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第5話

 事件を調べ始めた俺たち。

 空間の歪みを認知してその近くに駆け寄ると、虚ろな目をしている女性がその場に座り込んでいた。

 ミツキがその女性の心を覗いてみた。


「……やっぱり、黒いモヤのようなものが見える」

「すでに襲われたあとか……」

「そうみたい。……あ、でも、待って」


 ミツキが言う。


「どうしたの」

「モヤの奥に男性の姿が見えた。多分、恋人なんじゃないかな」

「だとすると、この人はカップルで、男性とデートした帰りとかそんな感じかな」


 俺の言葉に、ミツキが首を縦に振って答える。


「そうだとしたら、恋人のふりをすれば、禍影を釣れるかもしれないわね」

「ユキミ!?」

「ちょっと待ってくれ! いくら禍影を釣り上げるためとはいえ、まだ知り合ってそんなに時間の立ってない俺たちがそれをするっていうのか!?」

「禍影を釣り上げるためよ?」


 あっさりとユキミが言う。


「……一理あるわね」

「ミツキさーん!?」

「あ、でも。それなら私が適任だと思う」

「ゔぇい!?」


 俺の意志を無視するかのように話が進んでいく。


「どうして、そう思ったの、ミツキ?」

「私なら人間の感情の動きをすぐに読めるし、危険が近づけば、マサムネ君を守れるからだと思ったのだけど」

「なるほどね。……まだ空間は歪んでる。禍影が近くにいるはず。……ミツキ、すぐにできる?」

「もちろん」


 ミツキはすぐに俺の手を握ってきた。それはどこがぎこちなさを伴っていたが。


「マサムネ君、できるだけ恋人のふりをして。でいいから。……そう。初々しい感じでも構わないわ」


 警戒が緩んでいたのか、考えていたことを読まれてしまった。


「それじゃ、行きましょう、マサムネ君」

「アッハイ」


 △▼△▼△▼


 できるだけ、ミツキと恋人のふりをして歪んだ空間の中を歩く。

 境界が揺らいでいる時は、一般人はこの空間を認知できないので、俺たちがどうしようとも見えないはず。

 見えるとしたら、禍影か禍影に取り憑かれた人間ぐらい。そこからして結構ピンポイントな作戦だった。


「……わかってるわ。禍影に見られることを目的としているんだから」


 俺の心が緩んでいるせいで、明王のガードが効かず、ミツキに読まれ放題だった。


「でも、悪くない。……そう思っているんじゃないかしら、マサムネ君?」

「う……その……ごめん」

「いいのそれで。禍影を釣り上げるためだから気にしないで」


 ――その時だった。

 猛禽類が獲物を見つけたような鋭い視線を感じる。


「みぃつけたぁ……」


 女の声が聞こえた。

 その声が聞こえたときには、すでにかなりの距離を詰めていたらしい。

 その表情は笑っているが、獣が怒りを示すかのような笑いで、その瞳の奥には深く淀んだ闇が蠢いている。


「動かないで、マサムネ君」


 瞬時にミツキは小型の拳銃を取り出し、発砲。


「ウガッ……!」


 発砲にひるんで、引き下がる女。


「出てきたわね、禍影!」

「オマエタチヲ コワシテヤルゥゥゥ!!!」


 その女性の背後から黒い影が強くにじみ出る。

 黒い影は、紫色のオーラをまといながら、その女性を包み込んでいく。

 やがて、黒と紫のオーラが女性をバケモノへと変化させた。

 肌は煤けたように黒ずみ、髪は生きているかのように逆巻いている。

 肩から伸びた腕は二本増えて四本に。

 左上の手と右上の手には何かを掴んでいて、左下の手と右下の手はカッターナイフのような刃物と包丁のような刃物を手にしていた。

 舌が血のように赤く垂れ、唇の端には嗤うような歪み。

 首にかかっているのは、人の顔を模した仮面のネックレスだった。


「うわあ、おっかねえ」


 思わず声を上げる俺。


「――ユキミ!」


 ミツキが叫ぶ。

 俺たちの間を光波が通り抜け、異形のバケモノとなった女に直撃する。


「ウギャアッ」

「マサムネ君、剣を!」

「応っ」


 右手に意識を集中させて念じると、炎を身にまとった剣が現れた。

 それを手に取り、異形のバケモノに向けて振るう。


「ギャアッ」

「それっ、もう一太刀ッ」


 炎の剣がゴオッと音を立てながら、異形のバケモノに炎を浴びせる。

 異形のバケモノは、投げつけられた炎を武器を持っていない腕で受け止めたが、一瞬にして腕を燃やし尽くしたのだ。


「グウッ」

「……少しかっこつけてみようかな」


 そうボヤきながら、炎の剣を正面に構え、刀身に炎をまとわせる。


「――浄化の炎よ!」


 バットを降るような動きで、炎を異形のバケモノに投げ込む。

 その炎がバケモノに命中。炎は龍のように渦を巻き、禍影と女性を分離させた。

 苦しみもがく禍影に炎の龍は、締め付けを強くしていく。


「ギャアッ! ギャアッ!」

「一・灯・断・罪ッ!!」


 刀身が炎をまとって更に大きくなり、炎の龍ごと禍影を上から真っ二つに斬り落とす。

 真っ二つになった禍影はそのまま炎に焼かれ、姿を消した。


「『我が剣に断てぬものなし』。なんてね」


 空間の歪みはなくなり、女性は意識を取り戻した。

 ミツキが彼女の同意を得て、読心をすると、彼女は結婚詐欺のような目に遭い、幸せそうな女性に妬みと憎しみを持っていたという。


「そこに禍影が忍び寄ってきたってことか……」

「そうなるわね。ここから彼女がどう立ち直るかは彼女次第になるわ」

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