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第12話

12話 元アサシン、思いと決意と、秘密行動ひみつこうどうを開始する。


〈コンコンコン〉


「バート~、美空、出掛けてくるからねぇ。お昼を食べてねー」


「はっ、はいよー。行ってらっしゃーい。ふぅ~~ん」


 大きく伸びをして、時計を見ると14時を過ぎたところだった。

 布団ふとんをしまい、まだ眠たい目をこすり、顔を洗って歯を磨き、一階に下りた。


★★★★


 リビングには、おにぎりが置いてあり、商店街に買い物と銀行に行くと美空のメモがテーブルに置かれていた。

 俺が寝ている時に、美空は明日のイモを準備してくれていたようだ。


「ありがとうな。美空」


 おにぎりを食べながら、俺も明日の準備をしていた。

 乾いた石を二段の焼き台に敷き、美空が用意をしてくれていたイモを積んだ。


「あれ、まきが少ないかな~」


 まきが少なかったのを確認したので、呪文、きを使い、仕事で使うまきを作り、まき置き場に積んで車の荷台にも乗せていた。


「ただいま~美空~。アレ、美空は? バート」


「お帰り、玄人げんと。美空は買い物と銀行に行っているぞ」


「そうか、ただいま。バート」


 お土産をリビングに置き、荷物を持って二階に上がり、玄人げんとは着替えを済ませて下りて来た。


玄人げんと任務にんむのほうは?」


「ああ、キッチリと済ませたよ。痛みも感じないぐらいにな」


 親指を立てて首のところを横に引いた。

 この2日間にあった出来事や、自分のことを玄人げんとに話した。


「そんなこと、まぁ~バートが今、ここに居るから信じてはいるが半信半疑はんしんはんぎなんだがな……」


 玄人げんとはヤーニ〈タバコ〉に火をつけて、一服しながら、お茶を飲んだ。

 ダッシュで自室に戻って攻略本を手に取り、リビングに戻り玄人げんとに渡した。


「読んでくれ、玄人げんと! 玄人げんとに話したことが、書いてあるはずだ」


 玄人げんとは、黙って攻略本を読み続け、時々、俺のことを見て、また読み続けていた。


 2冊の攻略本を読み終えると、俺にニコリと微笑んだ。


「なぁバート、これが本当のことなら、お前はどうしたい? 何が心配だ? 俺達家族に出来ることはなんだ?」


 この時、俺は玄人げんとがロギー師匠ししょうと重なって見えていた。

 だからなのかも知れない……思っていたことや考えていたことを、無意識に話し出してしまっていた。


「俺が、突然消えてしまったことで師匠ししょう達がどうなっているのか心配なのと。タクマにいが俺を敵として消したのか、生かすために消したのかを知りたいんだ」


「このゲームは続きが出るぐらいの人気作品らしいんだ。もし続きが出ることになり俺の話が作られたら、バート服部は、山島やましま 刃痕バアトは、玄人げんとや美空の前から突然、消えてしまうかもしれないんだ」


「俺は、そのことが、今はとても怖いんだ……玄人げんとと美空には、今までと同じくこの世界での家族でいて欲しい」


 あ~、これが、このことが、攻略本を読み、イベントで自分のことを知ってから感じている俺の本当の感情だったんだな。

 俺の思いを聞いた玄人げんとに頭を優しくでられた。


「バート、先のことはまだ分からんだろ? なら後悔をしないように毎日を懸命に生きろ! バート服部は、山島やましま 刃痕バアトは、この世界で懸命に生きていたと胸を張り、元の世界に戻れた時に師匠ししょうへ報告が出来る生き方をしろ!」


「俺達は家族になったんだろ? 家族は何があっても変わらないよ。心配するな! 2度と会えなくなってもサヨナラは言わないよ。バート、またな!だ」


 俺は熱い思いが止められず、涙を流しながら〈うん、うん〉と頷いて聞いていた。

 玄人げんとはティッシュの箱を差し出して、俺に手をグーにして出した。

 出されたティッシュを取り、出されたグーに俺も手をグーにして、タッチした。

 このことは、美空には伝えないように玄人げんとに頼み、攻略本を持ち自室に戻った。


★★★★


〈ウ~ウ~、ウ~ウ~、道を開けて下さい。緊急車両が通ります〉


〈ウ~ウ~、ウ~ウ~、道を開けて下さい。緊急車両が通ります〉


〈ウ~ウ~、ウ~ウ~〉〈ウ~ウ~、ウ~ウ~〉


(ウルサイな~。宣伝放送も、これぐらいの音量でさせてくれよ……全く)


 二階に戻った俺は、玄人げんとに言われたことを攻略本を読みながら考えていた。

 俺は元アサシンだ、玄人げんとが所属する死導しどうの手伝いをすることがベストな選択なんだろう。

 だが俺は、この世界の人間ではないことが、ほぼ判明している。

 この世界の人間ではない俺が、この世界の人間に、任務にんむと言う暗殺を遂行すいこうしてもいいのだろうか……。


〈ウ~ウ~、ウ~ウ~、緊急です、緊急です。道を開けて下さい〉


「なんだよ今日は、何台の車がこの音を鳴らしているんだ?」


 呪文、集音しゅうおんを使い、この音を探った。


「1つ、2つ、3つ、4つ」


 オイオイ、すごい数の車が、この音を鳴らしながらアチコチから走って来ているぞ。


★★★★


 素早く窓から屋根に上がり、屋根づたいに、この辺りでは1番高い桜湯と言う銭湯の屋上に上がり、音の集まる方向を探った。


「この方向は牛丼屋さんの方向だな」


 俺の近々の目標は、初めて貰う給金で牛丼屋さんに行き、玄人げんとと美空と腹イッパイ牛丼を食べること、恩返しをすることが目標だったんだぞ。


(牛丼屋さん、大丈夫かな?)


 素早く自室に戻り、リビングに向かった。


★★★★


玄人げんと、牛丼屋さんのほうで何かがあったようだぞ?」


「ああ、銀行強盗みたいだ。いま臨時ニュースと中継が入っているよ」


 テレビには、牛丼屋さんの前にある銀行の周りに、赤い光を回した車がたくさん止まっているのが映されていた。


(あれ、銀行?)


 俺のアサシンとしてのかんなのか? 嫌な感覚を体に告げていた。

 素早く、台所と車庫の確認をした。


玄人げんと、美空は?」


「まだ、帰って来てないぞ」


(なんだ、なんだ、この変な感覚は……)


 あれから1時間が過ぎても美空が帰って来ない。

 俺のイヤな予感は、どんどん強くなっていた。


〈バァーーン〉


 テレビから何かの破裂音がして、一瞬だったが縦開きのブラインドカーテンが動いた時に、目隠しをされている美空が見えてしまった。


玄人げんと! 美空が銀行の中に居たぞ! 俺にはハッキリと見えたんだ。目隠しをされていたが、あれは美空だった」


「なんだと! 本当かバート」


 玄人げんとの顔がひきつり、顔色が青ざめ出した。

 玄人げんとは急いで二階に上がり、初めて見る暗殺服を着て下りて来た。

 だが俺は、急いで玄人げんとを制止した。


「駄目だ。玄人げんと! 玄人げんとの素性が知られてしまう」


「なら美空はどうするんだ! 美空が、美空が……」


「俺が行くよ、玄人げんと! 美空は俺にも大切な家族なんだ。妹なんだ! 元の世界に戻れたら、師匠ししょうと亡き母に胸を張り、家族の救出をしたんだと報告をしたいからな!」


「ならバートに今回の任務にんむを頼む」


 俺は首を左右に振り、興奮こうふんしている玄人げんとを安心させるために、玄人げんとの肩を軽く叩いた。


玄人げんと、今回は暗殺が任務にんむではない。家族と人質の救出とゴミ悪党の捕縛ほばくだ!」


 玄人げんとの真似をして、俺も親指を立てて下に向けた。


「バート、娘を、美空と人質の救出を頼む。空にヘリコプターと言う飛行している機械も飛んでいるから気を付けてな!」


「ああ、了解した。 玄人げんと師匠ししょう! 任せてくれ」


 急いで二階に上がろうとした時だ。


「バート、部屋に来い」


 2人で玄人げんとの部屋に行き、新たなアサシンスーツを渡された。


★★★★


「お前が死導しどうに参加をするなら使わせようと思っていたんだよ。使ってくれバート」


「有り難う、玄人げんと死導しどうに参加出来るか分からないが、有り難く使わせてもらう」


 急いで新たな暗殺服と言うアサシンスーツを着用して、薄暗くなり始めた銀行へ、美空と人質の救出へと向かった。





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