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第54話 モンスター襲撃6



 巫女の精鋭部隊は重要拠点の港に居た、そこに向かうモンスターのグループ。

 そして、巫女だけが飛行を阻害する広範囲の結界が可能だった。


 魔法の結界は、転移阻害や防御を主体とした狭い範囲の結界である。

 だが、巫女が持つシステムに依存しない特殊技能の結界は、広範囲で意味を持たせた結界だった。


 元来魔素は全宇宙にあり、地球にも非常に希薄だが存在した。

 超常現象を信じ、極僅かに利用した人々が居た。

 その血筋と受継がれた知識と技術、妄想を超えた信じる力がシステムを使わない魔素利用を可能にしたのだった。


 そして、魔素が世界に広がる事で彼女の隠れた才能が開花する。


 彼女の様な人達をLv取得者の中で特異能力者と言う。


 特異能力者は、世界的なダンジョン災害を克服する手段の一つとして注目され日夜研究されている。



ーーーーーー



 精鋭部隊や高位部隊の半数は迎撃場所に間に合うが、迎撃場所にモンスターが来たのは2つのモンスターグループだけだった。


 残り半数の対策部隊は避難の混乱に巻き込まれ、モンスターの上陸に間に合わなかった。




 上陸前の1グループは巫女の部隊が瞬殺。


 もう一つのグループが精鋭部隊の前に海から現れる。

 この部隊に広範囲の飛行阻害結界は無い。

 魔法使いや弓士、回復補助を中心にして、その周りを前衛が囲み迎撃体制を取る。


 現れたのは全長4メートル横2メートルの胴体が細く小さい、その両側に大きな被膜の羽を持ち、尾の長い翼竜の様な小さなモンスターが5体だった。

 精鋭の一人が「あれは小翼竜(スモールワイバーン)か?」と言い、名前が定着してしまう。


 モンスターの注意を引くため目前で爆発する火球を撃つ。


 火球の接近に気が付かない小翼竜はいない、爆発する前に散開する。


 小翼竜達は火球の発射元を見、その部隊の上空200メートルを大きな円を描くように均等に囲んで周回する。

 そして、上空から口を開き火球を部隊に向けて打つ。


 一斉に放たれた火球は回復補助士の結界で弾かれ効果が無い。

 精鋭部隊からも弓や遠距離魔法で小翼竜を撃つが全て回避され当らない。


 数分撃ち合いが行われるが双方共に攻撃が当たらず、膠着状態になる。

 小翼竜は接近攻撃をする事は無かった。


 突然、誰かに指令された様に小翼竜は別々の方向に高速で飛び去る。


 精鋭部隊は一瞬何が起こったと警戒するが、数十秒たつが何も無い。

 そして隊員達がリーダーの顔を見る。

 リーダーは苦虫を潰した様な顔になり。


「クソ! にげられた、追うぞ!」


「あー、どれを? それにあのスピードでは、車で走っても追いつくのは無理だぜ」


 リーダーは悔しそうに飛んで行った方向を別々に見るが、すでに何も見えない。


「とにかく追いかける!」


 そう言って武装ワゴン車に走る。




 ここに来て、飛行モンスターとの戦闘経験が少なく、戦闘方法も検討されなかったツケが出る。


 チャレンジダンジョン内の飛行モンスターなら逃げる先は限られ、襲う為に接近戦闘をする。


 ダンジョン対策部隊は、飛行モンスターに高速で逃げられると手も足も出なかった。


 巫女部隊なら飛行阻害で火球も弓矢も当たるだろう、結界内なら肉体強化で走っても追いつける。



ーーーー



 迎撃戦闘の報告がダンジョン対策本部の司令部に入る。


 巫女の精鋭部隊以外一体も倒せず、国内に飛行モンスターが一体一体バラバラに侵入した。

 最悪の事態だった。


 そして、海上自衛隊が見つけた以外、最低でも5グループのモンスターが居ることも報告が来る。

 合わせて約10グループの約50〜60の飛行モンスターが日本を襲撃した事が分かる。


 司令部は被害報告、襲撃報告等の情報が錯綜し、対策部隊を現場に派遣する。

 しかし、モンスターを倒す数はとても少ない。

 迎撃が出来る部隊だとモンスターは他へ飛んで逃るからだ。


 次から次へと被害報告が上がり救援依頼が来る。

 しかし、迎撃できる部隊の十倍以上の救援依頼に、初級の部隊を派遣する以外の対処が無い。


 初級部隊は避難者を守り、囮になり死んでいく。

 そして、ダンジョン対策部隊が減ってジリ貧になってくる。




 司令部に居る眷属になったダンジョン対策本部長がエウォワンを必死な思いで見つめる。


 その視線を受け、エウェワンは静かに首を横にフル。

 そして、念話で答える。


『本部長の言いたい事は分かるわ。

 でもね、将来もっと大きな襲撃があるわ。

 だからね、日本が、日本人一人一人が強くならなければ日本を守れないの。


 その目的は貴方の使命でもあるのよ。

 予算が、政治が、法律がの話は聞きたくない。


 この機会を利用して、命を賭けて日本を守る使命を果しなさい』



 ダンジョン対策本部長はエウェワンの答えを聞き、今までの行動を振り返る。

 そうなのだ、本来殺し合う関係のダンジョンマスターに助けを求めるのは間違いだ。

 日本人を護るのは同じ日本人がやるべき事だ。


(甘かった…… 甘すぎた…… 危険は何度も主から聞いていた、認識が甘すぎたのだ!)


 本部長は両手を前に置き血が出るほど強く握り締める。




ーーーーーー




 日本上陸から数時間後。


 ダンジョン対策司令部はモンスター襲撃の対応に追われていた。

 悲鳴にも似た救援要請に、対応できる部隊が間に合わない。

 警察や自衛隊の小銃では倒せない。

 初級の対策部隊も派遣するがモンスターと戦って倒れたと報告が上がってくる。


 喧騒が大きい司令部だが、喧騒以上に悲壮感が漂う。



…………



 一つの朗報がもたらされる。


 対策部隊の連絡担当が電話口が受けた内容に驚き、思わず大声で報告してしまう。


「初級部隊がモンスターを倒しました!」


 一瞬で司令部が静まる


「初級部隊がどうやって倒した!」


 初級部隊が倒せるモンスターでは無い、なにか理由があるはずだ。


「今確認します!」


 司令部の全員が対応女性に注目する。

 女性は何度も頷きながら会話をして、顔を上げて報告する。


「自衛隊の強力なスナイパーライフルの狙撃で飛行モンスターを撃つと、物理衝撃でモンスターが一時的に意識を失い落ちるそうです。


 落ちたモンスターを魔力のこもった斬撃で何度も攻撃すると倒せたと。

 飛行モンスターは物理衝撃に弱いそうです!


 各対策部隊に強力な狙撃手を配備してくださいと提案が来ました」


「よし!

 最高の吉報だ!

 自衛隊に連絡して部隊を整え、モンスターを殲滅するぞ!」



ーーーーーー



 本来、強力なスナイパーライフルは国内使用を制限されていた。

 しかし悲惨な状況を前にして、現場の判断でマテリアルライフル並の強力なスナイパーライフルで狙撃を行った。


 そこに苦戦していた初級の対策部隊が居た。

 初級部隊は落ちたモンスターに憎しみのこもった斬撃を何度も繰り返し、倒したのだった。


 自衛隊と対策部隊がお互いの顔を見て。


「倒したぞーーーーーー!!!」


 と喜びの声を上げる。

 今まで倒せず、追い払う事しかできなかった。

 その間、仲間の死、市民の死、自分の死の恐怖を乗り越えて戦っていた。

 その喜びは筆舌に尽くしがたい。


 自衛隊と対策部隊で相談し、それぞれの上司に報告する。



ーーーーーー



 日本最強の精鋭部隊しか倒せなかったハーピィを、初めて自衛隊と初級部隊の協力で倒したのだ。


 その情報はまたたく間に広がる。


「自衛隊が狙撃で落とせば対策部隊が倒せる!」

 今まで防戦一方の対策部隊が色めきたつ。

「早く狙撃チームよこしてくれ!」

 と本部に要求する。


 自衛隊上層部が防衛大臣にマテリアルライフルや強力なスナイパーライフルの国内使用許可を貰い、何組もの狙撃チームが作られ、ダンジョン対策部隊に順次合流する。




 過去の経験から、近代兵器でモンスターを倒せないと言う感覚が染み渡っていた。

 そしてダンジョン対策部隊が上手く対処していた。

 そのため、自衛隊と警察は避難誘導と防衛だけだった。


 だが、状況が変わる。


 飛行モンスターにダンジョン対策部隊は無力を晒す。

 だが、近代兵器で倒せずとも飛行モンスターの機動力を奪う事ができる。

 強力な弾丸が一度当たって落ちれば、次は簡単に当たる。 二度と飛ばす事はなかった。




 狙撃チームが合流したダンジョン対策部隊はモンスターを倒す事にだけに専念し、避難誘導や防衛は自衛隊と警察が専任する体制が作られる。


 急遽新しい部隊編成を行うが、どんなに急ごうとも1日以上の時間がかかる。

 さらに、九州と中国地方の広い範囲に飛行モンスターが単体で散らばっている。


 一度逃すと次に討伐チームが補足するのは困難を極める。


 上陸から討伐終了まで7日の時間が掛かった。


 結果、数千名の死者と数千名の重軽傷者をだす。

 1回のモンスター襲撃で、日本で最大級のモンスター被害となった。


 そして、3次4次のモンスター襲撃も予想される。




 日本最大のモンスター被害も世界のニュースとなって流れる。

 しかし、陸続きの国にとって国外からのモンスター襲撃は普通で有り、モンスターに国境は無い。

 被害の規模も珍しく無かった。


 日本もモンスター被害が増えたのか。

 ダンジョン対策の優等生では無いな。

 日本も危険な国だ。


 世界はこの程度の認識だった。





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