森に転移で戻ったが既に日は傾き夕方になっていた。
移動を諦め森の中でワゴン車に泊まる事にした。
ーーーーーー
翌日、朝早く起きて地図を見ながら、まだ日本に近いと思い、約800キロ離れた街を目指す。
朝食後ワゴン車を収納しフェンリルに乗って転移で移動。
………………
前回と同じく密かに街に侵入。
ホテルを利用しようと考えたがポスポートが無かった。
確実に通報案件だ、ワゴン車泊から離れられないと嘆く。
街でモンスター情報やダンジョン情報を入手する。
とはいえ、文字が分からないので詳しくは無理だった。
適度に聞き込みを行っていると、気のいい大学生に会い。
学生にお金を渡し情報収集のアルバイトをお願いする。
3人でインターネットカフェに入り、数時間その場で情報を検索、日本語に機械翻訳して原文と共に印刷する。
資料を見て日本語翻訳が不明な点を学生に聞いて注釈を記入。
やはり紙の資料がいい、メモ不要で忘れない。
ほぼまる一日インターネットカフェに居た。
学生に多い金額を渡して別れ、密かに森に転移する。
気になった情報は、この街の西の山にダンジョンが発見され、人民解放軍が対処をしている情報だ。
破壊では無く対処?
もし私が想像する対処なら最悪だ。
この国は滅びたいのか?
森の中で資料を示しながら。
『ザンガ、このダンジョンを調査してくる』
『俺も行くぜ』
『遠くから管理視点で見るだけだから、ザンガは横に居ても何も出来ず、そこで待っているだけなんだが?』
『オレはサクラの護衛だから関係ない』
『……分かった2人で行こう』
ザンガのフェンリルに乗り【インビジブル】を2人が掛け、ダンジョンが有ると予測する場所から20キロ地点に転移。
私のダンジョン管理領域は30キロ、その中にダンジョンを見つける。
『ダンジョンを見つけた、しばらく無言になる』
『了解』
ダンジョン管理領域視点を現在地点からダンジョンに向けて飛ばして行く。
1キロに近づいても結界は無かった。
更に近づいても何もなし、ダンジョン周辺が見える。
ダンジョン周辺には簡易の柵が2重に張られ、大きな機関銃や砲身の長く太いライフル。
あれはマテリアルライフルだろうか、それらがダンジョン周囲に並べられ、人が張り付いていた。
あれなら下位や中位程度なら倒せるかもしれないが、上位のダンジョンマスターや上位モンスターには難しい。
それに、中に入る様子がない、最悪のダンジョン対応だ。
どの程度でダンジョンが増えるのか分からないが、遠からず増えるだろう、既に増えているかも知れない。
攻略本には、ダンジョンは包囲封鎖しては駄目だとあった。
閉鎖するとダンジョンが増える、最良は素早く破壊すべきとネット情報でも広まっている。
清中共も知っているはずだが、なぜ包囲封鎖する?
人材不足だろうか?
たぶん人材不足だ、来る前に清中共の情報を調べた。
ダンジョン災害の初期、清中共はダンジョン数が多く各州の人民解放軍が独自に対処して包囲封鎖した。
その結果ダンジョンが倍ほど増えた。その後も増え続けている。
ダンジョンを破壊できる人が出ても、ダンジョンが多いため酷使されただろう。
人材を育てても潰しては育たない、悪循環だ。
多分ここはダンジョン破壊部隊を待っている、だがまだ来ないので封鎖だけしている。
最悪だ。
ならばこそ! 国のためにダンジョンマスターが行動しなければならない!
ダンジョン内の全戦力を持ってダンジョンマスターが打って出なければならない!
包囲しても無駄だと意思を示し戦う必要がある!
ここのマスターは引き篭もっている、先は無いのに。
日本にはお兄さんの攻略本があり、先が分かる。
どんな辛い思いで、決意で、打って出たのだろうか。
それを思うと心が締め付けられる。
その結果、日本では早い段階で軍では無く専門のダンジョン対策部隊が出来た。
そして、見つけ次第最大の戦力を集中して破壊する。
きっと日本にもアサカの様な消極的なダンジョンマスターが居ただろう。
ダンジョンが見つかれば、ダンジョン対策部隊の教育の場に利用して破壊する。
そして、ダンジョン対策部隊はいっそうダンジョンのある世界に適応していく。
見事だよ日本政府とお兄さん、期せずして日本をこの世界に適応できる道を歩いている。
日本のダンジョン対策部隊が強いのも分かる。
状況は分かった、戻ろう。
『ザンガ、戻るよ』
『おう』
遠くの森の中でワゴン車を出して休む。
その夜、全眷属に眷属リンクで会議をして、今回の清中共でのダンジョン対応について、調査結果と考察を話した。
全員が静かに聞き、話しが終わった後も深く考え、いくつかの会話のあと会議は終了した。
アサカは一言も無く静かだった。
その夜は考え事が多くてなかなか眠れなかった。
……
…………
翌日から、情報を元に広範囲探査を行いながら移動する。
まだ見つかって無く、人里より遠いダンジョンを探す。
私の征服には人に見つかっていないダンジョンが良い。
事前に倉庫3から小さな門を出しウェアウルフキングを呼び出す。近々ダンジョン攻略を多数する事を伝える。
ウェアウルフキングは活躍の機会に喜び、訓練の成果をお見せしますと張り切っていた。
そして、今回の攻略は静かに最速で行う必要であり、ダンジョン攻略開始と終了は隠密で行い、騒ぎは倉庫の中で行う指示を伝える。
ーーーー
部屋の中に帰ったキングは嬉しさが抑えきれず、ニコニコと笑いながら全員を集めて演説を行う。
「お前ら! 全員聞け! サクラ様より近日中にダンジョン攻略の指令を受けた! それも多数だ!
日頃の訓練の成果を見せる時だーーーーーーーー!!!」
力いっぱい手を上げて叫ぶキング、それに応える軍団。
おぉーーーーーーーー、
「俺はやる!」「戦いだーー」「ウォーーン」
部屋全体が震える程の歓声が響いた。
それを見て、キングは満足げに何度も頷く。
その後キングは、ウェアウルフロードとハイピクシー、ハイダークウィスプを呼び出し、ダンジョン攻略の内容を話し、何時でも出れる体制作りを議論した。
万全の体制でサクラ様の指令に応えるキングだった。
ーーーーーー
探査の結果、街より南西80キロの山中にダンジョンを発見する。
人里も遠く、人民解放軍やそれに類する部体も居ない。
30キロの探査範囲にモンスターも少ない。
管理領域視点でダンジョン入口のモンスターを確認し、入口外にダンジョン領域が無い事を確認した。
今は夜、ダンジョン攻略を始めよう。
部屋からキングを呼び出しダンジョン攻略の打ち合わせをする。
スピードを優先するため、私とザンガも戦うことを話す。
キングよりロードとピクシー、ウィスプの各2名と1チームを付けつる事をお願いされ、承諾する。
敵ダンジョン付近に私のダンジョン領域を1キロ四方展開するので、その警備と侵入者の殲滅もキングに頼む。
キングはダンジョン入口で全体の指揮をする。
打ち合わせが終わり、今から1時間後に部屋の大門を開けダンジョン攻略を開始する。
キングが準備のため走って小門に飛び込む。
小門を消し、ダンジョン領域を解除して開始の時間まで休む。
しかし、この1時間が緊張の時間になる。
何しろ私が直接ダンジョン攻略をするのは初めてだった。
『ザンガ、ダンジョン攻略初めてだろ、私も初めてだ』
『初めてでも、問題無いぜ』
『私の軍団が経験者だ、気になるのは罠か。
私は飛んでるから気にしないが、ザンガは気を付けろ』
『オレの感知と反射神経が出番だな』
『エンシェントフェンリルは強いからな』
雑談をしながら時間を待つ。
『そろそろ時間だ』
私は超硬合金の飛行球に憑依してパペットドールを収納。
ザンガは体長2メートルのフェンリルになる。
ザンガの上に乗り。
『行くぞ!』
『おう!』
ダンジョン入口手前100メートルに転移、すぐに私を中心にした1キロ四方のダンジョン領域を作る。
これは、ダンジョンマスターの転移による奇襲防御とダンジョン管理領域視点による盗視防止のため。
すぐに大きな門を出す。
中からウェアウルフ軍団が整列して現れ、一部歓喜を上げたが、周りから殴られて止まる。
私達に気がついたモンスターが居たが、ウェアウルフ達に瞬殺される。
全てが出ると大門を消す。
ウェアウルフロード部隊の一つがダンジョン領域の監視と敵モンスターの殲滅のために分散していく。
私の近くには護衛チームが集まる。
残り5分の4が素早くダンジョンに突入する。
私の所にキングが走りて来て、敬礼をし。
「ダンジョン攻略を始めました」
「さすがはキング、展開と準備が早い。では、私達も行く」
「お気をつけて」
ザンガの横をゆっくり飛行しながら入口に向かう。
『姉御、何この凄い軍団』
『これ、タケルのダンジョン攻略に使った軍団。
あれからずっと訓練してた様だ』
『モンスターも鍛えれば、まるで軍隊の様な規律が守られて集団で動けるのか、とても強そうだ』
ダンジョンの中に入ってかなり進んだが、モンスターに出会わないし、罠も壊されている様だ。
『姉御、オレの活躍の場が無い……』
『奥になったら有るかも、気にするな』
それからも階段を降りたり上がったり降りたりしながら進むが、何も無かった。
ウェアウルフ軍団が強すぎだろ。
これではダンジョン攻略経験が出来そうに無い。
しかし、この正攻法が正しいと思う、だからこれでいい。
ダンジョンの外では、多くのモンスターがこのダンジョンに集まって来て、領域監視部隊と予備部隊が忙しく戦闘していた。
かなり時間を掛け進んだ先に大きなフロアの手前通路に、ウェアウルフ達がいた。
聞くと、この先にダンジョンマスターが居て、その先がコアルーム。
そして、ダンジョンマスターは強く、確保が無理だった。
思い出した、以前の攻略にダンジョンマスターは確保、コアルームに入るな、を命令していた。
「ザンガ、2人でダンジョンマスターに会うか?」
『おう!』
ザンガが嬉しそうに笑っている。
「と言う事で、皆んなは通路付近で待機及び観戦で」
「「了解!」」
ザンガと並んで巨大なフロアーに入る。
横300縦300高さ100メートル程の大きな部屋の奥に太った男が立っていた。
『ザンガ、この大きなフロアーはでかいモンスターの為だ、気をつけろ』
『分かってる』
奥から声が響く。
「とまれ!」
2人は並んで止まる、まだ遠い。
「お前はダンジョンマスターだろ、何故ここを攻める?」
魔法で声を大きくして。
「お前を倒すためだ」
「何故だ!」
「企業秘密」
「ふん、良かろう死ぬがいい!」
太った男の輪郭がぼやけ、巨大なモノに変わっていく。
輪郭が戻ったそこには巨大な龍が居た。
東洋龍、全長約20メートル太さ2メートルの蛇の様な太った龍が浮いていた。
(ラビ、種族何?)
『雷龍の上位』
『ザンガ、戦ってみる? 雷に注意ね』
『オウ! 任せろ!』
「龍さん、こちらに居る白銀のザンガが相手をする」
「ふん、そんな小犬は潰して終わりだ!」
『ムカ! 許さん! 殺す!』
ザンガが十数歩前に出て巨大化する。
頭を上げれば全高3メートル超え、巾2メートル、体長8メートルの白銀のフェンリルになる。
そして最高Lvの【物理防御強化】【魔法防御強化】をする。
龍は全身に雷をまとい、周囲にバチバチと放電する。
両者が近づき、龍が体を波打たせ放電が強まる。
双方の目線が相手を殺さんと射抜く。
ザンガは今にも飛びかかろうと前傾姿勢で後ろ足に力が貯まる。
巨大モンスターの激突だ。
龍が動いた瞬間、ザンガが【麻痺】と唱えた。
龍の放電は消え、その体制のまま地面に落ちた。
龍は唖然とした顔で口をパクパクしていた。
『グァハハハハーー、麻痺最強!!!!!!
麻痺の怖さを知って地獄に落ちろ!』
私は、仮想の手を顔に当てて、勝負も何も無い事態に、緊張とドキドキを返して、と心の中で叫ぶ。
ザンガはゆっくり近づき、尻尾の端から爪の斬撃スキルで輪切りを始める。
一つ切っては【麻痺】 切った尻尾は黒い霧になって消える。
二つ切っては【麻痺】を繰り返して、心臓当たりを切った時に龍は黒い靄となって消え、大きな魔石を落としす。
その間、龍は喚き散らし、最後には涙目で懇願していたが無残にも黒い霧になり消える。
何とも締まりのない終わり方だが、勝ちは勝ちだと思い。
「ザンガ、お疲れ様!」といい、『オレはヤッタゼ!』と、最高の笑顔と態度で応えるザンガであった。
大きな魔石を回収してコアをサブコアにして回収、ウェアウルフを褒めた後、撤収してダンジョン攻略が終わった。