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第10話

10話 元アサシン、美空とイベントへ行く。〈下〉


 3人でコスプレ会場に入ると、とても広いスペースだった。

 俺達同様にコスプレをした人達と、美空に聞いていたカメラを持っている人達で、いっぱいだった。

 元の国で言えば戦闘せんとう重甲じゅうこうのような、体に重甲じゅうこうを付けている格好をしている人達も居る。

 美空が学校に行く時に着ている服のような、派手なセーラー服やブレザーを着ている集団も居る。


(この国は、コスプレって文化なんだな)


「みーちゃん、バート君、写真を撮ろうよ~」


「うん、りょうちゃん」


(さて俺は、2人に楽しんでもらうか)


 2人にデジタルカメラと言う物を渡されて、使い方を教わり、2人のバトルシーンや呪文を唱えているポーズの写真を撮影していた。

 俺も呼ばれて、美空と涼ちゃんと一緒に、戦闘中のポーズや呪文を唱えているポーズの撮影をしていた。


(美空は、そのタワワなオパーイ様がポロリンしないように! りょうちゃんは、下着が見えないように! 注意をしながらで大変だった)


 でも俺は、2人と写真の撮影をしつつも、とても不思議な感じがしていた。

 なんで2人は俺が元に居た国の呪文を唱えることが出来るんだろう? 師匠ししょうが使う服部はっとり流派りゅうは奥義おうぎ幻影げんえい分身ぶんしん実体じったい分身ぶんしんの呪文も唱えている……何故なんだ。


「あっ、見付けた。バートのコスプレの人、写真を一緒にお願いしまーす」


 振り向くと、ウエルス国のアサシン部隊のスーツを着たヤツが居た。

 条件反射で、つい戦闘のポーズで構えてしまった。


「待って、待って、その戦闘体制も決まりすぎでしょ~! 着替え中に声をかけた者です。やっぱりバートだったんですね~」


「あ、ああ、バートだが」


(なんで彼は、俺を知っているんだ?)


「スゲー似合っていますよー。スーツもすごいですね~、本物みたいですよ」


 その後、美空とりょうちゃんにデジタルカメラを返してから、彼と一緒に撮影をしていた。

 美空とりょうちゃんも、俺達の戦闘シーンをアチコチから撮影していた。


「有り難う御座いました」


 ウエルス国のアサシン部隊のスーツを着た男性が、頭を下げて立ち去ろうとしていた。

 だが俺は、すぐに彼を引き止めた。


「あ、スマン。あのさぁ~、何で君は俺がバートだと分かったんだい?」


「だって、そのアサシンスーツとポニーテールの銀髪にパープルアイは誰が見たって、ゲームの疾風しっぷう 激烈げきれつ アサシンズ マスターズのバートじゃないですか~」


 俺はこの後、彼から衝撃的しょうげきてきなことを聞かされた。

 彼はイグニス国のことや、師匠ししょうのロギーや兄弟子あにでしのタクマのことも知っていた。

 彼がコスプレをしているウエルス国のバン王のことや、エミリア王妃のことも知っていた。


疾風しっぷう 激烈げきれつ アサシンズ マスターズ3にはバート、出るんですかね~?」


「何故だい。バートに何かあったのかい?」


疾風しっぷう 激烈げきれつ アサシンズ マスターズ2のバートルートで! 行方不明だったタクマに妖術薬師ようじゅつやくしが調合した妖術薬ようじゅつやくみたいな物を飲まされて、転移をさせられちゃったんですよ~。あっ、ネタバレならスイマセ~ン……じゃ、また~」


 俺が居た元の国とは、疾風しっぷう 激烈げきれつ アサシンズ マスターズと言うゲームの世界なのか……。

 この国に飛ばされた状況と酷似こくじしている。

 俺は、ルノーン界の中にある全く知らない国に飛ばされたのではなく、テレビゲームから、この世界に飛ばされて来たのだろうか……。


(彼は、転移と言っていたな。この言葉は覚えておこう)


「そこの綺麗きれいな2人~、写真の撮影、お願いしまーす」


 彼はしっかり、美空とりょうちゃんとも撮影をして行った。

 しばらく何も考えられない状態で、俺はボォ~としていることしか出来ないでいた。


「バート!」


「バート君!」


 美空とりょうちゃんに呼ばれていることに、全く気付けなかった。

 美空に俺は、腕を捕まれたようだ。


「あっ、スマン。少し考え事をしていた」


「どうしたの? ナニか話をしていたけど、何か変なことを言われたの? 今の私達なら相手が誰でもブットバしてやんよ!」


 2人を楽しませないとならないのに逆に心配をさせちゃったな。


(だから美空~、そんなに激しく動かないのー。りょうちゃんも脚を上げ過ぎだよー)


「スマン、2人とも! もう大丈夫だよ、有り難う。さぁ~、遊ぼうぜぇー」


 自分のことを考えるのを一旦辞めて、2人の楽しいに全力で付き合った。

 楽しいことを全力で楽しむ2人を見ていて、俺もなんだか嬉しくなってきた。

 それに今日は、俺のこともなんとなくだが知れたしな。

 イベントに誘ってくれた美空には、本当に感謝だ。


(有り難う、美空、りょうちゃん。少しだが、お礼だ!)


 イベント終了の時間も迫り、人数も少なくなり、カメラを持っている人も居ないのを確認した。

 俺は2人を、イベントスペースの隅に誘った。


「美空、りょうちゃん。呪文はね、こう使うんだよ! 今日は本当に有り難う。2人だけに披露ひろうするぜ」


 2人を一定の位置に呪文のポーズで立ってもらい、2人のデジタルカメラを受け取った。


「体に風圧を感じても絶対に動かないでくれ。約束な!」


 実体分身じったいぶんしんは、今の俺には、まだ使うことは出来ない。


 だが、今の俺にも使える幻影分身げんえいぶんしんの本物を2人に披露ひろうをするために、両足を踏ん張って呪文を唱える準備をした。

 バン王の暗殺のために特訓を行い、アレンジをして手に入れた技だった。

 だが、タクマの邪魔で使うことが出来なかったから、2人も初めてだから分からないだろう。


(いま思えば、元の国でも使えなかったのは残念だったけどな)


 幻影分身げんえいぶんしんはロギー師匠ししょうが3人の幻影を出し、実体の1人が攻撃をする呪文だ。

 だが、俺の二式にしきは幻影が2人になってしまうが、最後に銀狼状ぎんろうじょうの気合いだんで攻撃をすることが可能なんだ。


(行くぜ! 服部流はっとりりゅう奥義おうぎ 呪文 俺式おれしき幻影分身げんえいぶんしん二式にしき 銀狼ぎんろう!)


 2つの呪陣じゅじんが展開し、2人の幻影が現れた瞬間に高速移動を開始して、美空とりょうちゃんの周りを駆け回る。


(2人は体に風圧を感じても、俺の高速な動きは普通の人からは見えないだろうからな)


 銀狼ぎんろうを放ち、急いでデジタルカメラのシャッターを押した。


「ふう~……はい、もう動いていいよ。美空、りょうちゃん」


 ニコリと微笑み、2人にデジタルカメラを返した。

 2人のデジタルカメラの画面には、2人が呪文のポーズをしている間で、俺が銀狼ぎんろうのような影を放っているポーズで写っていた。

 例えるなら、3人が合体呪文の攻撃を放っているようだった。


「バート、これ、どうやったの? カメラを持っているバートの周りが光っていたけど・・・・」


「バートくん、君は何者?」


 2人の質問に、俺は笑顔で答えた。


「俺は、焼きイモ屋ゲンちゃんの店員であり、呪文と言う手品を少し使えるバートだよ。手品はさぁ~仕掛けがあるから、2回目は出来ないんだけどね」


 俺はこの前、美空から教えられたテヘペロ顔をして、腕をクロスしながらダブルキュゥ~ンのポーズをして見せた。

 イベントのテンションのお陰か? 2人はとても喜んでくれていた。


「皆さん、お疲れ様でした。コミックターゲット終了の時間です」


「あ~、もう終わりかぁ~。楽しかったね、みーちゃん」


「うん、楽しかったね~。りょうちゃん、バート」


「ああ、初めてだったが日本の文化に触れられて俺も楽しかったよ。有り難うな、美空にりょうちゃん」


 2人は名残惜なごりおしそうに、イベント会場を出て、更衣室で着替えを済ませて3人で駅へと向かった。


★★★★


 電車の中でも美空とりょうちゃんは楽しそうに話をしていたが、俺はイベント会場で聞かされた話のことしか考えられなかった。


「次のイベントでも、2人の参加は決定だからね! じゃ~、みーちゃん、バート君、また遊ぼうね~」


 駅に着き、バイバイをしながらりょうちゃんと別れた。


(考え事をしながら乗っている40分は、とても短い時間なんだなーと思った)


 美空に買い物をして帰ると伝えられたので、俺は荷物持ちとして、駅ビルと言うところに向かっていた。


★★★★


「バートは何が食べたいの? 今日はなんでもいいよ」


 美空に言われたので、少し考えてから答えた。

 あることの確認をするためだ。


「美空が作ってくれる、パンパにモーイマッシュとチンキのモーモが食べたいな~」


(試すようなことをしてゴメンな。美空)


「ごめんねバート。今日は疲れたから夕飯は作るのイヤだぁ~。何? バートもゲームにハマったの?」


「美空は俺が頼んだ食べ物が分かるのか?」


「分かるよ~。疾風しっぷう 激烈げきれつ アサシンズ マスターズの回復食だよね」


(ヤッパリ美空も知っていたか……間違いなさそうだな)


「なら今夜は、弁当と言う物を食べようぜ。美空」


「うん。そうしよう」


 俺達は駅ビルと言うところの地下で、チンキのモーモにそっくりな、大きなチキンのモモが入っている! うまそうな弁当を買って、帰宅をすることにした。


★★★★


 家に戻り、リビングに荷物を置いて、俺達は一息ついていた。


「疲れたぁ~……でも、楽しかったね。バート」


「あ、ああ! 楽しめたみたいで良かったよ。俺も美空とりょうちゃんが楽しんでいるのを見ていて、喜んでもらえているのがうれしかったしな! さて、腹もへったし夕飯を食べようぜ」


 美空に『チンするから弁当をちょうだいと』言われ、弁当を渡して待っていた。


〈チン!〉


 温められた夕飯を食べながらテレビを見ていた時に、ふと思った。

 あっ! 昨夜、美空が持っていた書物を借りて、ちゃんと読んでみるか? イベントで聞かされたことの確認もしたいからな。


「なぁ~美空、お願いがあるんだけどいいかな~?」


「今日のバート、イベント会場でウエルス国のコスプレをした人と話してから何か変だよ? あの時はりょうちゃんも居たから、あれ以上は言わなかったけど、何か言われたの?」


 駄目だ! 美空が心配をしている。

 せっかく、みんなで楽しいことをして来たのに。


「違うんだ、俺もゲームに少し興味が出てきたんだ! 昨夜、美空も見ていただろ~、俺ヘタッピだからな! 書物から勉強をしようと思ってな。美空が昨日見せてくれた書物は何冊持っているんだ?」


 美空が心配をした顔から目を一気に輝かせ、テーブルに手をついて体を乗り出してきた。


「色々とあるよ。何がいいの? パズル、RPG、シューティング、アクション、格闘」


 ゲェ! ゲームとは、そんなに多くの種類があるのか。

 どうするか? う~ん……あっ、いい言い方が閃いたぞ。


「折角だから、今日したコスプレのゲームがいいかな~」


(1冊は昨夜、美空が持っているのを確認しているしな!)


疾風しっぷう 激烈げきれつ アサシンズ マスターズの本なら10冊はあるよ~。美空の好きなゲームだからね~」


(昨夜は気にせずに、パラパラ見ただけだったからな……ん? 10冊?)


「そっ、そうだなぁ~。なら10冊かしてもらえるか?」


「うん。お風呂を済ませたら持って行くね! 疾風しっぷう 激烈げきれつ アサシンズ マスターズを選ぶとは、バートやるな! 笑」


「美空には、負けると思うがな! 笑」


 夕飯を終えた美空は、お風呂を沸かして荷物を持って二階に上がった。

 これで、俺のことが分かるかも知れない……。

 ドキドキしながら、俺も自室に戻った。





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