朝日が登るころ起きたが最悪の気分だ。
昨日はついつい熱くなってしまった。
最悪一歩手前のダンジョンマスターに会ってしまったから。
最悪は、最低ノルマだけこなして隠れるダンマス。
それが一人居ればダンジョンが増える。
そいつはサクッと死んだほうが良いと思う。
それに、アサカの人としての倫理や思考と影響力に強い危機感を覚えた。
ダンマスになる元人の精神的な問題は人としての倫理や人としての思考が原因なんだ。
だからダンマスとしての倫理や思考を理解しなければ潰れる。
アサカ一人が崩壊するなら良いが、周りを巻き込んで盛大に崩壊するのが見える。
あぁ〜〜〜、私は人としての部分を否定して、それを押し付けた。
だが、そうしないと進めないのがわかるんだ。
あぁ〜〜、気分が最悪に落ち込む。
……
…………
落ち込んでいても進めない、シャキッとして気楽な私に戻ろう、それが良い。
パンパンと両手で頬を叩いてトウカに連絡する。
『トウカ起きてる?』
『はい、お嬢様』
『アサカはどうなった?』
『話をしました、もう大丈夫だと思います』
『そう…… 全員応接室に集めて、終わったら教えて』
『畏まりました』
よし、覚悟を決めて話すか。
……
…………
『お嬢様、揃いました』
『いく』
寝室を出て応接室に向かう。
扉を開けたらアサカが綺麗な土下座をしていた。
土下座2人目、いつか見た風景。
3人目が出たらきっと私の性質だ、泣きたい。
「御心が分からず、申し訳御座いません」
両手を着いて、おでこを地に付けた綺麗な土下座。
ため息が出そうなのをぐっと止めて。
「分かったから、ソファーに座って」
アサカは綺麗な姿勢で起きてソファーに座る。
アサカ、トウカ、タケルの順にソファーに座り。
私が対面に座る。
「まず言っておく事がある。
私はすでに人を数十万人殺している。
アサカが怪物なら私は邪悪な悪魔や邪神や名状しがたい最悪な何かと言われても否定しない。
今後、罪も無い一般人を数億人を殺す予定だ」
三人の顔を順番に見て、アサカを見る。
「アサカ、トウカ、タケル、
私の指示で動くという事は、私と同じく数億人殺す事だ。
覚悟は有るか?」
私はアサカ含む三人に、人の倫理を踏みにじる問を軽く投げる。
アサカとタケルは驚きと共に青くなる。
まだ、そこまでの覚悟が無いようだ。
トウカは真剣な顔と圧力で私を見つめる。
あの目は私の真意を問う目だ。
まあ、三人を試すと共に真実を告げているだけだが。
管理者の目的と私達が日本を守り生き残るためには、避けて通れない絶対条件なだけだ。
それを示しただけの簡単な事実なので、トウカの圧力はただのそよ風。
さて、どんな回答が出るか?
…………
アサカとタケルが、何かを言いたそうに唇を震わす。
そんな二人を見たトウカが、しかたが無いと問いかける。
「その問の真意は?」
「さすがトウカ、ネタバレ希望か。
とても単純だよ、管理者の目的と私達が日本を守り生き残るためには、避けて通れない絶対条件なだけだ。
何故かは自分で考えなさい。
次に、ひっそりとダンジョンに隠れてやり過ごすのも無理。
他国のダンマスグループがきて引き殺すか、他者が不要と考え殺す。
この場合日本は滅亡する。
何故かは自分で考えなさい。
あなた達の場合は…… ごめんね私が殺す。
だからね、真剣に覚悟して生きる努力をするしかないの。
答えは?」
アサカは覚悟を決め「生きるためにやります!」
タケルは「もともと最強ダンマスを目指したから、世界最強ダンマスグループにしましょう」
「覚悟は既に済ませていますよ、お嬢様」
「よし、覚悟が決まった事で、次に進むよ」
「さて、私達はモンスターだよ、しかも人類の敵、そして人類のために死ぬ役目も裏に隠れている。
その役割を管理者から与えられた。
しかし私は足掻く、マスターの役割を利用して日本を守る」
「タケル、お兄さんからの手紙読んだ?」
「はい」
「その中で最も重要な点は2枚目と3枚目。
その起点となる事を話す。
私の指針でもある、よく聞いてほしい」
私は目を瞑りあの時を思い出す。
あぁ、お兄さんの肩車、笑顔、困惑、苦笑、楽しかった。
もう遥か昔のように思う。
しかし鮮明に思い出せる。
「最初の出会い。
死んだと思ったらあの空間に立っていた。
今と同じ小さかった私は周りの大人と空しか見えなかった。
大人の向こうが見たくて、近くに居た優しそうなお兄さんの袖を掴んだ。
お兄さんはびっくりしたけど、優しく話してくれた。
そして、遠くを見るために肩車をしてくれた。
管理者が話しを始めて最初の言葉。
『…………冷静に情報収集する知的な人が好ましい』
その言葉が終わると騒いでる人が消えた。
次の言葉。
『死を冷静に受け止める人が望ましい』
また人が多く消えた。
私は戦慄した、これは選別だと、不要な人が消されると理解した。
お兄さんもほぼ同時に理解した。
そして、同時に生き残ると決意した。
使命の話が終わっても、人はパラパラと消えていく。
お兄さんが。
《向こうに行ったら会おう。
子供は守られるべきだ、私が君を守ろう》
と言ってくれて私はとても嬉しかった。
その後会話の中で、お兄さんは《君の望みや、やりたい事が有るかい?》と聞いたので。
私は《あります。親兄弟が日本に助けられました。私もすごくすごく助けられました。
だから、日本の未来を守りたい》
と答えたら、お兄さんはものすごく慌てて、消えてしまう!と。
でも消えなかった。
そして、《殺す使命と守る事は背反しない》とお兄さんが答え。
その後お兄さんは深く考え。
《使命の範囲内なら守る事ができるかもしれない》と。
私も賛同した。
それが私とお兄さんの起点。
そして、時間になり《向こうで会って話そう》と約束して日本に移動した」
私は一人一人の顔を見て、回りを見て空中に誰か居るように振る舞い、右手を掲げ。
「今も、この会話をコアAIが聞いる。
しかし、何のアクションも無い。
私はこの考察を元に、使命を利用して日本を守る事にした。
お兄さんも同じように考えたと信じている。
それが、2枚目、3枚目の起点であり原点。
以上が、私とお兄さんの始まりと指針である」
私は静かに手を下ろし、祈る様に目を瞑る。
トウカは思う。
あの短時間で、なんと濃密な時間を2人は過ごしたのだろう。
知力が優れた2人の奇跡のような出会い。
それが日本を救う奇跡を行うかもしれない。
その隣でワシは奇跡を見たい。
そして、強い意志で目を開き。
「私の目的を理解して何ができるか、考えて考えて考えて協力しなさい!」
「もちろんです、お嬢様」
「俺はやるぜ」
「私もやります!」
「ありがとう」
花咲く様な笑顔をして、心からお礼を言った。
「ちょと心が煮詰まっているので1時間後に会議再開でいいかな?」
「了解です」「オッケー」「はい」
私は庭園に出て、気持ちを落ち着けるために綺麗な景色を見ながら、ぼけーーとした。
……
…………
………………
時間が来た、私の真実を出す時だ!
気分も晴れて意気揚々と会議に向かう。
応接室に入ると3人が神妙にソファー片側に座っている。
その対面に私が座り、真剣な顔で3人を見る。
さーー、ここからが私の真実だ!
「ここから重要な話をする、心して聞きなさい」
3人の背がピシりと伸び、真剣な顔を向ける。
私はニヤリと笑い。
トウカだけが、アレ? と言う顔をする。
こいつ鋭い。
「私はダンマスをノリと勢いで運営する!
常識なんてクソ喰らえ!
奇策、暗躍、奥の手、後から、卑怯上等!
新しい世界だ!
空想妄想を実現する!」
勢いよく手を挙げて宣言した。
トウカはまた始まったと諦めた。
タケルは嫌な予感をヒシヒシと感じてる。
アサカは目点になって固まる。
「はっきりと自覚しろ!
私達は人が恐れる人を殺す怪物だ!
だが、怪物になりきる必要は無い!
だから、ノリと勢いで楽しく行動し生きるのだ!
倫理なんかクソ喰らえ!
使命すらも楽しめ!
暗い話はもう十分!
楽しんだ者が勝つ!!!」
「では、我が組織を紹介しよう!」
トウカに手を掲げ。
「四天王第1席、謎の老執事トウカ!」
苦笑いのトウカが諦めて頷く。
「トウカは戦前生まれの激動の日本を生き抜いた人です。
表も裏も、上も下も、善も悪も、全てを飲み込んで動ける謎の老執事です。
怒らせるときっと怖いのです」
タケルに手を掲げ。
「四天王第2席、勇者タケル!」
テーブルにゴンと頭を打ちつけうなだれるタケル。
「タケル! 文句ある!」
「無いです……」
「ノリと勢いは、私の上を行く。
最強のダンマスを目指した元大悪魔である。 皆ひれ伏せ!!!
今は、勇者タケルに転身した痛い人」
タケルはゴンゴンゴンと頭をテーブルにぶつける。小さな声で「もう止めて……」と聞こえる。
そしてアサカを見る。
「アサカは私の秘書になってもらう、拒否権はない!」
「はい」
アサカの目点が復帰して自信を覗かせた。
それは甘い、栗キントンより甘い、常識的判断は私に無い。
「秘書が何か、物語の秘書しか知らない。
私の中の秘書はトンデモ秘書だ。
アサカが私の秘書としてトンデモ秘書、出来る秘書を考えろ」
「は、はいーー???」
アサカが目点が復活して混乱が追加した。
「結果、アサカは四天王第3席゛出来る秘書アサカ゛に就任した。 あざなは゛出来る秘書゛だ、就任おめでとう」
「はあ?」
「返事は!」
「は、はい!」
「よし!
深く考えるな、ノリと勢いで役を作れ、これは命令だ。
エリートなアサカはきっと現実に出来る!」
「みんな、役職を実現しろ、拒否権はない。
妄想世界を作り上げ、常識のスキを突き、勝つ!」
私は、むふーーーーと胸を張る。
「昼食後にアサカのダンジョを作りに行くので集合よろ。
では会議を終了する」
私は応接室を出て寝室に行く。
ーーーーーー
混乱状態で応接室に残された3人。
アサカが2人に向かっておずおずと聞く。
「あのーー、トンデモ秘書とか出来る秘書って何ですか?」
「分からん、謎の老執事も言葉の意味しか分からん」
「あ、俺少しわかります」
2人の視線を一身に集める勇者タケル。
さすが勇者が分かる元大悪魔。
「なに!」
「教えてください」
タケルはネット小説やラノベ、アニメ等に出てくる、トンデモ秘書、謎の老執事の様なキャラクターの説明を細かく始めた。
しかし、2人はなかなか理解できなかった。
「まずは形からやってみては如何ですか?
魔法が有るからコアAIと相談しながら作ってみては?
常識を壊して、まず形から入る。
最近、私の常識がサクラさんに壊されて、新しい世界を見ました」
「ふむ、確かにサクラは何を考えているのかよく分からないが、結果的に上手く行ってる。
日本の156人ものダンジョンマスターが出来なかった事をしている。
普通に考えては出来ない事だ、やってみるか」
「分かりました、常識に囚われずに形からやってみます」
こうして、サクラの妄想世界が侵食していく。