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第49話 モンスター襲撃3



 後方包囲のスパロー隊の下を敵モンスターが通過していく。


 上空1000メートルの雀モンスターはとても小さい、敵モンスターから見つける事は不可能だ。


 探索スキルや探索魔法の範囲外であり、高空を飛ぶモンスターも居ない。


 敵モンスターは何も気づかず作戦範囲に進んで行く。




 10体のハイピクシーは上空から包囲範囲に入ってくる敵モンスターの分布を確認していた。


『アルファピクシー隊リーダーより。

 迎撃ピクシーは敵モンスターに多く打撃を与える攻撃範囲を決め、降下に備えよ!』


『『はい!』』


 それぞれのハイピクシーが眼下のモンスター集団を見る。

 担当エリアで最も効果ある範囲を定め。

 理想的な飛行ルートと襲撃ポイントを決める。


…………


 敵モンスターが包囲の中央に来た。


『ピクシー隊、出撃!』


『『はい!』』


 その瞬間、静かに浮いていたピクシー達が一斉に降下する。


 体中から燐光を後方に撒き散らし、まるでジェット戦闘機のように4枚の羽が後ろに後退して、鏃のように垂直に降下。


 たまたま空を見ていた敵モンスターは、幾筋もの綺麗な流星を見て(綺麗な流れ星だな……)と感じた。

 それが死を呼ぶ流星とは気が付かなかった。




 急降下したピクシー達は、敵モンスターの近くで急速ターンする。


 そして、目標範囲に【範囲デス】【範囲麻痺】【範囲睡眠】を高速で掛ける。


 そして、指定のサポート場所まで急速上昇する。


 アルファピクシー隊リーダーから。

『ピクシー隊報告!』

 各ピクシーから応答。


『完了!』『完了!』…………『完了!』


 その報告を受け。


『迎撃部隊に告ぐ!

 初激成功! 初激成功!

 後は頼む!』





 私は念話を聞きながら管理領域マップを見ていた。

 広い範囲に敵モンスターの赤い光点が分布している。


 その中に10個の丸い穴ができた。

 範囲デスの効果が発揮した結果だ。


 ほぼ1秒で穴が空いた、敵モンスターはまだ耐性が無い様だ。

 今後を考えるとデスだけでは対策されるだろう。


 だがしかし、問題ない!

 隠し手その2【麻痺】その3【睡眠】が炸裂。


 デスも麻痺も睡眠も(極)だから護符は効かない。


 現在この3っを防御するには【呪い耐性】【状態異常耐性】【精神異常耐性】のLvMAX必要!


 これをモンスターに付けるのは大量のDPやKPが要る。

 これを遠征モンスター全部に付けるのは1ダンジョンではほぼ無理。


 隠し手は更に多くある!


 ぐふふと悪い顔でにやけていたら、トウカが変な顔して私を見てた。

 ゴホンゴホンと真面目な顔になり観戦する。





 ピクシー隊リーダーの報告を受けた迎撃部隊は一斉に動き始める。



 正面の迎撃隊リーダーがハイブラッドスパロー達に激を飛ばす。


『正面迎撃スパロー隊リーダーだ!

 正面の敵は一匹も俺達の後ろに逃すな!

 戦場を縦横無尽に駆け回り倒すぞ!

 進撃だ!』


『『おおおおーーーーーーーー』』


 広範囲に広がった15体のスズメ達が一瞬で超高速度で飛び出す。


 数秒後、パンパンッパンと連続で音がする。


 それは、モンスターの腹や頭が後方に破裂する音だ。

 前から腹を見ると小さな穴が開いていた。


 ハイブラッドスパローの高速突撃でできた穴だ。


 スパロー達はすぐにターンする、そしてまたパンパンパンとモンスターが弾ける。


 弾けたモンスターは黒い霧になって消え、魔石が海に落ちる。





 正面の後方に居る敵モンスター達が、正面から聴こえる破裂音にに一斉に目を向ける。


 戦闘の様子を見て周囲を警戒するが、ここには居ないようだと判断。

 我先に左右から進軍しようと移動を始める。




 アルファウィスプ隊リーダーが激を飛ばす。


『アルファウィスプ隊のリーダーです。

 左右迎撃のウィスプ達よ!

 我々は壁だ!

 海面に潜む壁だ!

 壁を超える者は死者だけだ!

 壁の外側はピクシー隊やスパロー隊に任せる。

 静かに、深く、攻撃を始めろ』


『……』 応答は無く、闘志を燃す熱気だけが伝わる。





 左右のモンスター達は、敵がいない場所を進む。


 しばらくして、最前に居るモンスターがグラリと揺れ、霧になって消える。

 それに続き前線のモンスターが連続で霧になって消えていく。


 それを見た後ろのモンスター達が急停止して、周りを見始めるが敵が見えない。


 高速飛行のスキルを持つモンスターは速度を上げ高速で突き進む、しかし遠くで霧になって消えた。


 低空の水面や高空を飛ぶが霧になって消える。


 デスの長い射程を超える高さに飛ぶモンスターは、ハイピクシー達が倒す。


 多くのモンスターがこれ以上前に進めないと停止して周囲を見回す。




 敵モンスターを見ていたウィスプ隊リーダーは戦況を判断する。


『ウィスプ隊リーダーより全ウィスプ隊員へ。

 敵が壁の前で停止した、各自歩調を合わせてゆっくり前進。

 見えない壁を前に進める』


『…………』無言だが、熱気のある応答がくる。




 敵モンスターは対策が無いかと周りを見渡す。

 突然、前に居るモンスターが黒い霧になって消える。

 攻撃が近づいてきたのを理解した。


 敵モンスター達は徐々に後退し始める。

 それは、包囲の中心へ集まる行動だった。





 時は少し戻り、ピクシー隊リーダーの初激成功報告後。


 後方包囲のスパロー隊のまとめ役、アルファスパロー隊リーダーが激を飛ばす


『よーーし、後方包囲部隊のお前等!

 出番だ!

 まずは、敵集団に遅れてノコノコと後ろを飛んでるバカを速攻で仕留めて、後方包囲に入り。

 後ろから殲滅するぞ!

 一匹も半島に戻すな!

 行けーーーーーーーー!!』


『『おkーーーー』』『やったるでーーーー』


 上空1000メートルに爆音が響く。

 ハイブラッドスパローが音速を超えて降下を始めた衝撃音だ。


 敵モンスター集団に遅れて飛んでいたモンスターは、上空から聞こえる音に驚き上を見る。


 だが、時を同じく周囲からパンパンパンと音が聞こえ、何事かと周りを見た。

 小さな影を見つけたと思った時には爆散していた。


 数十秒ほどで集団の後を飛んでいたモンスターは消える。


 流石に、ターンや方向転換をすると音速を超えたスピードは出ない。


 3部隊計15羽の後方包囲部隊は超高速で飛行し、敵モンスター集団の後方につき殲滅を始める。







 敵モンスター集団は混乱していた、中心の少し前に居た集団のリーダーも混乱の極地だった。。


 マスターの命令は大集団で日本に行き人を殺すだけだった。


 こんな大規模作戦は初めてで、私は数体から十体程度のグループリーダーしか経験が無い。


 それに、日本ダンジョン対策部隊は強いが数が少ない。

 そして、日本のモンスターは弱いと聞いている。


 だから、対策部隊が居ない場所で負ける要素が何も無い。


 大部隊の侵攻だ、楽勝な作戦だと考えていた。


 部隊連携も考える必要を感じず、全員で行動するだけでいいと思っていた。


 もともと大部隊の連携など、どのモンスターも経験が無い。




 それがどうだ、日本へ向かう海を半ば過ぎた辺りで流星が落ちたと思ったら、何十体もの仲間が霧に消えた。


 そして、前と後から破裂する様な戦闘音が聞こえる。

 次々とモンスターが霧になって消える。


 戦闘の無い左右に移動を始めたモンスターが戻ってくる。

 左右も戦闘音は無いが倒されてるようだ。


 前も後も右も左も戦闘で押されている。


 逃げ道を探して空を見上げる。


 ダメだ、高く飛んだ仲間が破裂するか霧になって消える。


 これは組織的に計画し、軍として連携した攻撃だ。


 結果、絶望的な状態で包囲殲滅されている。


 最初に居たモンスターの3分の1以下になった。


 相手のモンスターは強過ぎて組織的に行動して連携が良過ぎる。

 勝てる道が見えない。


 この情報をマスターに伝えなければ。


 マスターは何故、念話スキルを渡さなかった?


 これでは報告もできない。


 極度に混乱しながらも一縷の望みを掛けて報告に走る。


 高速飛行でモンスターの間を縫って隠れながら後方に飛行。


 戦闘が見え始めたら高速飛行のままに急上昇、戦闘のスキを突いて報告に戻る!


 戦闘エリアを拔けたと思った。


 その瞬間胸が爆散する。


(あぁーー、マスター、作戦は失敗しました。

 日本には強力で連携の取れたモンスターの防衛軍が居ます。

 お気をつけください……)


 最後の想いとともに黒い霧になって消える。






 私は戦闘開始から管理領域マップと戦場を上空から俯瞰した監視スクリーンを見ていた。


 こちらのモンスターは全てハイ(上位)モンスター。

 相手にも上位がいると思う。


 だが、付けたスキルや魔法は(極)のLvMAX、物理強化だけでも相手より桁違いに強くなる。


 それ程に(極)は強い。

 だから一方的に倒せる。


 だが(極)の付与には大量のDPやKPを使う、それを使えるのが私の強みだ。

 昔のウェアウルフ達には付けられなかった。

 今だからこそできる戦略、最大限に活用しよう。




 包囲の戦闘圧力でモンスター達が中央に集まる。


 包囲網が徐々に狭まると共にスクリーンは拡大していく。


 拡大したスクリーンを見ると、中央手前に綺麗な羽をしたハーピィが居た。


 周りと比べて雰囲気が違う、何となくこの集団のリーダーに見えた。


 焦った様な動作で前後左右を見ている。


 そして上を見て、絶望したように顔と両手の羽が下がる。


 しばらくして、意を決した様に顔を上げ反転して、モンスターの間を縫うように後ろに飛び始めた。


 戦闘エリアに差し掛かると、見事な空中起動で戦闘を回避して包囲の外へと抜けた。


 しかし、ハイブラッドスパローの超高速飛行には叶わない。

 斜め後ろの上から背中に突撃。

 胸を撃ち抜かれ霧になって消えた。




 私は思う、敗北を悟ったリーダーが、せめて情報だけでも持ち帰ろうと行動したのではないかと思う。


 その事だけは良い判断だ。

 だが、その前に情報収集や事前準備をすべきだ。

 余りにも無策だった。


 ダンジョンマスターがバカなのか。

 たぶんバカだな。


 私達は数年前から情報を収集し、数年前から防衛計画を練り上げ、数年前から監視をしていた。


 そして、今も主要メンバー全員が戦闘を観察して今後に役立つ情報を収集している。




 この戦いは生き残りの戦いだ!


 命を懸けた戦いを軽く考えられる訳がない。


 日本という国を最後まで残す戦いだ。


 例え、相手がマスターに忠誠を誓う純粋なモンスターだろうと。

 例え、未来に希望を持った人間だろうと。


 私の前に立ちはだかる者はすべて殺す。


 その罪はすべて私の物だ。


 私が抱えて地獄に散歩に出かけよう。




 包囲殲滅が終わろうとしていた。


 私は静かに目をつむり、敵モンスターの死に黙祷を捧げる。





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