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第33話 サクラVSザンガ


 ザンガのダンジョン周辺の調査と休養期間の中で、ザンガと私で肉弾の模擬試合をする事になった。


 場所はタケルの集合部屋を拡張して広いグランドと闘技場を作る。


 5人でタケルの洋館前に集合して闘技場に歩いて行く。

 拡張した内容を話すと共に広いグランドに寄って、皆の魔法やスキルの習熟や訓練等を行う場所として説明。


 巨大なコロッセオの様な闘技場に入り、私とザンガの模擬戦を説明をする。


「ザンガ、今回の模擬戦は正面戦闘で肉弾戦だ。

 自身に掛ける魔法は良いが、相手への魔法はなし、武器も無し。

 これで良いか?」


「もちろんだ」


「元々私は隠密暗殺特化だったが、最近正面戦闘も鍛えた。

 手加減は不要だ、最高の武力でこい」


「ヨシャーー、オレの力を見せてやる!」


 残りの3人に向かい。

「他の3人もよく見て参考にしたり効果や欠点を評価してくれ」

「了解です、お嬢様」

「参考にする」

「はい」


「トウカ、私を抱っこして、私の人形を持っていて」

「畏まりました、お嬢様」


 トウカは私を何時もの様に左手で椅子のように座らせ、トウカの体に右手を回す。

 私は左手で胸にある直径2センチの金属球を持ち、紐からカチッと取って手のひらに乗せ、皆に見せる様に差し出す。

 そして、超硬合金の飛行球体に憑依を変えた。


 カランと木の手が落ちて、元の私は服を着た木のデッサン人形となった。

 金属球は落ちず、球の後ろには笹葉の形状した半透明の光る羽が2対4枚あった。


 トウカ以外は全員、呆然と私の人形を見てから浮いている金属球体を見た。


 金属球体が話す。

「やあ、この球体が今はサクラですよ。

 元のサクラは横に有る木の人形ね。

 何時でも入れ替わることができるよ」


 呆然と球体を眺める皆が動き始め。


 呆れ顔でデッサン人形を抱くトウカが。

「相変わらずお嬢様は理解を超えています」


 球体の私と木のデッサン人形を何度も見ていたタケルが。

「まじか! 種族が気になって仕方がない!」


 常識的思考が抜けないアサカが呆然としたまま。

「私の常識が更に壊れた」


 奇妙な顔をしたザンガが金属球を見ながら問いかける。

「姉御、それが肉弾の形態なのか?」


 みんなの動きを面白く見ながら私が答える。

「そう、木の人形じゃ叩いたら壊れるでしょ。

 金属の人形だと重くて動けないし」


「この金属球と戦うのか、本気出さないと駄目だな」

「ちなみにこの球体、超硬合金で出来てるから硬いよ」

「うへーー」


「じゃ、やろか」


 二人は歩いて40メートルほど離れて向かい合った。


「よし、【獣化】!」

 大きな白銀の狼になり自己強化摩法を唱える。

 そして、力を貯め、両脚を少し曲げ前傾姿勢になる。


 私は【物理防御強化】【魔法防御強化】をする。

 約120センチの高さに浮き、羽を前に倒して前傾姿勢になる。

「タケル、開始の合図をして!」


 タケルは少し前に出て。

「オッケー、双方準備はいいか?」

「いいよーー」

『よい!』渋い声が響く。


 右手を上げて、下ろすと同時に。

「初め!」


 ほぼ同時に2人は前に走る。

 フェンリルは一直線に私に駆ける。

 私はフェンリルの眉間に向かって飛翔する。

 フェンリルは駆ける足を右に蹴りカクンと軌道を変える。

 光る羽をブンと振動させ飛翔方向を眉間に向ける。

 フェンリルは眉間に当たる寸前で頭を下げ、頭の上を球体が通り過ぎる。


 フェンリルは速度を緩めずに左旋回。

 球体はカクカクと右旋回する。

 双方が交差点でぶつかる。

 球体は眉間に当たる直前でフェンリルの右足に叩かれ、大きく横に飛んでいく。


『同じ攻撃は食わんぜ!』

「やるね!」


 私は、カクカクカクとランダムに動きながらフェンリルに近づく。フェンリルは優秀な種族性能の動態視力で私の動きをすべて捉える。

 死角からの攻撃も避け、急方向転換も見られ。

 慣れてくると私を何度も弾き飛ばす。

 そして、上から下に弾かれ地面にめり込む。


『オレの勝ちか!』

 地面から一瞬で上空に上がる。

「いや、今のは普通のスピードですよ。

 1段スピードアップする」


 前の約2倍のスピードで、高速にカクカクと軌道を変えフェンリルに向かう。

 フェンリルは真剣な顔で私を捉えていた。

 私の攻撃を捉えて回避するが、体に掠る様になる。

 叩こうとすると回避が遅れ始める。

 しかし、回避に専念すると掠りもしなくなる。

 行ったん上空へ上がる。


「やはり、高速飛行では当たらないか」

『当たらねえな! 攻撃は難しいが慣れたら攻撃できるぜ!』


「よし、本気のスピードで行く」

『ちょ、マジで?』

「マジマジ、行っくよーー」


 前の数倍のスピードで動き始める。

 今までカクカクの幅が2、3メートルのランダム移動が、一気に2メートルから10数メートルのカクカク動きに変わり。

 フェンリルの動態視力でも捕らえられなくなる。


『ちょ! ヤバイ!』


 フェンリルは必死に目で追い掛けるが見失うと高速で前に疾駆する。

 私は一瞬でフェンリルの前に出て前脚に軽く当てる。

 フェンリルはつんのめり30メートルほど転がる。


『無理! 見えん! 負けだ!』

「勝った、でも攻撃が試せなかった」

『オレ死んじゃうから止めて!』

「今まで正面戦闘力が無かったけど、これで正面戦闘力を手に入れたかな?」

『姉御、充分だよ』

「治癒いる?」

『大丈夫』

「戻ろう」

『はい』


 ザンガは獣人化して2人でトウカ達に合流する。

 観戦していた3人は、青い顔をしていた。


「どうだった?」

「お嬢様、評価など無理です。見えませんでした」

「あーー何というか、二人は別世界ですね」

「出来る秘書を頑張ります!」


「そうか………… 頑張ってくれ。

 今回、攻撃が試せなかったのは残念だった」

「姉御、攻撃の模擬戦は嫌だ、死にたく無い」

「わかった。トウカ戻るよ」

「はい、お嬢様」


 私は人形の胸に近づき磁力でカチッと紐に繋がる。

 憑依を人形に変える。

 金属球の羽が消え元の飾りに戻ると共に、人形が私に変わる。

 それを見ていた4人は不思議な物を見た顔で、マジマジと私と金属球を見ていた。


ーーーーーー


 この後も、条件を変えてザンガと正面戦闘の模擬戦をした。

 ザンガには申し訳ないと思うが、私の正面戦闘の経験が数多く欲しかった。


 結果、高硬合金の球体はとても打たれ強く傷を付けるのも困難だった。


 2センチの金属球は軽すぎて、物理攻撃が当たっても、そのまま飛ばされて力が受け流される。


 小さな球体のため物理攻撃力が、球体の全体に掛り壊れる弱点が無い。


 ダメージを出すなら、挟む圧縮か熱による融解か腐食?

 だが、補足するのが難しいし、長時間の連続攻撃が難しいかも。


 あとは、異世界ラノベで有名な空間魔法か次元魔法か、あるのか? 有りそうな気がする。


 元々とても硬い高硬合金に、物理強化の付与と物理防御強化の魔法の二重掛けが更に、想像を超える硬さと新たに柔軟性を獲得した。



 私の攻撃力の評価。

 エレメント種族は魔法適性が高く魔力が特に高い。

 その魔力がインパクトハンマーの強化に繋がり、半端なく物理攻撃が強かった。


 50センチ厚の鋼鉄の板にインパクトハンマー最大で触ったら、鋼鉄の板が吹き飛ばされた。


 鋼鉄板の周囲を固めて強化して触ったら、分厚い鋼鉄がインパクトハンマーの衝撃で砕かれ吹き飛んだ。


 球体に傷は無い。

 誰も言葉が出なかった。

 魔力恐ろしい…………


 もちろん最高速で突撃はしない、魔法強化した高硬合金でも壊れるかもしれない。

 試した事はないし怖いのでやらない。

 多分衝撃より圧縮熱で溶けるかも。



 私は心から安心する。

 もうダンジョン対策部隊の精鋭に会っても恐怖で震えないと思う。

 眷属のみんなも安心しただろうか。

 油断は絶対しないけどね。



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