ーーーーー 時が過ぎたある日の事 ーーーーー
ここは、上空1万メートル。
3機のジェット戦闘機が編隊を組んで亜音速で飛んでいた。
その近くを編隊を組んだ5羽のスズメが追い越していく。
それを見た隊長が。
『203リーダーより各機へ、今のを見たか』
『02見ました…』
『03見た……』
『そうか…… 見間違いじゃないか、仕方がない報告する』
『XXX航空管制、こちら203リーダー報告』
『XXX航空管制、報告せよ』
『確認飛行編隊を見た。
あーーそのーー、5羽のスズメと思われる鳥が編隊を組んで203隊を追い越し、8時方向に飛んでいった。
そちらで確認しているか?』
『しばらく待て』
…………
『こちらの監視システムでは確認されず。
だが、スズメの話は聞いている。
上から《日本のスズメは強いから気にするな》と』
『気にするなと言っても、ここは1万メートル上空で相対速度と音から音速を超えていると思う。
強いとか言うレベルを超えてると思うのだが?』
『確かにそうだが、気にするな。
報告は上げろ』
『りょーーかい、通信終了』
203隊リーダーはスズメの飛んで行った方向を呆然と見つめた。
『リーダー、実は同僚からスズメを見た話を聞いていました。
冗談だろと笑い飛ばしましたが、事実だったんですね』
『そうだな……』
『03より、通り過ぎる時スズメがこちらをチラリと見たように見えた』
『そうだな……』
その後各地の自衛隊ジェット戦闘機が高空でスズメを目撃する。
追いかけようとしたが、追いつけなかった。
何故か自衛隊以外の飛行機による目撃情報は無い。
ジェット戦闘機を超える速度を出すスズメに、航空自衛隊は衝撃を受けていた。
「俺達の飛行、スズメに負けるんだぜ、自信なくすぞ……」
「余程近くに居ないとレーダーに映らないから、空対空ミサイルが使えないし……」
「俺の話は信じてもらえなかったが、スズメがキャノピーの前に停まったんだぞ。
音速に近い速度で飛んでたのに、まるで風を受けて無くて風が避けてるように見えた。
報告したら精神科行けと言われたぜ、泣ける」
「はぁーー、スズメで良かった…… 戦ったら勝てん」
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時は戻り。
タケルとライトワンは、次の日に盛大に祝勝会をして騒いだ。
だが、ライトワンの眉間のシワは消えなかった。
昨日聞いた話が頭から離れなかったために。
タケルがライトワンにアドバイスする。
「サクラのアレは、一種の特殊な才能だと思う。
理解しようとせずにまず形から入って、今できる事をやりながら、サクラの考えた形を自分の中に作って行けばいいと思うぞ。
そんなに固くなるな」
「はい、そうですね…… 形というと……
何でもやる悪の将軍?」
「いや、悪はないな。
そうだなーー、堅物だが一皮むけば目的のためなら手段を一切選ばない恐怖を内に持った将軍かな?
二つ名を《歩く核弾頭》と言うのもいいな」
タケルの中二病が真面目なライトワンに炸裂してしまう。
「なるほど…… 《歩く核弾頭》ですか…………」
これが切っ掛けになり、世界のダンジョンマスターとモンスターを恐怖に落とす将軍が出来上がる。
サクラの知らない所でサクラワールドが着々と構築されていく。
…………
翌日よりタケルとライトワンは新しい防衛計画を建てる。
威力偵察には、対馬島の周囲半径10キロの範囲を防衛ラインとして設定。
その範囲に入った敵モンスターは引き込んで戦う。
敵が圏外に出れば放置。
前回の戦闘でこちらも被害が出て、KPが少ない様に偽装、迎撃は少数で手加減して勝つと決定。
10体以上なら20キロ以内で、手加減せずに完全殲滅とする。
北海道は、監視ダンジョンの半径50キロ内を絶対防衛圏として防衛ダンジョンを新設してモンスターを配置する。
主にハイブラッドスパローとハイピクシーとハイダークウィスプを配備、ドラゴンは対馬島だけとした。
もちろん、完全な殲滅で情報を出さない様にする。
監視ダンジョン管理領域の100キロ内は監視のみとする。
それ以外の領域は放置した。
離島はハイブラッドスパロー1隊を配置、その他はハイブラッドスパロー2隊を配置する。
飛行テストを行った結果、耐久と航続距離に問題があった。
対策に体内魔石を1.5倍の大きさにして、魔素の圧縮を数倍に上げた。
ハイブラッドスパローでありながら、数倍の強さになる。
結果、2万メートル以上の高空を飛び、マッハ2で巡航する、最高速は更に速かった。
風魔法を持ち、対抗する空気は避けるように魔法を展開する。
モンスターは質量の無い魔素で出来た生物の様な何か、呼吸もせず、質量も質量の真似をした何かである。
飛行スキルを持つ者は、重力の影響を自由に変えて空中に浮いている。
したがって、2万メートル上空に登るための位置エネルギーを必要としない、横に飛ぶ様に垂直に登れる。
落ちる時は質量分の重力を得て地球に引かれる。
物理学者が聞いたら「反則だ!」と責められるだろう。
だが、疑似質量があり慣性が有るので曲がるのは大変だった。
都合が良過ぎると思うが、巨大なドラゴンが理由も無く空中に滞空したり地上から飛び上がれる訳がないのだ。
この日から、日本各地でスパロー隊の飛行訓練が行わる。
そして、自衛隊のジェット戦闘機VS新しいハイブラッドスパローの性能評価試験が何回も行われた。
事前にアサカの情報操作が行なわれていたのは言うまでもない。
これは将来起こる、国家間の武力衝突に対する準備であった。
ジェット戦闘機を倒せる雀モンスターである。
艦船はドラゴン担当だろうか?。
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アサカもサクラの会議が終わると行動を始める。
ダンジョン対策本部の中央司令部にエンシェントウォータードラゴンの女性(エウォワンとアサカ命名)を所属させる。
日本全国のモンスター情報やダンジョン対策部隊の情報は全てこの部署に集まる。
海外の情報もここに集まり、必要な情報は念話にてアサカに即時連絡される。
そして、アサカが欲しい情報も彼女を通して調べられた。
配属された当日、真面目な顔の紳士達は鼻の下が伸びないよう取り繕い、彼女の所属を大いに歓迎する。
また、日本で大量に自由なお金を持つ不動産王を眷属にして活動資金を入手する。
一体のエンシェントファイアドラゴン(エファワン、アサカ命名)はアサカの護衛である。
残りの4体のエンシェントドラゴンはいつでも動ける様に、マスコミや政治家、各種団体、及び海外の出先機関の調査に走る。
時が来たときにすぐに動けるように準備するため。
エンシェントライトドラゴン(エラワン)
エンシェントダークドラゴン(エダワン)
エンシェントアースドラゴン(エアワン)
エンシェントウィンドドラゴン(エウィンワン)
とアサカに命名される。
サクラが聞いたら頭を抱えて落ち込むと思われた。
アサカにとって、このような情報活動は最も得意とする分野だった。
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私とザンガは世界を飛び回り工作ダンジョンを作るため、戦いの日々を送る。
作った工作ダンジョンは深夜にダークウィスプを広範囲に毎日放出する。
ウェアウルフ軍団は、征服と防衛を同時に行うため10軍団に増える。
もちろん、【物理防衛強化】【魔法防御強化】【状態異常耐性】【精神耐性】【呪い耐性】の(極)を全モンスターが持っている。
魔法適応種族は【デス】【麻痺】【睡眠】の(極)を持ち、必要に従い補助魔法と攻撃魔法を持つ。
基本、工作ダンジョンに少数が侵入した時は工作ダンジョンの武力が殲滅。
それ以上の集団が攻めてきた時は軍団を持って殲滅した後、工作ダンジョンの場所を変える。
この結果、敵のダンジョンマスターには侵略するダンジョンマスターの謎と恐怖を残し、人間側は不可解な謎だけが残る。
清中共から始まったモンスター災害は徐々に世界に広がり、恐怖も広がる。
しかし、工作ダンジョンの場所を見つけるのは稀であり、ほとんどの情報が敵に渡らない。
世界情報を入手する知的なダンジョンマスター達は、このダンジョンマスターはレコードホルダーであり清中共発祥と思われていた。
国別の番号は自国のみしか分からないため、番号から国の特定は困難である。
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敵のモンスター集団を殲滅してから2ヶ月が過ぎた頃、朝鮮半島から1体の偵察モンスターが対馬島に来たので殲滅する。
その後、数日毎に1体の偵察モンスターが飛来。
広範囲の偵察が始まった。
対馬島以外のルート偵察が始まり、安全なルートが発見される。
敵ダンジョンマスターが臆病でも無く、真のバカでも無かったと安心する。
それから数週間後に絶対防衛圏の外側、管理領域内の対馬島迂回ルートを使って6体のモンスターが日本に向かう。
威力偵察と思われ、日本到着時間に合わせて観測用のスパロー隊が発進する。
日本は仮初(かりそめ)の安全に慣れ、監視の部隊も防衛部隊も無い街が襲われた。
街は阿鼻叫喚の嵐となり、住人が我先にと逃げ出す。
しかし相手は飛行モンスター、逃げる事は叶わない。
ダンジョン対策部隊が到着してモンスターを倒すまで、数百名の死者と数十名の重軽傷者を出す。
死者が多いのは、モンスターが中程度の強さであり、人を殺す事を目的とした死兵であり、見人必殺が行動基準になっていた。
その日のニュースは全てモンスター襲撃がトップニュースになり、新聞やネットの一面記事になる。
ほぼ全ての論調がダンジョン対策省と対策本部を非難するものだった。
また、襲撃したモンスターは全て飛行タイプであり、海から来たと情報が拡散。
海外からの来たのでは? の噂も流れる。
その日からアサカの暗躍が始まった。
ダンジョン対策省や対策本部を非難す評論家やアナウンサーに指示を出すディレクターや内幕や批評知識人の体調が悪くなる。
ダンジョン対策大臣や保守党を声高に非難する議員や政治活動家等の体調が悪くなる。
SNSや動画でダンジョン対策省や部隊を攻撃したり、非難したり、各種扇動する人達も体調が悪くなる。
数日後には療養に入るだろう、数ヶ月後には体力の無い者から死亡する病気の呪いが掛かっていた。
変わってネット上では、非難するより増強を!
ダンジョン対策本部に予算を増やせ!
対策部隊を増員しろ!
自衛隊も海から来る驚異を監視する部隊を配備しろ!
非難だけの野党は出てくるな! 案を出せ案を!
と声高に発言する人々。
また、自衛手段が必要だ!
最低でもダンジョン対策部隊が着くまで自力防衛力が欲しい!
その手段と力をくれ!
チャレンジダンジョンをもっと早く多く開放しろ!
俺、明日からLv上げに邁進する!
くそーー、俺の家からチャレンジダンジョンが遠いぞ!
一緒に行くか? 車出すぞ。
おkーーーー、逝く!
動画投稿サイトでは、自衛の為の動画が多数上がる。
Lv上げ攻略動画。
Lv上げてみた動画。
飛行モンスターとの戦い方。
自衛する為に何が必要か。
実録、私はこうして生き残った!
Lv上げサバイバル!
等々数百の動画が次々と投稿される。
この中のいくつかはアサカがサポートした集団やグループによって発信されていた。
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朝鮮半島のダンジョンマスター集団は、威力偵察の成果が予想以上に多かったことに驚き。
対馬島を除けば日本はチョロイと判断する。
数週間後、朝鮮半島のダンジョンマスター達が、個々のダンジョンから小規模のモンスターを、時を合わせて日本の各地に派遣する。
モンスターの総数は多い。