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第13話

13話 暗殺だけがアサシンの死事しごとじゃねーんだぜ! これはアサシンとして、俺が選んだことなんだ。


 死導しどう製のアサシンスーツのデザインは、ライダースーツと言う物に似ているそうだ。

 寒い時期には着用している人が多いので、特に目立つことがないらしい。

 このような状況の時ほど、街の中に溶け込むことが俺達の常識行動だからな。

 それにしても、この世界のアサシンスーツは、とても素晴らしいデキだった。

 着用している時に玄人げんとから説明をされた。

 ほぼ刃物で切られることはなく、銃と言われる兵器も頭を撃ち抜かれなければ、死んでしまうことがないほどの耐久力らしい。

 移動中に、空の機械の確認をして、銀行に近付ける限界のところまで近寄った。


(この世界は明る過ぎる)


 元の世界なら闇隠やみがくれを使うのだが、無理だと判断をして、五階に上がるルートの選定をしながら、その場から一旦離れた。


★★★★


 俺達アサシンは目標が決まると、それが線となり、ルートが見える。

 しばらくルートを探っていると、その線が一致する場所を見付けた。


(ヨシ。このルートだな)


 ヘリコプターと言う機械に注意をしながらマスクを着けた。

 少し不安だったが覚えたての呪文、隠密おんみつを唱えて、素早く屋根づたいに銀行の屋上へと上がった。


(ちゃんと隠密おんみつの効果は、掛かっているのだろうか?)


 呪文、集音しゅうおんを使い、ドアを軽くノックした。


(強盗犯は少人数なのか?)


 ドアの向こうには誰も居ないようだ。

 素早く鍵を開けて中に潜入をして、任務にんむを開始した。


★★★★


 階段を下りて行く途中に鏡があり、残念だが薄っすら俺の姿と影が出てしまっていた。


(チィッ、仕方がない。これで今回はヤルゾ!)


 三階に下りようとした時、誰かが上がって来る足音が聞こえた。

 呪文、飛翔ひしょうを唱え、天井に張り付き、玄人げんとから受け取った睡眠薬の吹き矢を構えて待っていた。


威張いばってねーで、テメーらも見廻りヤレって。チィッ」


 見廻りなのだろうか? 1人の男が五階へ上がって行こうとしていた。


〈フッ〉


 玄人げんと達が使っている睡眠薬は、効果が抜群だった。


 俺が放った針は確実に男の首に刺さり、5歩も上がらないうちに崩れ落ちそうになっていた。

 急いで下に下りて、男を支えて音がしないように横にさせた。

 素早く腕と脚を後ろに回し、拘束具を使い、手と脚の拘束を同時に行い、動けないようにした。

 口と目にテープを張り付けて、抵抗不能ていこうふのう状態じょうたいにして、首から針を抜いて、素早く一階まで下りた。


★★★★


 室内の声を聞き、出入口の確認を済ませて、素早く呪文、飛翔ひしょうを唱えて天井に張り付いた。


「オイ、てめーら、逃走用の車はまだなのかよー。早くしないと人質を1人づつっちまうからな」


 強盗犯は誰かと連絡をしているみたいだ。

 人質であろう人達の確認と、室内に血の匂いと血痕がないかの確認をした。

 床に血痕がないので、人質に大きな怪我けががないことが知れてホッとした。


(目隠しをされているのが人質だとすれば、7人だ)


 俺はすぐに、強盗犯の特定をした。


(強盗犯はスマホと銃を持っている奴と、銃を持っている奴の2人だけのようだな)


 銃だけを持っている奴の行動に、視線が向いていた時だった。


「貴様は誰だ! 死ねよ!」


〈バァーン〉


 スマホで連絡をしていた男が声を荒げて、俺に向けて銃を放った。

 不意をつかれた俺は、脇腹を撃たれて天井から床に打ち落とされた。


(うっ、1本、持って行かれたか……)


 鈍器どんきで叩きつけられたような痛みが、脇腹からしていた。


(銃と言う武器は、こんなに威力がある武器なのか……)


 なんとか片膝を付き、体制を立て直すと強盗犯からスマホを見せられた。

 そこには、痛みで脂汗を垂らしている俺が映っていた。

 スマホと言う物は連絡が終わると黒くなり、鏡のようになるようだ。

 人質に大きな怪我けががないことが知れて、ホッとしてしまった俺のミスだ……。


(肝心な時に隠密おんみつの効果が切れていたことに、気付けなかったか……クソッ。この世界でも俺は……また)


「なぁ、見せしめに何人かっちまおうぜ!」


 もう1人の男が人質のほうへ行こうとしていた。

 任務中にんむちゅうに言葉を発することは、アサシンには厳禁げんきんだ。


(まだ俺は未熟者だな! ロギー師匠ししょう玄人げんと師匠ししょう。もうバレてもいい! 美空と人質を救えるのなら)


 俺の長所でもあり、短所でもある熱い思いが込み上げ、感情が出てしまった。


「キ、貴様ら、いいか? 人質に何かしてみろよ。俺の全力で、この世界から貴様らの肉片にくへんも残さずに消し去ってるからな」


 俺に銃を撃った男が近付き、マスクを引き剥がされた。


「お前は、この状況で何を言っちゃっているのかな? なら、お前から先にっちゃおうかなぁ~」


 強盗犯が俺に銃を構えて、ニヤリと笑った瞬間だった。


(今だ! 頼む、耐えてくれよ俺のからだ


「呪文、服部流奥義はっとりりゅうおうぎ 俺式おれしき幻影げんえい分身ぶんしん二式にしき 銀狼ぎんろうだぁーー」


 2つの呪陣じゅじんが展開し、2人の幻影が現れたのだが、負傷している影響で、強盗犯には実体の俺と幻影の2人が見えてしまっているようだ。


〈バン、バン、バン、バン、バン〉と、2人は俺の残像ざんぞうを追いアチコチに銃を撃ちまくっている。


(こいつら銃を撃つことに、ためらいがない……)


 だが本物は俺だけだ! 一度その攻撃をもろに受けているんだ。

 銃の対処方法も、もう分かった。

 だが人質にながだまが当たるかも知れない……マズイな。

 奥義中の2重呪文は、特訓中にも試したことが俺にはなかった。


(この状態の体で俺に出来るのか?)


 いや、考えている余裕なんて、今の俺にはないんだ。


「燃え上がれ、限界を超えるんだー。呪文、影縫かげぬいだぁー!」


 奥義中に2重呪文を唱え、影縫かげぬい用の針を放った。

 あれだけ撃ち続けていた銃の音も止み、強盗犯の2人はピクリとも動けず、言葉も出せないようだった。

 2人の銃を叩き落として、吹き矢用の睡眠薬の針を2人の首に刺した。

 だが俺の体は、ここまでが限界だった。


(ヤ、ヤバイ、い、意識が飛んでしまいそうだ……)


 激しい痛みが脇腹からしていたのと、初めて使った奥義中の2重呪文のため、銀狼ぎんろうを放つところまでの状態ではなかった。


「こいつ、ば、化け物だ!」


「き、貴様は、何者なんだ」


「はぁ、はぁ、ふぅ~~」


 上がっている呼吸を整えて、悪党の質問に答えてやったぜぇ……ニヤリ。


「スマンな。俺には貴様らみたいな悪党に名乗る名前を持ち合わせてない! ここが、ルノーン界でなくて良かったなぁ。命があるだけでも感謝しろよ」


 強盗犯の2人はイビキをかきながら、そのままその場に崩れ堕ちた。

 痛む体にムチを打ち、爆睡している強盗犯2人の拘束を素早く済ませた。

 影縫かげぬいで使った針を回収して、強盗犯2人の首から睡眠薬の針を抜いた。


「もう大丈夫です。みなさん・・・・」


「・・・・? あ、あれ!?」


 返事がないのでよく見ると、耳栓までされていた。


(怖かっただろうに。終わりましたからね)


 もう一度、呪文、隠密おんみつを唱えてマスクを着け直し、素早く出入口の鍵を開けてシャッターのボタンを押した。

 痛む脇腹を押さえながら、急いで五階に駆け上がった。

 五階のドアを開けて、空を飛ぶ機械の確認をしてから下の確認をした。

 銀行に大勢の人が入って行くのを確認したので、後のことは任せて、そのまま俺はやみへとまぎれた。

 その日、夜遅くに玄人げんとと美空は警察から帰ってきた。


★★★★


 翌日のニュースでは、強盗犯3人のことが取り上げられているようだ。

 中でも強盗犯の2人が連行されていく時に、同じことをテレビカメラと言う物に向かい、叫んでいたことが話題となっている。


「1人の化け物が、3人になって拘束されたんだぁー」


「ヤツは魔法を使う、化け物だったんだぁー」


 ・・・・だとさ。


(誰が化け物だ! 悪党どもめが! 俺に大ダメージがなければ、お前らみたいな悪党に俺の奥義は見えなかっただろうよ。ケェッ)


★★★★


 あれから2週間が過ぎた。


 3日前に初めて、月給と言う給金を玄人げんとからもらえた。

 2人を誘い、予定通りに牛丼屋さんへ行って、玄人げんとと美空に普段の恩返しをすることが出来た。

 牛丼屋さんに行った時、美空に事件のトラウマが出てしまわないか? と、少し心配だった。

 だが、幸いにも俺の心配は不要のようだ。

 いつもと変わらない、食欲しょくよく旺盛おうせいで、ニコニコ笑顔の可愛かわいい美空だった。

 牛丼屋さんの帰りにドラッグストアーと言うところに寄り、トラ先輩への献上品けんじょうひんも購入をした。


(笑)


 俺の負傷したあばら骨も、なんとか回復が出来ている。

 それと、今回の救出と捕縛で、玄人げんとから仕事終わりに特別とくべつ報酬ほうしゅうが出ることとなった。


★★★★


「バートお疲れ~。ほら、約束のブツだ!」


「おお、スマン。玄人げんと


 売れ残りの焼きイモではなく、俺専用の焼きイモを受け取った。

 新聞紙を取り、焼きイモにキスをしてから食いついた。


「やっぱり、焼きイモ屋ゲンちゃんの焼きイモは最高にうまいな!」


「バートにも、うまい焼きイモが焼けるようにビシビシ鍛えてやるから、大丈夫だ」


「ああ、頑張がんばるよ。玄人げんと師匠ししょう


「良し。じゃ~、帰ろうぜ! バート」


 うまい焼きイモを食べながら、鼻歌をかなでている玄人げんとの運転で、可愛かわいい美空が待つ、山島家に車を走らせた。



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