黙祷を捧げた場所にある綺麗な魔石を優しく両手で包みながら拾い闇収納する。
戻るためにマップを出した。
そこには無数の赤い光点が有った。
(ちょ! ラビ! モンスター消えてない!)
『ダンジョンが生成したモンスターが消えるのは、ダンジョンが消える時です。
今から約24時間後です』
(えっ、24時間もこのまま!)
『はい』
(何とかならないの?)
『ダンジョンコアをサブダンジョンコアにすれば、ダンジョンが初期化されダンジョンとモンスターが消えます。
注意点として、従属したサブダンジョンコア(以後サブコアと略す)が増えた分、ノルマが増えます。
サクラのKP増加量では、一つ増えた程度では何の問題も無いでしょう』
(よし、サブコアにするよ!
西30キロに連続転移よろ)
『残り2回になりますが良いですか』
(よい! やれ!)
私は少しだけラビが嫌いになってしまい、言葉が命令調になってしまった。
良くない事だと思いながらも変えられない……
景色が十数秒毎に3回変わる、ここも森の中、周りを見渡したが何も見つからない。
(ラビ、ダンジョンの場所分かる?)
『はい、ダンジョン管理領域内であれば分かります。
しかし、半径10キロのダンジョン管理領域内にダンジョンが有りません』
(まさか嘘だったとか? 無いと思う。
探す方法ある?)
『ダンジョン管理領域を広げるか転移回数を増やして探す方法があります。
管理領域を広げると共に少量の転移回数を増やすのが妥当でしょう』
(よし、管理領域を半径100キロに、転移回数を30回にして)
『転移移動の探索で100キロは私の能力を超えて出来ません。
位置固定のダンジョンなら可能です。
半径30キロが限界です。
30キロでも瞬時に探査はできません。
探査条件によって数秒から数十分の時間が借ります』
(えっ! じゃ半径30キロと転送回数30回で)
『大量のKPを使用します、良いですか?』
(よい)
『了解、KPをDPに変換してダンジョン管理領域拡張と転移回数を増加します』
……
…………
………………
『管理領域にダンジョンが見つかりました。
北北西約16キロにあります。
西30キロと言っていましたが、少し北よりだった様です』
(そうか、死ぬ前に嘘は付かなかったんだ。
ダンジョン前に転移よろ)
『ダンジョン周辺にモンスターは居ません、転移します』
転移した先は山に挟まれた谷の様な場所で深い森に覆われていた。
周囲にモンスターの気配も人の気配も無く、遠くから鳥の鳴き声と風に揺れる枝葉の音が聞こえる場所だった。
周囲をよく観察すると、山の斜面に草木で覆われた暗い場所があり、近くによって見ると隠された横穴がある。
横に3メートル縦3メートルぐらいの横穴だった。
初めてダンジョンの入口を見た。
ダンジョンが破壊されると入口も消えるため、生きているダンジョンの写真は私が生きている時は出回っていなかった。
今は写真や動画があるかも知れないが、ネットで探さなかったなと思い出す。
今更だがダンジョンの事もよく調べるべきだったと思う。
私のダンジョンは入口が無いし、日本や北海道の状況とダンジョン対策本部関係ばかり調べてた。
よし、今度はダンジョン自体の情報をもっと調べよう。
自身に【物理強化】【魔法防御強化】の魔法をかける。
ダンジョンに一歩入った瞬間、ゾクリと心が震え異質な空間に居ると訴える。
これが他のダンジョン領域に入った時の感覚なのかと感心する。
この感覚がLv保持者が理解する感覚だと思う。
私のダンジョン領域を出して放置できないな、バレバレだ。
(ラビ、この中のマップ出せる?)
『他のダンジョン領域のマップは出せません、転移も不可能、インビジブルも使えません、注意してください』
おぃ! 今の発言、出来るけど出さないって言ってるのと同じだよ。
きっと転移もやらないんだろ、クソーー、ルールに頑固なAIめ。
(転移や消えて逃げるのも無理か、ショックすぎ)
もっと守りを固めないと、もっと逃げる方法を考えないと、転移で逃げるとずっと思っていた。
転移封じ怖い。
攻撃は………… いや、正面戦闘はコアを体内に持つ私には向かない。
正面戦闘をする時点で負けかなと。
やはり当面は、逃げるの最強を目指す!
ソロリ、ソローーリとこわごわダンジョンを歩き始めた。
通路は薄暗いがダンジョンマスターには問題無い。
物音一つなく、静寂だった。
ある程度進むと通路が十字路に入る。
左右と前に道がある。
右を進むがまた分かれ道に、右手手法で進むがモンスターの気配が全く無い。
どんどん進むがまた別れ道に。
うん、これ迷路だよ!
(ラビ、通った道のマップは書ける?)
『はい』
(よし、マッピングおね、前に出して)
『了解』
腰の高さに30センチ四方の半透明な青い板が水平に出て、入口からマッピングされた地図が出る。
現在地に私のマーク、青い逆三角錐が立っていた。
まるでゲーム画面の様に、ラビが優秀だった。
マップの歩いてない道を埋める様に慎重にゆっくり歩き始める。
しばらく歩き回り。
まて、定番の探査魔法が有るはず。
(ラビ、ダンジョン探査魔法は無いの?)
『有ります』
「先に言ってくれーーーーーーーー」
ダンジョンの中で大声で叫ぶサクラだった。
『マスターの行動や判断が最優先です。
基本マスターの行動以上のサポートは有りません』
がっくりと肩を落とすサクラ。
前に提案してたじゃないかとブツブツ言い始めたサクラだった。
『基本です。
初期は説明や指摘をします。
初期に何もしないのは使命にとって障害です。
しかし、既に試験期間は終わり、マスターが自身で考え行動してください。
私に質問しなければ応答や提案も有りません。
以上、文句は受け付けません』
膝と両手を地につけ頭を下げ、orz表現で最大限のガックリを体で表現するサクラ。
「じゃ、探査魔法最大でお願い!」
『探査(中)Lv1を上限習得しました。
これが現在の上限です。
仕様は、視線が通る距離で200メートル、通らない場合半径10メートルです』
「小さ、小さすぎ! ラビ! 落として上げて落として、私で遊んでない⁉」
あまりの小ささにダンジョンで役たたない上限に呆れた。
『いえ、この制限が無いと、多くのダンジョンは簡単に攻略されます。
今は必要な制限です』
納得できる回答に、大きくため息を出して地面に倒れる様に横になる。
『サクラの中にコアが有るからオートマッピング出来るのです、それだけでも有利ですよ。
ダンジョンマスターでもダンジョン対策部隊でも、ダンジョン攻略は同じです』
返す言葉が無い…………
ガバッと起き上がって、よし諦めて走る!
あの人死ぬつもりだったから、すべてのモンスターは暴走に出してる。
居ても私は固い!
きっとすぐに逃げれる。
「ラビ! 私は走る! モンスターが居たら教えて」
『了解、サポートします』
走りに走って、壁に激突してまた走り、罠に捕まって藻掻き、通った全ての罠を踏み、壁に寄りかかって休み、そして走り、何回も足止めされ、道に迷って走り、疲れて歩き、クタクタになりながら数時間でダンジョンコアルームに到着した。
モンスターはやはり居なかった。
予測通りで良かった。
目の前には高さ1メートルの台座の中央、20センチほど浮いた白銀に光るダンジョンコアが有った。
「サブコアにする方法は?」
『ダンジョンコアに手を当てて【サブコア宣言】と発言。
10分間その状態を維持出来ればサブコアに成ります。
サブコアになるとダンジョンとダンジョンが生成したすべてが消え、ダンジョンコアが休止状態に成ります。
実際にやってみてください』
「よし、やるよーー」と言ってダンジョンコアに右手を当てて【サブコア宣言】と言った。
頭の中に《サブコア宣言が発動されました10分お待ちください》とアナウンスが流れる。
……
…………
「暇だ。
ラビ、これ10分間手を当てたまま待つだけ?」
『はい、離したら最初からです。
普通はマスターやモンスターの妨害が有るので10分の時間を作るのは大変です。
理想は先にマスターとモンスターの駆逐でしょう』
「なるほど、敵対的なら相手以上の戦力がいるね。
尚かつ自身のダンジョンも守らないといけない。
単純に2倍以上の戦力がいる。
いや、ここは相手のホームグラウンド、4倍以上いるか。
攻めに3倍、守りに1倍。
うーーん、ダンジョン征服も簡単じゃないな」
『今回は実質、百数十対1のサクラ一人でダンジョンを征服しました。
リトルダークウィスプを数えると、数の上では数十倍の戦力ですが、リトルダークウィスプが全て居ても意味がほぼ無いです。
あの低いLvの睡眠とデスではモンスターに効果ありません』
「なるほど、今回はラッキーですね。
しかしダンジョン征服は正面戦闘が必要かーー、悩む」
……
…………
雑談をしていたら頭の中に声が聞こえる。
《サブコア化が終了しました。ダンジョンをリセットしてサブコアを休止状態に移行します》
ダンジョン全体が振動してゴゴゴゴゴゴと音が響く。
コアルームの入口が消え、何も無い石壁のコアルームに変わる。
サブコアの光は消え、水晶玉の様な透明の球体になった。
「わぁー、初めての経験、それに入り口が無くなった」
『この部屋は一時的なサクラのダンジョン領域です。
上に半径1キロの一時的なダンジョン管理領域が有るので転移で外に出れます。
この一時的なダンジョンは24時間後に消えるか、外に出ると消えます』
「なるほど、ここでのんびりしてても誰も来ない安全地帯ですね、あーー疲れた。
ミッションクリアだ! 夜だ! 寝たい」
『24時間寝れます。24時間経ったら強制排出されます』
「ラビ、日が昇る頃に起こして」と言って透明なサブコアを闇収納し、コアルームにワゴン車を出して寝た。