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第3話

 ミツキとユキミに戦ってほしいと言われた俺。

 禍影とかいうバケモノに襲われて、夢の中で不動明王と名乗った男になにかされた。

 それだけなのに、いざ戦えと言われても、どうしろというんだ……?

 そんなことを考えながら、俺はいつものように学校に来て、授業を受けている。


「今日も白石は休みか……」


 白石ユウタ。俺のクラスメイトの一人である。


「最近、ユウタの姿を見ないんだけど、どうしてるんだろうな、あいつ……」

「さあな……。俺は白石とは友人じゃないし、知らないけどな」

「まあ、それもそうか。マサムネにはあまり関係のない話だよな、わりぃ」


 気にしなくていいと俺は言った。

 言われてみれば気になる。白石がなぜ休みがちなのか。


 △▼△▼△▼


 その日の夜。

 俺はミツキとユキミに呼ばれ、校舎で待ち合わせすることになった。


「実際、禍影がどんなやつなのか、よく見せてあげる」


 ――しばらくして、空間の歪みを感じた。


「禍影が現れたわね」

「え……? そんなことがわかるのか?」

「空間の歪みを感じなかった?」


 感じたと、ユキミに言うと。


「それが禍影の現れた証拠。近くに禍影がいるってこと」


 言いながら、ユキミは淡く光る刀身を持つ大剣を手にしていた。


「ミツキ、今日は頼むわね」

「ええ。任せてちょうだい」


 ミツキは右手にハンドガンのような銃を手にしてた。

 俺は彼女たちについていくように動いていると、夜の校舎裏についた。

 禍影が近くにいる。彼女たちはそんな事を言っていた。

 あのバケモノが近くにいるだって?

 半信半疑だったが、彼女たちと動いていると次第に身震いするほどの恐怖を感じ始める。

 目の前には、欠席が続いている白石の姿だった。

 でも、今そこにいるは、俺の知っている白石ではなかった。


「お前……白石なのか……?」


 白石の目は、まるで獣のように濁っていた。

 俺達を見るなり、おおよそ人間が出す音ではない声で笑い始めた。


「だいぶ、禍影に蝕まれているわね」

「蝕まれているって?」

「禍影は人の心の隙間に簡単に入り込むのよ。そして、満たされない欲望を広げて、暴れさせるの」


 ミツキが俺の問いに答えた。


「ウガアアア! オレヲ……オレヲ キョゼツシタ ヤツラガ ワルインダ……! ゼンブ……オレノ セイジャ ナイ!!」


 片言のように叫ぶ白石が、獣が笑うような表情で飛びかかってきた。

 ユキミが俺の前に出て、白石を迎撃。


「グルゥ……」

「イヤーッ!」


 彼女が剣を振るうが、白石は人並み外れた動体視力でその剣を受け止めてしまう!


「……ッ!」

「ガアアッ!」


 白石の剛腕で弾き飛ばされるユキミ。

 そのまま、俺に飛びかかってきたが、紙一重でかわすのが精一杯だった。


(……くそっ……。足がすくんで動けない……!)


 恐怖で動悸が激しくなり、身体が固まってしまう。

 このまま、バケモノと化した白石にやられてしまうのか?


 ――冗談じゃない……。冗談じゃない……! 冗談じゃない!


 その時だった。右手の赤い痣が燃えるように熱く感じる。

 そして、俺の目の前に、炎のシルエットが現れた。

 そのシルエットは次第に、剣の形を取ってゆらゆらと揺れはじめたのだ。

 掴んだら火傷しそうなのに、その炎は暖かく思え、手を伸ばしても大丈夫そうな気持ちになる。


『――掴め』


 頭の中に響く声。

 俺の奥底で、何かが呼びかけている。

 俺がその炎に手を伸ばした瞬間、炎は俺の手の中に収まったのだ。

 ゆらゆらと揺らめく炎は全く熱さを感じなかった。


「グオオオッ!!」

「マサムネ君!」

「マサムネくん!」


 再び飛びかかる白石。

 俺の名前を呼ぶミツキとユキミ。

 攻撃しようと腕を伸ばした白石に向かって、炎で薙ぎ払う。

 その炎の直撃を受けた彼は、そのまま吹っ飛んだ。

 そして、炎は剣の形を取って具現化したのだ。


「これが……俺の……」

「シャアアアッ!!」


 俺はもう恐怖を感じなかった。剣は再び、火焔を身にまとっている。

 縦一文字を描くように振り下ろすと、白石本人を傷つけることなく、禍影だけを斬り裂いたのだ。

 白石はその場に倒れる。


「……大丈夫。脈はあるから生きているわ」


 どうやら気を失っているだけのようだった。

 ゴウゴウと俺の持つ剣は、赤々と燃えている。


(これが……俺の力……なのか……?)


 まだ震える手で、剣の柄を握りしめる。


(こんな力……俺が持ってていいのかよ)


 けれど、その答えは、もう心の奥で決まっていた。


 ──この力で、守るんだ。

 禍影に堕ちていったアイツのような人を。

 俺自身の意志で。

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