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第8話

8話 元アサシン、美空と約束をする。


 本日も販売が終わり、俺達は家に向かっていた。

 玄人げんとが言うには、俺が店員になってから売れ残りが少なくなり、早く帰れてとてもいい感じだと言っている。


「バート、明日と明後日、美空のことを頼むな」


「ああ、美空のことは了解だが、玄人げんとは大丈夫なのか? 玄人げんと……俺も」


「大丈夫だ! バート」


 今回のターゲットは、信者と呼ばれる者の幸せを壊し、多額の金銭や財産の請求をする『クソ坊主一家』だと、玄人げんとは言っていた。

 元の国でもそう言う教団があり、師匠ししょうのロギーと仲間が壊滅かいめつさせたことを自慢話じまんばなしとして聞いていた。


(国が変わってもそう言う奴らは居るようだ……)


「キッチリ、ターゲット全ての煩悩ぼんのうを断ち、涅槃ねはんへとみちびいてやるよ」


 玄人げんとの目つきが鋭くなり、親指を立てて、そのまま下に向けてニヤリと笑った。


★★★★


 家に着き、シャッターを上げて、車を止めてシャッターを下ろした。


「……シーン」


 シャッターの音がしても、今日も美空の出迎えがない。

 この1週間、部屋で何かをしているようで、呼ぶまでリビングに下りて来ない。


「バート、スマン。美空を呼んで来てくれ」


 玄人げんとに頼まれ、美空の部屋へ向かった。


★★★★


 美空の部屋は、俺の部屋の向かいだ。

 静かに何かをしているようなので、呪文、集音しゅうおんを使い、何をしているのかを探った。


「一緒に行ってくれないかなぁ~? バートのこと、どう誘おうかなぁ~? 来てくれると、いいんだけどな~」


 お、俺を何かに誘おうとしているようだ。

 1週間もかけて、何をしているのだろう……美空。

 とりあえず俺の部屋のドアを開けて、帰宅した音を鳴らしてから、美空に声をかけた。


「美空~ただいまー、玄人げんとと帰って来たぞ~。夕食にしようぜ~! 腹がへったよ~」


「すぐに行くから、リビングで待っていてー」


 返事を聞いたので、俺はリビングに向かった。


★★★★


 リビングに行くと、玄人げんとが食材を持ち夕食の準備をしている。


「あれ、今日は玄人げんとが夕食を作るのか?」


「美空、何か忙しそうだからな。今日はモダン焼きだ」


 そう告げて台所に入ると、手早く野菜をきざみ、大きなうつわに入れて、粉のような物をふるい、ネットリとしている液体を作っている。


「ホットプレートを用意してくれ~。バート」


 俺に教えるためだろう、玄人げんとがホットプレートと言う物を指差した。


「了解だ。玄人げんと


 大きな箱からホットプレートを出して、玄人げんとに配線の仕方を教えてもらい、通電をさせて待っていた。


玄人げんと、煙が出てきたぞ。大丈夫なのか?」


「大丈夫だ、油を全体に伸ばしてくれ~。ヨシ! 行くぞ」


 大きなうつわをテーブルに乗せて、具材タップリなドロッとした液体を、ホットプレートの上に乗せている。


「げ、玄人げんと。こ、これは食べ物なのか?」


「これはモダン焼きだから具は全部、中に入っているんだよ。ま~見ていろ、バート」


 見たことがない金属の何かを使い、玄人げんとが調理を始めた。


(あれ? 見た感じからは想像も出来ないけど、美味しそうな匂いがしてきたぞぉ~)


 匂いに釣られたのか? 美空が二階から下りて来た。


「父さん、バート、ゴメンね~。うわぁ~、今日は久々に父さんのモダン焼きだぁー」


 ニコニコしながら美空も、椅子に座った。


「なぁ美空、あれは食べ物になるのか? 玄人げんとの使っている金属はなんだ?」


 美空の耳に手を充てて、小声で尋ねた。


「父さんのモダン焼き、美味しいんだよ~。金属の? あれはヘラって言うんだよ……確か?」


 玄人げんとの調理動作を見ていて、あれは任務にんむで使えそうだぞ! と、考えている俺がいた。


「ヨシ、出来たぞ~。美空、飲み物を用意してくれ~」


 最後の仕上げだろうか? ソースと少量のケチャップを、ホットプレートの上で混ぜている。

 ヘラですくいモダン焼きと言う食べ物に乗せて、綺麗きれいに伸ばして広げている。

 マヨネーズを綺麗きれいにかけると、青のり、鰹節かつおぶしを乗せて完成のようだ。


「さぁ~食え! 焼きイモ屋ゲンちゃん特製のモダン焼きだぁ~」


 玄人げんとはビール、俺と美空はラムネを持った。

 3人そろって『いただきまーす』楽しい夕食を食べ始めた。

 玄人げんとと美空は、上手にヘラを使って食べている。

 2人を見習い、俺もヘラを使って食べてみた。


(あ、あっちいぃぞ。2人は熱くないのか? でも、うまいぞ、これ! 外はカリッとしていて中はフアフアだ~。具材もタップリだ)


 玄人げんとと美空は、明日と明後日の話をしているようだ。


「同窓会だもんね、楽しんで来てね。お土産ヨロシク~」


「美空を頼むな。バート」


「了解だ! 任せてくれ。ところで玄人げんとこのモダン焼き、おかわりは出来るのか?」


 尋ねた俺を見た美空が、ニコニコ笑顔で玄人げんとに向かって手を上げた。


「美空の分とバートの分の、おかわり入りましたぁ~」


 玄人げんとは嬉しそうに、ニコリと微笑んで、2枚目を焼き始めた。

 結局、俺は4枚、美味しくいただきました。


玄人げんと、片付けは俺と美空でやるから、今日は風呂に入って旅行、〈任務にんむ〉の準備をしてくれ」


「なら、後はヨロシクな」


 自分が食べた皿とヘラとうつわを洗って、玄人げんとは二階に行った。


 美空はまだ食べているので俺も自分の皿とヘラを洗い、玄人げんとが忘れたコップとビールを片付けた。


「ホットプレートは片付けても大丈夫か? 美空」


「うん、もう皿に乗るから大丈夫だよ。バート、ありがとう」


 ホットプレートを洗ってキッチンペーパーで拭いてから、箱に入れて片付けた。

 リビングに戻り、椅子に座り、テレビを見ながら美空の様子を伺っている。

 玄人げんとが二階に上がってから、美空が俺のことをチラチラと見て、様子を伺っているのは気付いていた。


「あっ、あのさ~、バートは明日と明後日は、何をしているの?」


 キタ! さっき呪文、集音しゅうおんで探っていたことだろうか。


「明日か? 焼きイモ用の石を洗って乾かすだけだぞ。明後日は、特に何もないかなぁ~?」


 俺はチラッと、美空に視線を送った。


「えっと~、えっとね~」


 俺に何かを言いたそうに、モジモジしている。


(う~ん、れったいぞぉ~、美空~)


「ちょ、チョッと待っていて」


 美空は二階に上がり、何かを持って戻って来た。


「バート、これを見て」


 緊張しているのか? 美空の手が震えていた。

 渡された紙には、同人即売会! コミックターゲットと書いてあり、コスプレOKの文字が書いてあった。


「スマン、美空。書いてあることは読めるが、俺にはまだ、コミックターゲットが分からないんだ。コスプレOKとはなんだ?」


 美空からは見えないが、ハテナマークをたくさん頭の上に出しながら、今の俺に出来る、最高の笑顔で美空に尋ねた。

 俺の笑顔を見て、モジモジしながら顔を赤くして、美空が説明を始めた。


「コミックターゲットはね、同じ物が好きな人達が集まり、同人誌と言う本を作って販売したり交流をしたり、楽しいことをする場所なの」


「美空はコスプレが好きなの。美空の好きをバートと楽しみたいんだけど、一緒に行かない?」


 どうやら美空は、俺とコスプレと言うことがしたいみたいだ。

 あれ、コスプレ? チョッと前に、このフレーズを美空と玄人げんとから言われたぞ? 確か俺のアサシンスーツを見られた時に言っていたような気がする。


「え~と美空さん。コスプレって、美空さんはアサシンになりたいのかな?」


「そうなの~。美空がプレーしているゲームのキャラなんだー」


 マズイぞ!! 美空がアサシンに、なりたがっているじゃないか~。


(これは、玄人げんとに相談しないとマズイことだぞ……ん、ゲーム? キャラ?)


「美空、ゲームって何? キャラって何?」


「バートは、そう言うこと、あまり知らないんだね」


(知らないよ。俺はこの国に、どうやって来たのかも分からないんだから美空さん)


「ああ、俺の家はあまり裕福ではなかったからな! スマン、美空。分からないんだ」


 美空は急いでモダン焼きを口に入れて、皿とヘラを洗って、俺の手を掴むとニコリと微笑んだ。


「バート、美空の部屋に来て!」


 俺は、美空の部屋へと連れていかれた。


★★★★


(マ、マジか!! 美空の部屋に入れるなんて……バート兄さん嬉しいぞぉ~)


 ドアを開けた瞬間に、17才男子の○○○をコントロールするのが大変なぐらいの、とてもいい香りが部屋からした。

 だが、いい香りとはうらはらに、美空の部屋はひどらかっていた。


「美空、俺で良ければなのだけど、部屋の掃除をしてやろうか?」


「イヤァ~ン、バート。普段は綺麗きれいに片付いているよ~! この1週間コスプレの衣装を作っていたから、らかっているんだよぉ~。これ見て」


 何かの書物を渡されたので、パラパラとめくり見てみた。

 そこには色々なアサシンスーツのデザインや、任務にんむで使うような死具しぐや防具の説明が書いてあった。


「美空さん……こ、これは、なんだ?」


「ゲームの攻略本だよ。このゲームのコスプレを美空はしたいの~」


 あっ、そー言えば、さっきゲームと言っていた。


「美空、ゲームってどれ?」


 座るスペースをつくっている美空に声を……。

 あれ? 俺は見てはいけない物を見てしまったのだろうか? とても見馴れたアサシンスーツが……。

 ダッシュで自室に戻り、片付けていたアサシンスーツを……。

 なっ、ないぞぉ~! ならアレは俺のアサシンスーツだぁー。

 美空めぇ~、勝手にアサシンスーツを持っていったな~。


任務にんむで使う死具類ぐるいを、外していて良かった)


 ダッシュで美空の部屋に戻り、美空に尋ねた。


「美空、そのアサシンスーツは俺のなのか?」


「うん。良く出来ているな~と思っていたから、お手本にさせてもらったの」


 美空は手を合わせて、頭を下げて謝っている。

 怒ろうと思ったのだが、謝っている美空を見たら、怒ることが出来なかった。


「美空、アサシンスーツが見たいなら、ちゃんと言ってくれよな。美空だって、美空の可愛かわいい下着が俺の部屋から出てきたらビックリするだろ?」


 少しエロイ顔をしながら美空に視線を向けると、美空は顔を真っ赤にしながら、うつむいていた。


「ゴメンね。バート」


「うん、いいよ。美空」


 その後、美空の機嫌をとりながら、美空がコスプレをするゲームのキャラクターで遊ばせてもらい、コスプレの説明を受けた。


(そうか、そうか、このゲームのシチュエーションと言うのを再現している、写真と言う物を残したいのかぁ)


「バート、見て~、これが美空の衣装だよ。格好かっこういいし、可愛かわいいでしょ~」


 出来立てホヤホヤの衣装を見せてくれたのだが……。


「こ、このアサシンスーツを美空が着用するのか?」


 おいおい美空さん、あなたは自分のナイスなボディーをご存知ですよね~。

 ゲームだから走ったり、ジャンプしたりしても大丈夫だったけどさ~。

 コスプレ会場と言うところで美空さんがそんなことをしたら、そのタワワなオパーイ様が、アサシンスーツからポロリンしちゃいそうじゃないか~と、心配だった。


「何時に家を出るんだ? 早いなら、石を早くに洗っておかないとならないからな」


「一緒に行ってくれるの?」


 あんなセクシーなアサシンスーツを見せられたら、一緒に行かない訳にはいかないだろ~。


「いいぞ。一緒に行こう!」


「明日は11時に電車に乗りたいから、10時30分には家から出ないとね!」


「了解だ! 10時までに石を洗って、乾かしておくよ」


「有り難う、バート。明日はヨロシクね」


「じゃ~、明日な美空。風呂、先に入るな」


 部屋を出て、自室に戻り、風呂の準備をして部屋を出た。



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