起きた時は夕方だった。
「トウカのダンジョン管理領域は半径30キロ、近くの町や駅が入ってる。
ダンジョンから何時でも電車に乗れるように、駅周辺で転移できる場所を調べよう。
ついでに夕御飯にしよう」
「畏まりました、お嬢様」
トウカに抱っこされ、転移で山の麓に移動し歩いて街に入る。
その足で駅まで行き、周辺を歩きながら転移場所をマークした。
転移時にはコアのダンジョン管理領域調査で安全を確認して転移する予定だ。
マーク後ファミリーレストランを見つけ夕食を食べ、ダンジョンに戻りワゴンで就寝した。
翌日、山の全体の調査と周辺各街、各駅、各施設を巡り配置を覚える。
忙しく歩き回ったため、休息期間と決めホテルに数日泊まりのんびり観光をした。
夜はホテルの部屋に1メール四方のダンジョン領域を作り、トウカのサブダンジョンコアルームに転移しリトルダークウィスプを各地に送り出す。
その後ホテルの部屋に転移で戻り、部屋のダンジョン領域は消去する。
移動に関して、体内ダンジョンコアはチートだと実感する。
リトルダークウィスプの出す数はネットの情報を見ながら適度と思う数にした。
時が経つにつれ徐々に進化したダークウィスプが帰還する。
帰還数はまだ少ない、討伐された数が多いのか、進化に時間が掛かっているのか。
状況を見ながら放出を増やそうと思う。
……
…………
十数日間、調査と言う名の休暇をした。
十分休養をしたので次の行動に移る。
ネットの情報は岐阜、名古屋、豊橋、浜松に広がるモンスター被害。
3県にまたがる被害の広さ、このダンジョンマスターも頭脳派である事がわかる。
「トウカ、十分休暇したので行動するよ。
まずは、東北地方、関東地方、モンスター被害エリア以外の中部地方の刑務所、暴力団、各街を順次処理するよ。
次に岐阜、名古屋、豊橋、浜松に広がるモンスター被害のダンジョンを制圧する」
「畏まりました」
翌日早朝から行動する。
東北地方の残した場所、関東地方全体と中部地方の一部を数週間かけて巡る。
刑務所の襲撃、目についた暴力団の襲撃、各街でリトルダークウィスプの放流を行う。
たまにパチンコ屋で少量の金銭を貰う。
関東の刑務所に行くと、ダンジョン対策本部の対策部隊が警備していた。
北海道、東北と刑務所が襲撃されれば防衛もするだろう。
東北に無かったのが不思議だ。
もしかしたら居たかもしれない。
インビジブルで消えて侵入、突然に高Lvの麻痺と催眠の魔法だから、居た事を気が付かなかった可能性もある。
今回は遠くから麻痺と睡眠を掛け、ダンジョン管理領域視点で刑務所内を隈なく確認し、問題なく効いた場合はいつもの手順で処理。
効かない人が居たら即離脱して逃げる。
まだ、ダンジョン対策部隊に対峙するつもりは無い。
巡回中の食事はレストランや喫茶店等々で美味しく頂きました。
やはり、携帯食や毎回冷めた弁当は美味しくない。
宿泊はホテルでたまにワゴン車。
以前の旅と比べ快適でとてもいい、保護者のトウカ様様です。
ホテルに泊まる時は適度に名前を替えた、同一名が襲撃地の周辺ホテルに有ったら簡単にバレるしね。
地方ではラブホテルに泊まった。
壮年の男性と幼女、事件発生なので私は遠くから転移でトウカの部屋に入った。
部屋に入って見回すと妙な豪華な部屋にちょっと遊んでしまった。
エッチではないよ、純粋にはしゃいだだけですが何か?
1ヶ月ほどで各地の処理が終わる。
ーーーーーー
「よし、明日朝から現場に向かうよ、最初はダンジョンの探査から行う」
「畏まりました、お嬢様」
「電車を使い東から入り、移動中もダンジョン管理領域の探査を予定。
浜松、豊橋、名古屋、岐阜と、普通電車を乗り各駅で降りてゆっくりと調査するよ」
「はい」
今回は転移でいきなり相手のダンジョン管理領域に入るのを防ぐため、人口の多い地区を電車で巡る。
トウカの時は考えていなかったのは内緒です。
結果、やはりモンスターは見つかるがダンジョンは見つからなかった。
その日は岐阜に泊まり前日の探査位置、電車の路線から20キロ外側に転移、前回の探査エリアに10キロの余裕持ってその先の20キロを探査する。
20キロ横に移動して探査、繰り返し探査済みエリアを広げていく。
結果、多数のモンスター遠征グループを見つけるがダンジョンは無かった。この日も探査エリアの拡張で終わった。
ホテルでトウカと相談する。
「探査エリアが広い上に、倍々に探査エルアが広がるし、探査時間がかかるしとてもキツイ、トウカは何かいい案ない?」
トウカは上を向いて考え。
「そうですね………………
遠征モンスターを捕まえて念話で聴く、駄目なら遠征モンスターを順次倒して来る方向を手繰っていくのがいいと思います。
無差別殺人も防げますし」
「いい! それとてもいい、明日からそれで行こう!」
翌日、昨日見つけたモンスターグループ付近に転移。
探査で森の中にいるモンスターグループを見つけ、背後に転移して【範囲麻痺】【範囲睡眠】。
モンスターが倒れたら強そうなリーダーと見えるモンスターを起こして念話で尋問する。
『何処から来た?』
『タケル様の命令だ! 何も話せない!』
おふ、既にマスターの名前言ってるよ。
タケル? 随分勇者っぽい名前だ。
『何処にダンジョンが有る?』
『タケル様の命令だ! 何も話せない!』
その後何を聞いても同じ答えが帰ってくる。
他のモンスターに聞いても同じだった。
「お嬢様、私が尋問します。
体に聞く尋問ですがいいですか?」
「うん、お願い、私の攻撃はデスしか無いので殺してしまうし」
トウカが拷問じみた打撃を行い、色々な揺さぶりをかけて尋問する。
それを繰り返してはボロボロになったモンスターを魔素にして次のモンスターへ。
たが答えが変わらない上、尋問を理解していない様な気がする。
しかし、トウカの尋問は下手なヤクザ顔負けの尋問だった。ちょっと怖いよ。
これ以上何を聞いても情報は出なかった。
「お嬢様、どうやら知能が低いと思います」
「うん、見てて分かった、プランBにする」
トウカが私の隣に並ぶと【デス】をモンスターに当て、1秒後に黒い霧になって消え魔石が落ちる。
魔石を回収して、次のモンスターを探し再度尋問してみるが全て同じだった。
ダンジョン生成モンスターはマスターに完全な忠誠を持っているようだ。
そして、色々揺さぶっても発言が変わらず頭が悪い。
その後、遠征モンスターを探しては処理し、昨日の位置の差分や進行方向から来た方向を割り出し、その方向に転移して遠征モンスターを探し処分を繰り返す。
そして、確実にダンジョンに向かってモンスターが収束していく。
日が沈みかけた頃、遂に探査範囲にダンジョンを見つける。
「トウカ、ダンジョン見つけた!」
「やりましたね、お嬢様」
「剣ヶ峰の近くとは遠すぎだろ!」
「ですね」
「転移使い過ぎて残り少ないし疲れた、明日の朝ダンジョンに行こう」
「はい」
転移で遠くに戻りワゴン車を出し夕食を準備した。
トウカと雑談しながらのんびりと食べる。
夜も遅くなった頃、ワゴン車で眠る。
日が昇ると共に目を覚ました。
まだ早すぎるので、周囲を散歩して自然を楽しむ。
その後トウカが準備した朝食をのんびりと食べた。
「トウカ、交渉という名の脅迫を始めるよ」
「了解です」
片付けをしてワゴン車を闇収納。
トウカに抱っこしてもらい、まずダンジョン手前28キロに転移、ダンジョン周辺を観察。
周囲にモンスターもマスターも居ない、近づいて安全だ。
ダンジョン手前1キロに転移、この時点で私が来たのを知るはずだ。
降ろしてもらい二人でダンジョンに向かって歩く。
山の裾野にあるダンジョンの入り口が遠くに見えると、ダンジョンから続々とモンスターが出てきた。
ゴブリン、コボルト、オークの集団とその進化モンスター。
それを見ながら、ゆっくりダンジョンに歩いて行く。
モンスターは私達を囲む様に横に広い鶴翼の陣形を形成する。
概算300体ぐらいか。
私は小さな声で。
「トウカ、退避と言ったら抱っこよろ、転移で逃げる」
「了解です」
トウカは何時でも抱けるよう、斜め後ろに移動。
ダンジョン入口に布陣しているモンスターの手前10メートルで止まる。
後ろだけ空いた全周包囲に近い陣形の中、大きな声で。
「こんにちわ! お話しませんか?」
ダンジョン前にいるモンスターが両脇に移動して通路ができる。
その通路の奥から身長約140センチの小さな子供が歩いてきた。
頭の両サイドに太く巻いた角が斜め前に突き出ている。
髪は黒髪でザンバラツンツンだった。
顔は可愛い子供顔で黒目、背にはコウモリの様な翼が左右に1メートルほど広がり、静かに揺れていた。
服装はいかにも悪魔を表す黒、金の縁取りと模様がある。
背中にはなぜか黒いマント、きっと翼の分が切られているだろう。
マントが静かに揺れている。
私は思わず「ちいさ!」と言ってしまった。
「お前の方が小さいだろ! 俺は大人だ!」
「私、17歳ですよ」
「ふっ、勝ったな、俺は20だ!」
と言って、腰に両手を当て胸を上げ勝ち誇る。
「え、何で小さいの?」
「悪魔族を選んだら、長寿で20歳は子供だっただけだ!
そんな事はどうでもいい。
マスター一人とモンスター一匹で何しに来た!」
確かにトウカは私のモンスターになったんだった。
しかし、リアクションが面白いタケル君です。
緊張が溶けそうです。
「私の配下にスカウトに来た」
「お前バカか、小娘が最強ダンジョンマスターである、大悪魔アモンに勝てると思っているのか!」
え? モンスターから聞いた名前と違う。
「あれ、タケル君じゃないの?」
「おま、その名前誰から聞いた!」
「捕まえたモンスターのリーダーが言ってたよ」
「なんだと! 最近KPが増えないと思ったら、お前のせいか!
タケルは秘匿された名前だ! 真名は大悪魔アモンだ!
転生して生まれ変わった最強のダンマスだ!」
これは、噂にきく中二病、20になって中二病!
痛い子でした。
緊張が裸足しで逃げ出した。
これ、どうしよう?
「うーーん困ったな、配下になる気無い?」
「当たり前だ!」
「戦う事になるけどいい?」
「俺は負けん! お前こそ俺の配下になれ!
お前は横のモンスター1匹しか居ないだろ、俺の管理領域は広い、全てバレてるぞ!」
「仕方ないなーー、戦闘で危ないからタケル君はコアルームに逃げてね! 撤退!」
トウカが素早くわたしを抱っこし8キロ後方に転移、私を中心に1000メートル四方のダンジョン領域を作る。
これは、敵のダンジョンマスターが近くに転移する奇襲攻撃の予防と敵のダンジョン管理領域視点で監視の妨害のため、私のダンジョン領域を展開する。
トウカに向いて相談してみる。
「あの子、絡め手で倒しても負けは認めないよね?」
「ですね、正面から叩き潰さなとだめでしょう」
「正面戦闘は嫌いなんですよ。
はぁーー、仕方がない、正面から叩き潰しましょう」
私は肩を落として正面戦闘を決めた。
ーーーー
ダンジョン領域にタケル君のモンスターより上位種族で、人間並に知能の高いモンスターを召喚する。
ウェアウルフキング 1
ウェアウルフロード 10
ウェアウルフリーダー 100
ウェアウルフ 500
ハイピクシー 20 回復や異常解除等
ハイダークウィスプ 20 偵察用
丈夫なロープ 100
鉄製杭 100
ハンマー 100
音声拡大の魔法を覚え大きな声で命令する。
「ウェアウルフキングは私の横に!」
ウェアウルフキングが走って来て横に立つ。
「ウェアウルフロードは私の前に横10メートル間隔でこちらに向き並べ!」
ウェアウルフロードが10メートル間隔で並ぶ。
「ウェアウルフリーダーはロープ、杭、ハンマーを1つずつ持て、
その後、ウェアウルフリーダーはロードの後ろに10名ずつ横に並べ!」
ウェアウルフリーダーが荷物を持ちロードの後ろに並ぶ。
「ウェアウルフはリーダーの後ろに5名縦に並べ!」
リーダーの後に5名のウェアウルフが整列。
「ウェアウルフリーダーの荷物は後のウェアウルフに渡せ」
リーダーの荷物を後ろに渡す。
「ハイピクシーとハイダークウィスプはそれぞれウェアウルフロードの横に2名ずつ並べ!」
ピクシーとウィスプがロードの両脇に並ぶ。
「各自、綺麗に並んでいるか確認!」
ロードやリーダーが注意しながら綺麗に隊列を作る。
「これから、みんなにダンジョンを攻略してもらう。
そのチーム編成が現在の隊列だ。
リーダーと後ろ5名、計6名が最少のチームだ。
リーダーが指揮して連携行動を行え。
ロードは後ろ10チームの指揮をしろ。
ロードの横に並んだハイピクシーとハイダークウィスプはロードの指揮に従え。
ハイピクシーは回復や状態異常解除等のサポートをする。
ハイダークウィスプは闇に潜り偵察任務をする。
最後に、私の隣にいるキングが全体を指揮し、私の軍団としてまとめあげろ!
怪我や異常があったら、戻って回復しろ。
前方が不明の時はウィスプが偵察しろ。
キングとお前たち全員が協力し、最小の被害で最大の効果を出せ!
お前達の活躍を期待している!
お前達なら出来る!
戦だ気合の声を上げろ!」
私が手を上げて叫ぶと共に、地を揺さぶる咆哮が上がる。
何度も咆哮が上がる。
「静まれ!
最上位注意点、コアルームには入るな、ダンジョンマスターは捕縛しろ。
魔石が有ったら回収して終わった後、私に渡せ。
最初に行うのはダンジョン前の制圧だ。
制圧後、ダンジョン前でキングとロードが攻略の相談を行い、キングの指揮で攻略を行え。
私は後方に控える。
何かあったらキングを通して相談しろ!
よいな!」
ウェアウルフたち全体を見渡し。
「では敵ダンジョンに向けて出発だ!!!」
おーーーーと言う轟音と共に、私はダンジョン領域を解除して、攻略するダンジョンに向かう。
私の右にトウカ、左にキングが並び歩き始める。
その後ろに600以上のモンスターが続く。
ダンジョン前には50ほどのモンスターがいた。
「ダンジョン前を制圧しろ! いけーーーー」
ウオーーーー、と雄叫びを上げて駆け出すウェアウルフ達。
1分程度でダンジョン前を制圧する。
種族が上位のため、抵抗らしい抵抗が出来ない。
「後はキングに任せる! 頑張れ!」
ダンジョン前には、キングとロード、ピクシー、ウィスプが集まり相談を始める。
それを見ながら後方に戻り、ワゴン車をダンジョンに向けて出す。
私は助手席、トウカは運転席に座りモンスターたちの様子を見る。
「トウカ、こんな感じで全面戦闘だけど、どう?」
「内部が分からないので、何とも言えませんが。
私がこれをやられたら、即座に降伏します。
なんと言っても、上位種族の集団に、最上位までいて連携された軍団。
単体だけでも強いのにその軍団は泣けます。
今ごろコアルームで青くなって震えているかもしれません」
「攻略に数日掛かるかな、降伏するかな?」
「人となりが分からないので、何とも」
「まあ、のんびり待ちましょう」
トウカは少し考えて。
「傭兵も丸投げには感心しました、お嬢様らしい戦略です」
「私、正面戦闘は嫌いだし、多分苦手だから出来る人に任せただけ、か弱い少女は前に出ないの」
「その判断が良いと思います」
「だからトウカも常識的知識が少ない私のサポートお願いね」
「畏まりました」
「常識を外れた奇策なら、私に任せなさい!」
と言って、むふーーと無い胸をはる。
キングがこちらをチラと見た後、2チームがワゴン車の周囲に並び警護を始めた。
「トウカ、ウェアウルフキングが優秀な件について」
「これは凄いですね」