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第11話

11話  元アサシン、バート事実に迫る。


 俺も風呂から上がり、美空が持って来た疾風しっぷう 激烈げきれつ アサシンズ マスターズの攻略本を受け取った。


「美空は、このゲームが本当に好きなんだな!」


 持ってきた本の多さに、俺はビックリさせられた。


「うん、好きだよー。美空はねー、盤内井ばんうちいパプコさんのゲームが好きだから多いかなぁ」


「なら、貸してもらうな」


「うん。バート、お休み~」


 美空が部屋に戻ったので、まずは疾風しっぷう 激烈げきれつ アサシンズ マスターズの本を手に取って、若い頃のロギー服部の武勇伝ぶゆうでんが書いてあるのを見ていた。


 疾風しっぷう 激烈げきれつ アサシンズ マスターズは、師匠ししょうがアサシンとしての10年間のことを追体験するゲームだったようだ。

 心の準備は出来ていたが、やはり俺はこのテレビゲーム、疾風しっぷう 激烈げきれつ アサシンズ マスターズのバート服部だった。

 俺とタクマが聞かされていたことが書いてあり、聞かされていなかったことや仲間達の偉業いぎょうも書いてあった。

 俺達の任務にんむは、なければないほどいいことなのだ! だがテレビゲームの中では、俺達の存在そんざい意義いぎや必要性などが書いてあり少し誇りに思えた。

 師匠ししょうの親友、ハーサンのことや、兄弟子あにでしのタクマと俺が経験した幼少の頃のことも、間違いなく書かれていた。


「ふう~~ぅ」


 大きく息を吐き、次のページをめくるとイベントで美空とりょうちゃんがしていた、コスプレのアサシン2人のことが書いてあった。

 読み続けていると、とんでもない事実が書いてあった。


「えぇーーぇ!!」 


 み、美空って、おっ、俺の母さんだったのかぁー! イヤ、イヤ違う、違う……勘違いするなよ、落ち着け俺。

 元の世界でのことだぞ! 美空はイベントでのコスプレだ。

 幼少の頃に師匠ししょうから、お前の母は美しく強い女性だったと聞かされていた。

 俺の母は、奴隷どれい救出きゅうしゅつ勅令ちょくれいを受けて、とらえられていた女の子達の救出に成功したのだが、最後に逃げていた女の子をかばい、大怪我おおけがを負ってしまい、絶命ぜつめい寸前すんぜんだったようだ。

 そこに師匠ししょうが現れ、最後に逃げていた女の子の無事を確認した後に、まだ話すことが出来ない幼い子供を頼み、絶命したようだ。

 母さんは、俺のことをちゃんと師匠ししょうたくして亡くなったんだ。


(う~ぅ、美空~……じゃなくて、エリー母さん。生存中にエリー母さんと呼んであげたかったよ)


 りょうちゃんがしていたコスプレのアサシンは、ハーサンの娘さん、エミリーオバさん・・・・お姉さんだったんだな。


(若い頃の母さんとエミリーさん、いい意味ですごいスーツを着用していたんだな~。苦笑)


〈チュンチュン、チュンチュン〉


 外で鳥が鳴き出した。

 縦開きのブラインドカーテンを開けると、外が明るくなり始めていた。

 攻略本を置き、窓を開けて大きく伸びをした。

 疾風しっぷう 激烈げきれつ アサシンズ マスターズ2は発売されたばかりだから、まだ2冊しか攻略本は出ていないことを美空から聞いていた。


「残りは2冊だ」


 部屋を出て台所に向かい、コーヒーを入れて飲み、気持ちを落ち着かせた。


「さて、トイレを済ませて続きを読むかー」


 コーヒーカップを洗って、二階に上がった。


★★★★


 部屋に入り、攻略本を手に取り、一息してから読み始めた。


 疾風しっぷう 激烈げきれつ アサシンズ マスターズ2だ。


 タイトルが長いので、アサマズ2とした。


「さて、ここからは俺のことが書いてあるはずだ」


 アサマズ2からは、ロギー師匠ししょう兄弟子あにでしタクマと俺のことが書かれているようだ。

 俺は自分のことより、行方ゆくえ不明ふめいになっていたタクマのことが気になって読んでいた。


「そうだったのか……タクマ」


「わざと捕まり、妖術ようじゅつ薬師やくしに洗脳をされた振りをして、7年間もウエルス国の情報をイグニス国や他国に流してくれていたのか……」


 俺に物心が付いた頃、タクマにいは食事中に師匠ししょうから、毒の耐性を付けるために少量の毒を摂取せっしゅさせられていた。

 毒のために、熱や吐き気や体に痛みが出て苦しんでいる時もあった。

 俺が師匠ししょうに辞めて欲しいと頼んでも受け入れられなかったのは、タクマにいには勅令ちょくれいが出ていたからだったんだ。

 タクマ兄を死なせないために……師匠ししょうは……。

 師匠ししょうも辛かっただろうな……俺達を本当の子供のように可愛がってくれていたからな。

 俺の目からは、大量の熱い何かが流れていた。


「生きていてくれて、良かったよ。タクマにい


 ティッシュを取り、熱い何かを拭き、鼻水をかんで自分のことを読み始めたのだが、追体験をするゲームなら成功していた任務にんむのことは飛ばすことにして、確信に迫った。

 俺は未熟者だ……俺の潜入は、城に潜入してから3の時にはバレていた。

 タクマにいへ返り討ちの勅令ちょくれいがバン王から出されて、万全の罠が張られていたようだ。


(全く恥ずかしいものだ。自分の醜態しゅうたいを説明されながら、知っていくと言うのは……)


 暗殺予定のバン王、エミリア王妃、妖術ようじゅつ薬師やくしの3名の寝室を探っていた最中にバレテいたようだ……。

 どうやら俺は、ウエルス国の妖術ようじゅつ薬師やくしが開発した新薬を使った毒針を、タクマにいに撃ち込まれてしまったようだ。

 意識を失っていた最中に、手足の拘束をされて、マスクを外され、口を塞がれ、目隠しをされていた。

 俺のルートは、ここでタクマにいに何かの液体を飲まされて、今この状況になっているみたいだ。

 攻略本を読んでいて、どうしても気になっていることがあった。

 タクマにいの最後の言葉だ。


「何処に行くか楽しみだな。バート」


(死ぬなよ。バート)


「もう二度と会うことはないだろうな。サヨウナラだ」


 この言葉の意味だ! 俺は、ここで死ぬ予定だったのだろうか? 俺を逃がすために危険なリスクを負ってでも、薬をすり替えて俺を他国へ逃がすために、あの液体を飲ませたのであろうか。


〈コンコンコン〉


「バート起きている? 朝食が出来たよ」


 美空から声を掛けられたので、時計を見ると午前9時を過ぎていた。


「起きているぞ~、美空~。下に行くから待っていてくれ」


 俺は2冊の攻略本を持ち、リビングに向かった。


★★★★


「おはよーう、バート」


「おはよーう、母さん……じゃなかった。美空」


(バカか俺は、しっかり引きずっているじゃないか……汗)


 朝食は、さけを焼いた魚の切り身に俺の好きな甘めの玉子焼き、大根の味噌スープに漬物と、もちムギ飯だった。

 朝食を食べ終えて、洗い物を終えた美空が台所からリビングに戻って来た。

 俺は意をけっして、美空に尋ねた。


「美空、スマン。このカッコの部分は、どう言う意味なんだと思う? 俺は読むことはなんとか出来るが、言いたい意味がまだ良く分からないんだ」


 美空に攻略本を渡すと、美空が声を上げた。


「あ~あバート、よだれを垂らしていたなー。よだれで本がれちゃっているじゃ~ん」


「……スマン。美空」


(俺の熱い何かで、なっちゃっていたみたいだ……。ゴメン)


 美空は攻略本を頷きながら、しばらく読んでいた。

 タクマルートの最後がまだ書かれてないから、分からないと言われた。

 だが美空は、俺にこう教えてくれた。


「多分、バートルートのタクマは、バート服部のことを助けたかったんじゃないかなー? だってバート服部の追い込みの全てをタクマがしているしね! 自分が行えば調整が出来るからね。(死ぬなよ。バート)と、心の中で願っているみたいだしね」


 美空の説明を聞いていて、俺はまた熱い何かが目から流れていた。


「ナニ? バート泣いているの? 大丈夫なの?」


「大丈夫だよ。目にゴミが入ったんだ」


 素早くティッシュを取り、美空に気付かれないように目を隠した。


「有り難う、美空。意味が分からないと読むのも大変なんだな日本語。少し寝るよ、攻略本ありがとうな」


 俺達は二階に上がり、美空にアサマズ2の攻略本だけを残して、感謝を伝えて返却をした。


 俺は少し寝ようとしたが、イベント会場で言われたことが頭に浮かんだ。


疾風しっぷう 激烈げきれつ アサシンズ マスターズ3にはバート、出るんですかねー〉


 俺は今、ココに居るのだが……。

 もし、疾風しっぷう 激烈げきれつ アサシンズ マスターズ3に俺がキャラクターとして登場するなら……。

 この世界から俺は、消えるのだろうか……。

 考えていたのだが、知らぬ間に俺は眠ってしまったようだ。



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