兵器に魔力は籠もっていない。

 魔法は魔力その物、だが熱線や放射線に魔力は無い。


 核は魔力を元にした攻撃では無い。

 使って初めて気が付くだろう。

 清中共は、対処を誤れば国政が危機になる。

 日本も対処を誤れば崩壊する。

 その前に私が対策する。


 日本はお兄さんの攻略本に予防方法が書いてある。


 日本のダンジョンマスターになった人が守ったから、日本にダンジョンが少ない。


 身を切るような苦しい思いで間引きをしたのが分かる。

 だから私も、日本を守るために間引きをする。


 地獄に落ちてもいいから、死ぬ人を選ぶ決断をする。



ーーーー



 目の前には多くのリトルダークウィスプが浮いている。

 今から指令を行う。

 全ては私の意思で行う。


「リトルダークウィスプのみんな、今から最重要な指令を伝える。

 必ずやり遂げて欲しい、いや君達ならやり遂げられる!


 70歳以上の生命力が弱い老人に対して、夜間に寝ている時に憑依し、身体の中から催眠魔法を行い、その後デス魔法をかける。


 デスが掛れば3時間後に死ぬ。

 それまで憑依したまま、目が覚める前に中から睡眠をかける。


 死ぬ時に消える生命力を吸収しLV上げに使う、そして次のターゲットを探す。


 目的の老人以外は攻撃するな、逃げろ。


 昼間は隠れて過ごし夜に活動しろ!


 君達にしか出来ない事だ!


 ダークウィスプに進化したら私の所に戻ってこい!


 指令を遂行しろ!


 行け!」


 ぶわーーーーとリトルダークウィスプが散って行く。


 結果、寝ていた老人が死んでいく。

 サイは投げられた。もう後戻りはできない。


 私は全てのリトルダークウィスプが消えるまで見ていた。




 余韻が消える頃、ラビが話す。


『想像もつかなかった方法です。

 称賛に値します。


 リトルダークウィスプが数十人程処理し生き残ればダークウィスプに進化するでしょう。

 催眠のLvも上がり、デスのLvも上がる。


 素晴らしいです』


 私はうつむきながら。


「やめてくれ、褒められたくない、やめてくれ…………」


 その場に座り込み、両膝を抱えて頭を落として泣き始めた。



 たとえ記憶を操作されようとも、初期の精神操作が有ろうとも、他の記憶から理論的思考から罪という結果と付随する感情を導き出すのは難しくない。


 私は理論的考察から、今やってしまった結果に悲しみ涙する。


 目的のためには最良の手段を行う決断をした、大量の人を殺す覚悟もした、犯罪者に情をかけることは無い。

 でも、今のは明らかに何も罪のない人がターゲットだった。

 いくら覚悟を決めようとも、現実に行動するとリアルな罪が私を襲い、感情が大きく揺れる。


 ラビに、精神誘導の権限があるのも理解できた。


 この感情を消した方がいいのか、罪の罰として苦しむ方がいいのか、私にはわからない。




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