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第9話

9話 元アサシン、美空とイベントへ行く。〈上〉


 風呂から戻った俺は、この国に来てからも習慣となり体に染み付いている死具しぐの手入れとチェックをしている。

 だが手入れをしながらも、この数日、思っていたことがある。


(なんで俺は、死具しぐの手入れをしているのだろう? アサシンの俺は消されたのに、もう居ないのに)


 玄人げんとと美空と居る時は考えないのだが、1人になると考えてしまう。

 特に今夜は、そのことを考えてしまう。

 この国に来て、初めて玄人げんと任務にんむに向かうからだ。

 本当に俺は、このままでいいのだろうか? ふう~。

 手入れも終わったし、もう寝るか? 明日は美空に楽しんでもらいたいからな。

 手入れが終わった死具しぐをしまい、眠りについた。


★★★★


 翌朝、2人の起床前に起きて、焼きイモ用の石を洗っていた。


「バート、早いな。おはようさん、ご苦労様だ」


 いかにも旅行に行くような偽装ぎそうの荷物を持って、玄人げんとがリビングに現れた。


「ああ、おはよう玄人げんと。今日は色々と用事があるので早くに済ませておきたかったんだ! それに、玄人げんとの見送りをしたかったからな」


 何年ぶりだろう? 俺にとって久々の任務にんむ前の見送りだった。

 俺が幼かった頃、師匠ししょうを見送った時のように玄人げんとのことを見ていた。

 たくさんの靴の中から、出掛けるようなお洒落しゃれな靴を履き、ヤーニ〈タバコ〉をゆっくり吸い込むと、ゆっくりと吐き出して駐車場の灰皿で消した。


「なんだよバート、そんな顔もするんだな、心配するな。美空と留守を頼むな! じゃ~行くよ」


 俺の肩を軽く叩き、玄人げんとが家から出て行った。


(俺は、どんな顔をしていたのだろう?)


 すぐに追い駆けて、玄人げんとが道路のかどを曲がり、見えなくなるまで見送った。


★★★★


 リビングに戻り、テレビをけて石が乾くのを待っていた。


「バートおはよう」


 美空が二階から下りて来て、台所に向かった。


「おはよう、美空。朝食はなんだい?」


「今日は、時間がないからB.L.E.Tサンドにするね」


「分かった。頼むな」


(B.L.E.Tサンドとは、なんだ?)


 分かっているように返事を返したが、俺には何が出て来るのか? 全く分からなかった。


「バートは、コーヒーを飲んで待っていてね」


「ああ、有り難う。美空」


 出されたコーヒーを飲みながら、台所で朝食の準備をしている美空の手際の良さを(スゲーな~)と思いながら見ていた。


「出来たよ~。バート」


 出された皿には、トーストしたパンにベーコンと言う肉を焼いた物と、目玉焼きとレタスとトマトが挟まれていた。

 確かに時間がない時に食べるには、効率の良い食べ物だった。

 美空は台所で、片付けをしながら、立ったままで食べていた。


「美空もこっちに来て、座って食べなさい」


 お兄さんぶって言ったが、逆に言い返されてしまった。


「出掛ける女性は時間が必要なの。早く準備をしなくてはならないのよー」


「・・・・分かった。スマン」


 元の国でもそうだった! 一定階級以上の女性達が出掛けると言うことは、自分達のステータスの確認もねていることがあるからだ。


(この国でも、そうなのか?)


 それ以上、俺には何も言えなかった。


「ごちそうさま~。バートも時間の確認をしながら、お仕事をしてね」


 俺に伝えて、美空は二階に上がって行った。

 俺もB.L.E.Tサンドを食べ終えて、コーヒーカップと皿を洗って片付けた。

 トラ先輩の食事の用意を済ませて、そのまま外に出た。

 石を触り、石の乾き具合の確認をしながら時計に視線をやると、10時チョッと前だった。


(アサシンとしては当然の時間管理だな!)


 ドヤ顔で自室に戻り、出掛ける準備をして美空のことを待っていた。


★★★★


〈コンコンコン〉


「バート、準備はどうかな? 大丈夫なら出掛けよう」


「準備はOKだ。美空」


 美空から借りたバッグを肩に背負い、ドアを少し開けた瞬間だった。

 体は覚えているようで、とっさに呪文、飛翔ひしょうを唱え、部屋の天井に張り付いた。


(誰だ? 今のショートヘアの美女は? 山島家にはロングヘアの可愛かわいい美空は居るが、あんな美女は居ないぞ?)


「バート、開けるよ~」


 ショートヘアの美女とトラ先輩が俺の部屋に入って来た。

 トラ先輩は俺の気配けはいに気付いたのか? 上を見て俺と目が合った。

 俺は〈しー〉のポーズをトラ先輩にしていた。


「あれ、居ない。何処から声が聞こえたんだろう? 下かな? トラ下に行くよ」


 ショートヘアの美女とトラ先輩は、部屋を出て行った。

 素早く下に下りて、鳴かずに黙っていてくれたトラ先輩に感謝をした。

 後でトラ先輩の好物を献上けんじょうさせていただきます。

 誰だ? 声は美空だが匂いと外見が全く違う。


「バート、何処に居るの~。もう出掛ける時間だよ~」


玄人げんとに留守を頼まれているんだ! 何かがあってはダメなのだ!!)


 素早く戦闘体制をとりながら、トイレの方へと移動して、二階からショートヘアの美女を見ながら声を掛けた。


「トイレだー。今から下に行く~」


 ショートヘアの美女が、二階を見ながら返事をした。


「はーい。待っているねー」


 おいおい、あの美女は美空だ……あっ! 昨夜見た攻略本と言う書物に描かれていた、キャラクターに似ているぞ。

 俺は急いで下に下りた。

 俺を見て、ショートヘアの美女に言われた。


「バート遅いよ~。急いで駅に向かうよ」


 思わず、俺は言葉をかけて確認をしてしまった。


「み、みそらさん、なのかなぁ?」


「も~、何を言っているのー。早く駅に向かうよ」


 美空であろう美女に腕をつかまれて、2人で家を出た。


★★★★


 駅に向かいながら、美空から色々と説明を受けている。

 ウィッグでショートヘアになっていること。

 メイクで今の顔になっていること。

 カラーコンタクトと言う物で、目の色が変わっていること。

 衣装は小さなタイヤが付いているキャリーケースと言う、美空が引いている物に入っていることなど。

 美空の楽しいは準備が大変なようだ。


★★★★


 駅と言うところに着いたようで、美空は周りを見ている。


「りょうちゃーん」


「みーちゃん」


 2人は待ち合わせをしていたようで、美空が時間を気にしていたことが分かった。


「みーちゃ~ん、そちらの人は誰なのかな~? 彼氏?」


 美空の友人が品定めをするように、ニヤニヤしながら俺のことを見ている。


「違うよ~。父さんのお弟子でしさんのバートだよー」


 俺はこの時、初めて知った。

 玄人げんとはまだ、俺が養子になったことを美空に伝えていないようだ。


「今日は、バートも一緒だから宜しくね。りょうちゃん」


「ハーイ。みーちゃん、バート君、今日は宜しくねぇ~」


「宜しく頼む。りょうちゃん」


 俺達は電車と言う乗り物に乗り、イベント会場へと向かった。


★★★★


 玄人げんととの仕事の移動中に見て、聞いていた電車と言う乗り物に乗れたことだけで、俺のテンションは爆上がりだった。


(こんなに多くの人を移動させることが出来るとは……電気はどのように作るのか俺には分からないが、鉄ならタガーイ国が造れば、この巨大な乗り物は造れるかも知れないな!)


 40分くらい電車に乗り、そろそろイベント会場近くの駅に着くようだ。


(本当に、この国はすごい国だ! ルノーン界のどの辺りにある国なんだろう? 広い水の地帯が地図にはあるが、水の地帯の先にある地図にも描かれていない場所にある国なのかな~?)


 そんなことを考えていて電車から降りずに居ると、あっ! と言う間に目的地に着いていたようで、慌てた美空に手を引かれ、電車を降りて会場へと向かって歩いていた。

 ……手間の掛かる兄でスマンな、美空さん。


(だが、俺は元アサシンだ! 歩いている時に、このイベントに行く人達がすぐに分かったぜぇ)


 何故なら、美空とりょうちゃんが引いているキャリーケースを引いている人達が多く、同じ方向に向かい歩いているからだ。

 キャリーケース見ながら歩いていたので、視線を上に向けると、目の前には巨大な三角形がひっくり返り、脚を伸ばして立っていた。


(おいおいおい、なんだよ、この巨大で立派な城は! 俺達はここに行くの? この国の王と会えるの?)


「み、みそらさん。俺達は、この大きな城で遊ぶのか? この大きな城には王は居るのか?」


 玄人げんとから〈城や王のことをあまり人には言わないように!〉と注意をされていたのに、俺の気持ちは熱く高鳴り、思わず聞いてしまった。


「みーちゃん、バート君って面白いね~。なりきるのは中に入ってからね」


りょうちゃん、バートの衣装もすごい仕上がりなんだよ」


「フムフム、楽しみにしているよバート君。あ、王様は居ないからね~……笑」


「……ふう~」


 どうやらイベントのテンションのお陰か? 変に思われずに済んだ。

 俺達はイベント参加の手続きを済ませて、コスプレの準備のために更衣室のところで別れた。


★★★★


 更衣室に入って着替えていると、知らない人から声を掛けられた。


「その衣装、すごい仕上がりですね~。会場で会ったら写真を撮らせて下さい」


「は、はい。どうぞ……。汗」


 俺は急いで準備を済ませて、更衣室前で美空とりょうちゃんを待っていた。


「ねぇねぇ彼、すごいイケてない?」


「うん、イケてるし、衣装もすごいねー。何のコスプレなのかな~? 会場で会ったら、一緒に撮影させてもらおうね~」


(うぅ~……呪文、集音しゅうおんを使わなくても聞こえてくる話が、俺には恥ずかし過ぎる。コスプレ会場で着用しているがコレは本物のアサシンスーツだ)


「バート君、すごい衣装だね~、みーちゃんが言っていたとおりだねー。格好かっこいいよ!」


 先に出てきたりょうちゃんから、声を掛けられた。


りょうちゃんの衣装も……あっ、イケてるね!」


(これで返しは、いいんだよな?)


「ありがとう、バート君。みーちゃん、すぐに来るから」


 りょうちゃんは、俺のアサシンスーツを触りながら、色々な確認をしていた。


(昨夜見た美空の衣装もだったが、りょうちゃんの衣装も、かなりのきわどい物だった。見る気はなかったぞ! なかったんだけど……スマンりょうちゃん)


「遅くてゴメンね~」


 振り向くと、昨夜見せられた衣装を着た美空が現れた。

 格好かっこいいし可愛かわいいぞ美空さん。

 でも、バート兄さんが心配をしていたように、なっているじゃないかぁ~。

 歩く度に、そのタワワなオパーイ様がアチコチに動いて、アサシンスーツからポロリンしてしまいそうになっているじゃないかぁ~。


「どう? りょうちゃん、バート」


 美空は、手作りであろう死具しぐを持ち、ポーズを決めて俺達に見せた。


「みーちゃん、すごいね~。ちょ~決まっているよ~」


「ありがとう、りょうちゃん。りょうちゃんの衣装も可愛かわいいね~」


 ワチャワチャしていて、とても2人は楽しそうにしている。

 今日は美空とりょうちゃんの楽しいことをさせてあげることが、俺の任務にんむだな。


「みそら~、似合っているぞ。格好かっこ可愛かわいいアサシンだ! さて美空とりょうちゃんの楽しいことをしに行こう」


 2人を誘い、俺達はコスプレ会場へと向かった。





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