7話 元アサシン、焼きイモ屋さんになる。
家に戻り、バイクを車の奥に止めて、俺達はリビングに向かった。
「バート、昼は
俺に告げてから台所で、
恥ずかしながら俺は、元の国でも調理の経験がない。
俺にも何か出来ないかと思い、
「
「ない!」
(どうせ俺は、
「あっ、あるぞバート。食器の準備を頼む」
「ヨシ、指示をくれ。
「にゃにゃぁ~」
今まで部屋の隅で寝ていたトラ先輩が、
「バート、少しトラを頼む」
何か分からない物を渡されて、トラ先輩を任された。
トラ先輩は、その何か分からない物を左右に振ると、首を振り視線を外さないようにしている。
俺が椅子に座ると、トラ先輩が
「にゃぁ~」
ひと鳴きをして、俺を見つめて待っているようだ。
「これを、どうすればいいのだ。
「封は切ってあるから、トラに食べさせてくれー」
言われたように切れているところを確認してから、トラ先輩の口へ近付けた。
トラ先輩は
(美味しい物なのか?)
少し舐めてみようとして俺も口元に近付けると、
「バート、食うなよ!」
あれだけ忙しく動いているのに、俺とトラ先輩のことを見ているようだ。
(なんて、広い視野なんだ)
「分かった。食べないよ
食べ終わったトラ先輩は、床に下りて、ひと伸びをしてから元の位置に戻り、また寝てしまったようだ。
「よ~し、出来たぞ~」
「バート、フォークを使うな!
「分かった。
昨夜も2人は、なんて器用に
時間は掛かってしまったが、なんとか
だが、
頭と鼻の奥に
「
「ごちそうさまでした」
「後を任せるな。バート」
俺が洗い物をして、食器を片付けている間に、
ヤーニ〈タバコ〉を吸いながら準備をしている。
「これに着がえろ。バート」
焼きイモ屋ゲンちゃんの仕事着だった。
急いで部屋に戻り、仕事着を着て、俺も
(これで、いいんだよな? 大丈夫だよな?)
急いで一階に下りた。
★★★★
リビングに行くと、
「
「まだだ! まずは石の全体を100度まで上げる。石が適温になったらイモを入れて、出発をするからな! それにしても
結んだ髪を上げて、頭の後ろで
「バートは若いから、まだ、
俺を見て、
温度を測る機械を石に照らすと、適温まで石の温度が下がっているようだ。
「80分から90分掛けて、ゆっくり焼いていくんだ」
仕事の手順だとは言わないが、仕事の手順を教えてくれているように俺には思えた。
「さて、バート乗れ。仕事に向かうぞ」
「了解だ。
俺達は車に乗り、移動販売に向かった。
★★★★
移動中に、この国での仕事の決まりを話された。
移動販売も決まりごとがあり、宣伝放送の音量が決まっていたり、何分間、宣伝放送をしたら、何分間、宣伝放送を止めないと駄目とか、販売場所の許可を取ったり、販売が出来る時間が決まっていたりとか……色々と大変なようだ。
それに、この国は元の国と違い、アチコチに城と間違えてしまうような建物が多く、
「バート、1ヶ所目の仕事だぞ!」
俺に告げると何かのスイッチを押した。
すると、車から美空の声が鳴り出した。
「いしやぁ~きイモ、おイモ、おイモ、おイモだよ~」
「さぁ~、いらっしゃい。甘くて美味しい、焼きイモは、いかがですか~」
「転ばないように、早くこないと、いっちゃうよ~」
美空の声にビックリしたが、何故だろう? その声は
車を進ませて中に入って行き、車を止めた。
★★★★
「さぁ~仕事だぞ。バート」
建物のアチコチから
しばらくすると車に人が集まり始めた。
「寒いね~玄さん。千円分ね~」
「ハイよー。寒い中、有り難うねー」
「玄さん、家も千円分ね~」
「何時も有り難うねー」
「げんたん、こんちちわ~。あたちにも、オイモちょーらいな~」
「お~、みよちゃん。ご挨拶が出来て、えらいねぇー」
小さな子供が食べやすいようにイモを切り、みよちゃんに手渡している。
「あがりとーぅ。げんたん」
「玄さん、娘がスイマセン。家も千円分お願いしますね」
「大丈夫だよ~。何時も有り難うね! みよちゃん、みよちゃんママー」
すると、あっと言う間に
感じていた視線の正体は、お客様達の視線だったことが分かり、ザワついていた俺の心も落ち着いた。
(さて、俺も
車に近付こうとした時だ。
「おにいたん、だぁ~れ?」
ニコニコ笑顔で焼きイモを食べている、みよちゃんから声をかけられたようだ。
緊張をしながら俺も、
「おにいたんもね~、げんたんの、おイモやさんなんだよ……」
俺の返答に、車の周りに居たお客様達の視線が
「あら、男性だったのね~。
「アハハハハ~」
「玄さんのお弟子さんになったの?」
「昨日から弟子入りをさせていただきました」
「お兄さんは外国の人なのかしら?
「そ、そうなんです~」
(マズイ、また
オロオロしている俺を見たからであろう、お客様の対応をしながら、
「イケ面でしょ~! コイツはバートです。皆様ヨロシクお願いしますね」
(男性は居ないようだな)
「ヨロシクお願いします。お姉さま方々」
元気に挨拶をしたことで、俺の何かが吹っ切れて、
(会計はまだ、今の俺には出来ないけどね……)
1ヶ所目の販売分は、1時間ほどで売り切れてしまった。
車の周りにゴミがないのを2人で確認をした。
「バート、皆様に礼をしてから次に向かうぞ」
俺に告げてから
★★★★
「バート、食え。今日のイモはどうだ」
先程、みよちゃんにプレゼントをした残りであろう、焼きイモを渡された。
昨夜の腹が減っていた時と変わらずに、うまい焼きイモだった。
「うまいよ。毎日このうまさが出せる
「かわいそうだが、ドコの国から来たのか分からないバートを、元の国に戻してあげることは出来ない。だが、生きて行く力を
「さて、石もいい感じになってきたぞ。バートお前がやってみろ!」
「準備OKだ!
「ヨシ! 次に行くぞ」
俺達は、美空の宣伝放送を流しながら次の販売場所に向かい、走り出した。
★★★★
車の中では俺のことを色々と聞かれた。
俺は
大きな呪文はまだ使えないが、俺にも数種類の呪文が使えることなどを、移動中に話した。
当然と言えば当然なのだが、移動中に何回か車を停めて、焼きイモの状態を俺にも確認させていた。
俺は何故?
だが話の最中に、
あと3日もすれば、俺が日本で過ごせる資格のような物が届けられることを知らされた。
話をしながらだったので、気付かなかったのだが、この道は今朝……。
まさかと思い
「バート、今日の販売はココが最後だぜ!」
親指を立てて、ヤル気満々な顔をしている。
「了解だ!
俺も親指を立てて、ヤル気満々の顔をした。
ショッピングモールの近くに俺達は、車を止めた。
★★★★
「宣伝放送のセリフは覚えたか? バート」
「セリフシートは見たから、バッチリだ!
「10分が勝負だぞ!」
「大丈夫だ! 任せてくれ」
俺の呪文が機械で伝えられるのか? 分からなかったが、試しに呪文、
「いしやぁ~きイモ、おイモ、おイモ、おイモだよ~ぉ」
「さぁ~、いらっしゃい! お仕事お疲れ様でした~」
「お姉さま方々、焼きイモ屋ゲンちゃんの天国に行けちゃうような、甘~い焼きイモはいかがですか~」
「ハイハイ、そこのお兄さん。奥様、パートナー、彼女、お子様のお土産にいかがですか~」
「早く来ないと、いっちゃうよ~」
(……アレ? 呪文の効果は、なかったのかな?)
「バートさーん、甘~い焼きイモ
(おや? 名前で呼ばれたぞ)
呼ばれたほうに振り向くと、ファッションやまむらの店員さん達だった。
俺は満面の笑みをして、ファッションやまむらの店員さん達を迎えた。
「いらっしゃいませ~。お客様~、美味しく甘~い焼きイモをどうぞ~」
その後は順調に、お客様にご購入をしていただけまして、本日の販売分は、終了しました。
(呪文、
だって、お客様の半分以上が
俺達は最後のお客様を見送り、車の周りにゴミがないかの確認をして、1礼をしてから車に乗り込んだ。
「さて、バート。今日はもう上がるぞ~! お疲れ~」
「了解だ、
今日は普段より2時間と言う時間ほど、早くに上がれたようだ。
「今日は早くに上がれたから、グイッと一杯、やっちゃうかなぁ~」
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「まえまえから思ってはいたが、お
漢字と言うもので書くと、
あっ、と言う訳で、本当に3日後、俺は
(今の技術では、見破れないほどの偽造らしいけどね)