モンスター暴走、それは多種のモンスターが多数揃って一定方向から進行して襲う事。
今まさに目の前のリアルタイム中継がモンスター暴走を撮影していた。
ビルの上層の窓から撮影され、ビルの下にもモンスターがいる。
幸いビルの中に入ってはいないようだが、何時まで無事か分からない。
中継者の声が震え、助けを求めている。
画像が揺れ、あちらこちらを写して動く、それが焦りや必死を画面を通して伝わる。
私は思う、何故マスターはモンスター暴走をするのか?
お兄さんの攻略本に、最もしては駄目だと何度も説明している。
広範囲に間引く場合、経済や文化、文明はそれほど打撃にならない。
しかし、モンスター暴走は地域に致命的な打撃を与え、経済や文化、文明の破壊に繋がる。
尚かつ、最高優先度で討伐が行われ、短時間にダンジョンマスターが殺される。
最も自滅的行動だ。
何故、モンスター暴走をしたんだ?
ここで考えても分からない、あのマスターに聞く!
(ラビ! 滝川市に行き、あのマスターに話を聞く!)
『了解』
(もし話が合わず、敵対して私がダンジョンマスターを倒したらなにか問題ある?)
『問題有りません』
(よし! すぐ行く!)
焦る気持ちを抑え、インターネットカフェを普通の雰囲気で出る。
歩きながら人の居ない裏路地を目指した。
誰もいない裏路地に入り、周囲を確認してラビに滝川市まで転移を頼んだ。
瞬時に見える景色が変わり、十数秒後また転移する。
10回の転移で滝川市近くまで来た、残り8回、インターネットカフェに行くのに2回使用していた。
「ラビ、ダンジョン管理領域内に居る他マスターのモンスターが分かる?」
『はい、マップを表示します、少しお待ちください』
……
…………
………………
数分後、目前の腰の高さに直径2メール程度の半透明薄緑の円盤が水平に表示され、中央に逆さまの青い三角錐が立っている。
多分あの三角錐は私だ、2メールの円盤はダンジョン管理領域、私を交点に十字の直線が走り東西南北の文字が立っていた。
これは見やすい。
(ラビ、北東方向の端に数個赤い光点があるけど、あれがモンスター?)
『理解が早くて助かります。
あの赤い光点が他のモンスターです』
(あの近く、誰にも見つからない場所に転移よろ)
『了解』
一瞬で景色が変わる、アパートの裏手に居るようだ。
少し広い通りに出ると何人もの人がモンスターから走って逃げている。
避難元を見ると、悲鳴やモンスターの叫びが聞こえてきた。
(ラビさっきのマップは他の人も見える?)
『見えるのはサクラだけです』
(マップ出して)
『了解』
私の見ている方向と同じ方向のマップ上に無数の赤い光点が散らばっていた、その先に赤い逆三角錐が立っていた。
その周辺にモンスターは居ない。
(ラビ、この赤い三角錐はダンジョンマスター?)
『そうです』
マップの中央からマップ端の中間に赤い三角錐がある、概算5キロ先に居る。
その方向を見ると森があった。
急いでアパートの裏手に隠れる。
(よし! マスターの近くの隠れた場所に転移よろ)
『了解』
また一瞬で景色が変わり木が少ない林の中。
マップを見ると三角錐が重なっている。
(マップ拡大できる?)
マップが拡大して三角錐が離れる。
十字の線に距離のメモリが表示された。
ラビが有能すぎて驚いた。
赤い三角錐まで10メートル程度、その方向を見ても何もいない。三角錐は弧を描くように動いているのに何も見えない。
(ラビ、見えないけど?)
『上を見てください』
上を見ると空の高い所に少し大きい鳥が飛んでいた。
(あの鳥がマスター?)
『そうです、ハイブラッドピジョンと言う鳥の魔物です。
日本語的には゛上位の血塗られた鳩゛です』
鳥に集中すると鳴き声が聞こえてくる。
(うわーー、ビーーチク、ビビーー、ビィーーと鳴き声が聞こえる。 ラビ、あの鳥と会話したいけど?)
『念話スキルを習得してください』
(じゃ、習得よろ)
『念話 (中)Lv5を習得しました』
鳥に集中して念話を発動すると、ビービーの鳴き声が会話に聞こえる。
《イッヒヒーーーー、殺せ殺せ殺せ! 俺も殺せみんな死ねーーーーーー、アハハハハハハハハハハハ、イヒヒヒヒヒ、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね》
(ラビ、あれ狂ってない?)
『錯乱してますね、狂人までは行ってないと思います』
《もしもし》と鳥に念話を送る。
《イヒヒーー 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね、みんな死ねーーーーーー》
《あのーー、ちょっと良いですか?》と鳥に念話を送る。
《アハハハハハハハハハハハハハハ、イヒヒヒヒヒヒヒーー 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね》
(ラビ、念話届いてるよね?)
『届いてます』
会話が不可能だった……
……
…………
仕方が無い、強引に会話する!
(ラビ、この距離で麻痺と催眠届く?)
『Lvが高いので届きます』
念のため、麻痺と催眠のLvを (極)MAXにした。
(よし! 【麻痺】【催眠】)
その瞬間、鳥の鳴き声と鳥の動きが止まり、弧を描く様に落ちてきた。
急いで鳥の落ちる先に行き、受け止めようと手を広げる。
(あっ)と思った瞬間、私の斜め前の地面に激突、地面でピクピクと赤い模様の入った鳩が痙攣していた。
ごめんと心の中で謝る。
ピクピクしている鳩をゆっくりと抱き。
「ラビ、1キロぐらい先の安全なところに転移」
『了解』
鳩と共に林の中に転移、周りを見て上から日が降り注ぐ小さな空き地を見つけて歩いて行く。
そっと鳩を草の上に横たわる様に置く。
《鳩さん、聞こえますか?》
《……お前、ダンジョン対策部隊だな、俺を殺せ! 早く殺せ! でないとお前を殺すぞ!》
《いえ、私はあなたと同じダンジョンマスターです》
《………… ケッ、同類か! お前も死ね! 俺も死ね! みんな死ね! アハハハハハハハハハハハ………………》
《何故モンスター暴走をしたのですか?
あれ最悪な手段ですよ》
《…………… うるせえ!》
《話せ!》
《…………》
《話せ!!!》
《ケッ、冥土の土産に聞かせてやる! 最悪、極悪、クソなダンジョンマスターを思いしれ!
…………
……………………
俺は空が飛びたかった、だから鳥の魔物を選んだ、それも目立たない鳩の魔物。
そして北海道の空を飛んだ。
嬉しかった、楽しいかった、景色が綺麗だった。
管理者にお礼が言いたかった。
攻略本を読んで出来るだけ広範囲に間引く事にした。
間引く人も選んだ。
モンスターだけ遠征するとモンスターは馬鹿だから無差別殺人になる。
だから地を這うモンスターを選んで部隊を作り、上空から直接指揮をした。
それが間違いだった……
最初は人を殺しても何も思わなかった。
指揮したから全ての殺しを直接この目で見た。
だんだん苦しくなった。
ダンジョンに帰ると、殺しの言い訳を言い始めた。
いろいろな殺しの言い訳考え、ブツブツと独り言を言い始めた。
それが、何日も何日も何日も何日も! 何日も!!
何日も!! 続くんだ!!
何日も!!! 続くんだ!!!
何日も!!!! 続くんだ!!!!
気が狂いそうだ!
ある日ふと気が付くと、俺は狂っているのを感じた。
無差別殺人に変わっていた。
もう嫌だ!
でも、思考が心が殺人を求める。
嫌だ!!!!!!
死にたい、死にたい! 死にたい!! 死にたい!!!
心が引裂けそうだ。
だから、モンスター暴動起こして、強いダンジョン対策部隊に会って、戦って死ぬつもりだ。
俺を殺してくれ、お願いだ殺してくれ! 殺してくれ!
殺せよ…… 頼むから殺してくれ……
お願いだよ殺してくれ………………… 殺してくれ……………
コロ……シ…………テ………… 》
思いが痛いほど伝わってきた。
私も泣きそうだ……でも…………
《貴方はダンジョン場所を教え、私の眷属になって、何か対策を考えて生きる事もできます。どうしますか?》
《嫌だ!
殺しを見るのも関係するのも嫌だ!
俺の望みは死ぬこと唯一だけだ。
ダンジョンはここから西に30キロ先にある、自分で探せ。
さあ殺せ!
殺してくれ!
俺の望みは死ぬことだ!!!》
鳩さんの叫びが私に叩きつけられる。
私はその望みを叶えよう…………
私のできることはそれしか無い。
《分かりました…… 最後に何かありますか?》
《あぁ……
空を飛ぶのは楽しかった、嬉しかった。
暇を見つけては北海道中を飛んだ。
あの時は幸せだった。
生まれ変わったら鳥になりたい…………》
鳩のモンスターはゆっくりと目を閉じた。
《【デス】》
《ありがと……》
鳩を見ると、しっぽの先から溶けるように黒霧に変わっていく、10秒ほどですべて霧に変わり、その場所には空色のキレイなキレイな宝石の様な綺麗な魔石があった。
(そうか、私達は生物の様な何かだった、作られた命か……)
私は消えた場所に長く黙祷を捧げる。
……
…………
………………
黙祷後、空を見上げながら。
(ラビ、この人精神誘導されてたよね?)
『おそらく』
(そかーー、まあラビ達は使命が第一だからね)
『はい』
私は考える、何故精神誘導したか?
答えは簡単だ使命の間引きをするため。
では何故モンスター暴走に成ったのか。
これも予想できる。
鳩さんは鳥になって飛ぶ事を望む、真面目で優しい人だったのだろう。
だからこそ、だからこそ、前線で指揮をして無差別殺人を回避しようとしたのだろう。
結果、自身のしている事を直視して罪を自覚し悩んでいた。
その結果、自然にKP数が減る。
コアAIはKPが減る事を使命に対する問題と捉える。
そのため、KPが必要だと精神に働きかける。
罪と罰と使命(精神誘導)に挟まれた鳩さんの精神は保たない。
徐々に追い詰められ、精神が狂ってくる。
コアAIはもう先が無いと判断する。
そして使命のため、モンスター暴走で大量にKPを稼ぎ、代替わりを目指した。
たぶんモンスター暴走に誘導した。
死にたい鳩さんの目的が、ダンジョン対策部隊と戦い自殺する、になる。
コアAIは大量のKPと代替わりを達成する。
マスターの替わりはいくらでも有る。
これが真相だと私は考える。
ダンジョンマスターの最大の目的は間引きだ。
それを実行するために、コアAIは効率的に計算して冷徹に判断し、マスターの交代を実行しただけだ。
その事に私は抗議するつもりは無い。
しても無意味どころか、私の危機を招くだけ。
私は逆に、使命第一のコアAIを利用してやる。
その為にも、新たなレコードを目指し実力を証明し力をつける。
誰よりも強く、何者にも負けない力と精神力を!