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第51話 情報戦と言う名の暗躍



「さて、悪の親玉の演出は終にして。

 撃退した次の戦略を話す。

 その前にみんな座ろう」


 部屋の中央を空けて、会議テーブルとホワイトボードに人数分の椅子を出す。

 もちろん、ハイエルフも護衛も含め。

 ついでに飲み物を全員に出す。


 全員が座ったのを見て私もホワイトボードの横に座る。

 みんなの顔を見渡し戦略の話をする。



「日本の大きさに比べ監視エリアは狭い。

 迎撃可能な範囲は狭い。


 朝鮮半島のマスターが余程バカでない限り、迎撃されないルートを見つける。


 今後は、今回の大集団では無く少数の威力偵察を行うだろう。


 ここから私の新たな情報戦と言う名の暗躍が始まる。


 アサカ!」


「はい!」


「新たな情報戦の中心的役割をアサカに頼む。

 だから、私の思い、私の予測、私の目的、私の計画をよく聞いて理解し、目的に沿った行動を頼む。


 もちろん私もサポートするし相談も受け付ける、だが覚悟がいる、次は日本人が大勢死ぬ。

 覚悟はいいか?」


「はい、出来る秘書アサカにお任せを!」


 アサカは何が行われるのか不安に感じながらもハイエルフ統括の様に、サクラは何かを私に期待していると覚悟を決める。


「よし、今後の作戦はここに居る全員の協力が必要。

 みんなも私の話をよく理解する必要がある。

 みんな頼む」


「了解しました、お嬢様」

「おk、任せな」

「いいぞ」

「畏まりましたサクラ様」


 私はゆっくりと全員を見ながら話はじめる。




「ここ数年日本は少し安全な状況にあり、日本人に危機感が無い。

 ダンジョン対策省や対策本部に海外からのモンスター襲撃の危機を伝えても動きが遅い。

 そうだなアサカ?」


「はい、襲撃情報を伝え、防衛を計画する様に進めていますが具体的進展がありません」


 アサカはサクラの望みと現状の問題点をしっかりと理解して答える。

 出来るOL風の細い眼鏡がキラリと魔法で光る。

 それに頷き。


「私は日本を何としても守りたい。

 だが、私達だけでは無理だ。


 日本人一人一人が危機感を持って立ち上がり、驚異に対抗する力が必要だ。


 新たな環境に適応して戦う覚悟と行動が無ければ、日本は改変される世界に生き残れない」


 強い覚悟で発言して管理領域マップを見つめる。


………… 沈黙の後。


「朝鮮半島からの襲撃を利用する」


 今回の襲撃を受けて、その思慮の無さから十分に利用できると判断した。

 私はニヤリと笑い、顔を戻して全員を見る。


「朝鮮半島からのモンスター襲撃をスルーし、日本への攻撃を許し、朝鮮半島のモンスターが日本人を多く殺す。


 殺されているのを放置し、監視のみ行い、手を出さない。


 はっきり言えば、外国からの攻撃を現実にして、日本人に突きつける!

 それを演出する!」


 鬼と言われそうだが、不抜けた日本や日本人は不要だ。

 続ける。


「今、ダンジョン対策本部の防衛準備がほぼ無い、人が足りない、飛行モンスターの対応方法が弱い、監視システムが無い、状況的に後手後手の対応になる。

 結果、日本人の多くが死ぬ」


 私は日本を守りたい、だが私だけでは無理なのだ、日本人自身が日本を守る覚悟と行動が必要なのだ。



「みんな、そしてライトワン!」


「はっ!」


「相手に情報を渡さないは、私達のダンマスとダンジョンの情報だ。

 日本の甘く弱い情報は広まったほうが良い。


 その方が敵が侮る。


 ライトワンの防衛は対馬島周辺の狭い範囲だけ行い、その外は監視だけ行う。

 威力偵察が対馬島周辺を外れて、九州や本州に行き多くのKPを稼ぐだろう。


 敵は「なんだ、危ないのは対馬島周辺だけじゃないか」とこちらのダンジョンをあなどる。


 日本は、突然の襲撃と大量の死亡者を出し、大騒ぎとなるだろう。


 朝鮮半島から日本に渡れるモンスターは飛行が得意だ。

 飛行に対応できないダンジョン対策部隊は簡単に補足できず、対処も後手後手になる。


 この、大量の死亡と対策不良が世界ニュースとして流れる。

 多少安全になったてきた日本が、モンスター襲撃で危険になったと情報が拡散する。


 日本も世界と同じ様に危険だと思われる。

 そうなれば【世界の安住の地、日本】になる時間が伸びて、将来の危機に対する準備時間が増える。


 これは、他国のダンジョンマスター組織に対する欺瞞情報、世界の国々に対する欺瞞情報の情報戦である。


 ライトワン、強力な爪を研ぎながら、相手から馬鹿にされる状態を演出しろ、その思想を防衛戦略に反映しろ」


「はっ!!!」



「さて、アサカ。

 日本への海外からモンスター襲撃が始まった時、アサカの日本国内情報戦という名の暗躍が始まる。


 久しぶりに無差別殺人のモンスター襲撃が始まり多数が死んで、連日重大ニュースになる。


 ダンジョン対策省や対策本部の責任が強く責められるだろう。


 まず第一に、責めるだけのマスコミ、無茶な要求をするマスコミ、評論家、政治家、有力者、活動家、アジテーター、動かない政治家、ダンジョン対策省の動かない人員、等の障害になる人はすべて病気呪いで早めに退場してもらう。


 病気が発症し、表に立てず、入院して数ヶ月後に死ぬ呪いがいい。


 アサカ! 姑息で卑怯な手段で相手を殺す覚悟をしろ。いいか?」


「問題御座いません、アサカにお任せを」


「よし、次に、ダンジョン対策本部をより強くしようと予算や法律等の行動する人。


 個々の日本人が強くなって自衛が必要だ、等の行動する人。


 その人達を影に隠れて支援する。

 お金が必要なら、大金持ちを眷属にしろ。


 世論を、個人が一人一人が強くなってモンスターに立ち向かおうと誘導する。


 もちろん、ダンジョン対策部隊の増強を求める世論が必要。

 強くなる為の組織や場所や機会を作る世論も必要。


 世論工作もアサカにお願いしたい。


 いいか?」


「問題御座いません」


 その答えに私は安心して頷き、アサカに笑顔を向ける。



「次に、全国のモンスター襲撃情報が集まるのがダンジョン対策本部だろう。


 最速で情報を入手する仕組みを作り、アサカからライトワンとここに居る主要メンバーに連絡。


 ライトワンは最速でハイブラッドスパロー隊5羽を現地上空に派遣、事が終わるまで観測を行う。


 ダンジョン対策部隊が倒されそうな時のみ、強い敵モンスターだけスパロー隊が静かに倒せ。

 その他は無視しろ。


 ただし、よほどの被害か大きく日本にマイナスなる時は相談して欲しい。

 だが、手助けは最小にしたい、これは日本の環境適用強化が主目的だ、必要以上に手を出すと目的がブレる。


 助ける場合はアサカ、トウカ、タケルの誰かに許可を貰え。

 アサカ、ライトワンいいか?」


「はい!」

「了解しました」


 タケルがソローリと手を上げる。

 それを見て「タケル君どうぞ」


「各ダンジョンに、ハイブラッドスパロー隊を2隊配置して団長が指揮するのがいいと思うがどうだ?」


「いいね! それやろう。

 超高速飛行の訓練もいるし持久力の訓練もいい。

 まあ、どこかで休んでもスズメだから気にされないし。

 その辺はタケルの防衛計画と団長に任す」


「おk」


「トウカ」

「はい、お嬢様」


「トウカが全体の管理を行い情報や作業の調整を行い、私に進捗を報告して欲しい。


 次の威力偵察や再侵攻は私も1日から数日は状況を見るが、全体を通して長期戦になる。


 私とザンガは未来の為に、工作ダンジョン作成で世界を渡り歩く、だから日本を頼む」


「了解しました、お嬢様」


「ザンガ、こういう事情だから仕事を少し巻くよ」

「おう、わかってる!」



 私はゆっくりと紅茶を飲み、目をつむり瞑想する。

 全員が私を注目していた。


…………


 静かに目を開ける。


「さて、最後に今回の予定が崩れる可能性を話す。

 朝鮮半島のダンジョンマスター組織はモンスター集団を作る為に大量のKPを消費しただろう。

 だから、まずはKP稼ぎに走ると思われるので、再侵攻までは多少時間がかかると思う。


 その後、ある程度の知恵が有るなら予想通りの流れになるが、知能が無い時。


 可能性1、臆病なら、朝鮮半島に引きこもり出て来なくなる。

 可能性2、真のバカなら、より大攻勢で対馬島に攻めてくる。

 この場合、今回と同じく殲滅する。


 このパターンなら、状況を見てどうにもならないなら、もう諦めて朝鮮半島を攻め取って、自作自演を行なう。


 流石に自作自演はとても面倒くさく大変で泣きたい。


 自作自演して心が折れない人希望。

 余ってるの私かトウカ、それとも知能極フリのハイエルフかな。



 (ピコン!) そうか、モンスターで対立する別組織を作るのが良いかも。

 面白くなってきたーー(ニコニコ)




 まあ、どの様な結果になってっも、私の目的は達成できる。

 君達は最善を尽くせ!」


「了解しました、お嬢様」

「おk」

「はっ、全力を尽くします!」



「よし、会議を終了する。

 みんな日本を頼む、何か有ったらいつでも連絡よろ」


「お任せください、お嬢様」

 と全員が頷く。



 ライトワンは思う。

 サクラ様は敵すらも利用して目的を果たす。

 もし私の敵がサクラ様なら戦う前に負けている。

 私が勝てると考える盤面を、サクラ様は盤面を無視して、何も気が付かない私の喉元を後ろから刺す。

 そして私を見ながら「生き残りの戦いにルールなんて無いよ」と言って微笑むのだ。

 そんな幻視が私に見える。


 真に恐ろしいのはサクラ様の常識に囚われない思考……




 トウカは思う。

 何重にも張り巡らされた計画。

 サクラの中に眠っていた才能が、ダンジョンマスターと言う過酷な環境と何をしても日本を守る強い決意。

 その状況が大輪の花を咲かせた。


 どれほど美しく花開くのだろう。


 私は、その先が見たい…………





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