目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

第24話 今は過去になり死人は増える


 応接室にに着き、ソファーに私とアサカ、テーブルを挟んでトウカとタケルが座る。


 アサカは背中を椅子に付けず垂直に伸ばし、脚は綺麗に隙間無く揃え、その上に両手を揃えて座る。

 まるで、完璧な姿勢で座る優秀なエリートオフィースレディだった。


「まず紹介する。

 隣に座っているアサカが元四国のダンジョンマスターで、現在私の眷属になった」


 アサカは両手をももに綺麗に揃え、深々と腰を曲げて頭を下げ。


「ご紹介頂きましたアサカです。

 サクラさんには命の危機を助けて頂きました。

 感謝と共によろしくお願いいたします」


 何この威圧すら感じる礼儀正しさは、異色だ! これでは雰囲気が飲まれかねない。


 トウカは普通、タケルは動揺、私は困惑。

 いやいやいや、こんなのは私の望みじゃない。


 心の底から直感で理解した、アサカの持つ礼儀正しさや威圧、アサカの持つ人側の倫理と正義は、人類の敵であるダンマスにとって害悪だ!


 人殺しをするダンマスに人類の常識を当てはめると破綻する! 苦悩する! 破滅する!


 新人ダンマスだからと見逃すつもりも無い。全力でで矯正する。駄目なら元の場所に放棄する、たぶん死ぬだろうが構わない。


 私は、アサカの常識を破壊する!!!




「アサカ!!」


 私の強い呼び掛けにアサカはビックとして私を見る。


「何処かのOLか?」

「はい、私は◯◯企業の秘書を長年務めてきました」


「大企業に長年か、優秀でエリート秘書だろう。

 KPは稼いでいたか?」

「はい、生きるためにノルマだけしていました」


「人殺しは悪で嫌いか?」

「はい、本当はしたくありませんでした」


「攻略本は読んだか?」

「読みました」


「KPを稼がないと日本にダンジョンが増えて問題になると読んで、最小か?」

 アサカは俯いて。

「読みましたが、したくなかったんです」


「おまえが作ったダンジョンがどれだけ危険な場所か理解して作ったのか?」

「……いえ……」


「人殺しが悪で嫌いなのに、安易にモンスターを解き放って人殺しをしたのは何故だ!」

「……………」

 より俯いて答えようとしない。


「お前の言葉と行動は軽い、軽すぎる。

深く考えずにダンジョンの場所を決め、人殺しが嫌だと言いながら、安易にモンスターを近くに放ち人殺しをした。


 私が来たとき、後ろから逃げない様に強く抱き締めて泣きながら助けを懇願した。

 動けないので強引に逃げようと思ったぞ。


 私の問いにも当たり障りの無い回答を出し、答えたくない質問には無言で俯くだけ。


 ダンマスの状況理解が無く、思考が全て軽く浅はかだ!


 人類の一員なら問題無いが、私達は使命を持ったダンジョンマスターで人を殺す人の敵だ。


 もう一度いう、人を殺す人の敵だ!!!


 なのにまるで人の優等生な気持ちでいる。

 人を殺す怪物が人の様な優等生で許されるわけが無い!


 甘ったれるな!!!


 人から見れば、お前は怪物だ!!!」


 殺すような視線でアサカを見る。


 数秒後、上を向いて落ち着き、前を向いて静かに話し始める。


「私は知っている。

 生きる為だけに人を殺す苦悩を受け、今にも崩れ落ちそうな時に、日本のため、次のマスターのために立ち上がり、貢献を上げ管理者から攻略本を配布する権利を勝ち取った人を。


 私は知っている。

 使命の為に人殺しが必要なら、せめて殺す人を選びたいと、モンスターと一緒に遠征して直接指揮をとったマスターを。

 その結果、心を壊してしまい死を願い、死んだ人を。


 今のアサカはあまりに甘すぎて使えない」


 だめだ、悲しみでアサカに怒りが湧いてきた。


「使えないダンマスだ。

 KP最小がどれだけ日本に害を与えるか気がついてない。

 そして、簡単に見つかって殺されかける。

 早く見つかり日本の糧になって死んだほうが価値がある。

 このままダンジョン対策部隊の前に放り出してどうなるか観察し、情報を得るほうが意味があるか」


「止めてください」


 と言って体を引き、自身を両手で抱き震える。

 トウカ、タケルに助けて欲しいと、悲しい目線を向ける。

 どうすれば助かるか考えた、実に素晴らしい行動だ。

 だが、私は許さない。


「私の言った意味が分からないのか?」

「分かりません!」

「そうか…………」


 しばし目をつむり考え、トウカ、タケルをみる。


「トウカ、タケルも聞け」

「畏まりました」

「はい」


 私は立ち上がりテーブル横に進み、振り返って3人を見る。

 その瞳には、強い決意と意志が乗る視線を向ける。


「私は、管理者に会った空間で、背の高いお兄さんに肩車をしてもらい、誰よりも高い位置で全体を見渡した。

 そこには何処までも頭の波が有った。

 前も後ろも右も左も頭の波の上には空しか無かった。

 何万、何十万、何千万人居るかも分からない。

 それら全てがダンジョンマスター候補だ。

 何故それ程多く居るのか?」


 ゆっくりと3人を見渡し、続ける。


「トウカは戦前生まれの65歳死亡で数十年前、タケルはたぶんダンジョン災害前に死んでる、私はダンジョン災害の数年後に死んだ。


 あの場所は時空の狭間。

 今の時間から過去数十年の死んだ人間から選別した死人が一同に揃う時空。


 そして、今は過去になり死人は増える。


 ダンジョンマスター候補は想像を超る数の上、いくらでも補充できる。


 何故か!!!


1、時間を使い、出来るだけ均等に世界全体に何百、何千、何万ものダンジョンで、少しずつ間引きするため。

 私達に出した表向きの使命だ。


 積極的に使命をしないと、どうなるか隣国や他国が示す様にダンジョンが増える。


 清中共は初期14ダンジョンだったが、今は国中に約380ものダンジョンが出来て、対応が後手後手になっている。

 ゆくゆく国の組織が機能不全になり、もっと酷い国内治安になる。


 日本には、苦しんだ末に作られた攻略本がある。

 そして、日本のダンジョンマスターが苦悩しながらも、積極的にKPを稼いだため、ダンジョンがあまり増えていない」


 話していると、想いがどんど高まってしまう。

 悲しみが、苦しみが、思いが湧き上がる。


「アサカ!

 お前は日本を隣国の様にしたいのか!

 お前は、死んだ日本のダンジョンマスター達の苦悩と努力を無駄にした!」


 私の強い敵意の視線に射抜かれ、アサカは震えていた。

 しばらくの沈黙の後、続ける。


「2、隠されたダンジョンマスターの役割がある。

 これは私の考察だが事実だと考えている。


 管理者は環境を修正する、と言っている。

 当初はダンジョンとモンスターが散布する魔素だと思っていた。

 しかし、これは環境の下準備だと考え始めた。


 では何の環境を修正するのか?


 人類がモンスターを倒すとLvを取得する。


 それは新しい世界に相応しい人類の修正ではないかと思い始めた。

 その最先端に、Lvが高く環境に適応したダンジョン対策部隊がいる。


 モンスターを倒すとLvを取得する。


 モンスターを倒しダンジョンを攻略するとさらにLvが上がり、ダンジョンとモンスターと魔素が有る環境に適応できる。


 そしてダンジョンマスターはまるで倒される様に準備される。

  悲しい事にダンジョンマスターは何も知らされずに降り立つ。


 ダンジョンマスターは人類の適応と強化のために、倒される道具として存在する。

 私は157代、あまりにも多くのダンジョンマスターが倒れている。

 世界では日本の比率以上に、更に多くのダンジョンマスターが倒れている。



 だから、あれほど多くのダンジョンマスター候補がいるのだ。

 人類の環境適応のために、道具として死にまくれと!


 もともと死人だ!!!」


 道具として使われ、使命と心の板挟みで苦悩するマスター達の苦しみを心の底から理解し、悲しみに泣く。


……

…………


「多くのダンジョンマスター候補が居るのが不思議だった。

 だが、裏のダンジョンマスターの役割であれば、何も不思議は無い。

 倒される道具として私達は存在する。

 それが疑問の答えだ!」


 私は涙を流しながら上を向く。

 しばらく上向いたまま無言で立ちつくす。


……

…………

………………


 顔を戻し、涙を手で拭いてアサカを睨みつける。



「アサカ!

 お前は最小の使命しか果たせず。

 日本のために経験値も提供できず。

 日本のダンジョンを増やすような事をして、のうのうとこんな所で生きている。

 せめて無能は死んで日本の経験値になれ!」


「以上、お前が理解していない事だ!

 トウカ、タケル、

 この甘ったるい女の常識を破壊して使える女にしろ。

 私は寝る」


「トウカ、これを読ませろ」

 お兄さんの手紙を出して渡す。


「考察は他にも多くあるが、気分が高すぎてパス」


 部屋を出て寝室に行き泥のように眠った。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?