――ある日の教室での出来事だった。
ガタン、と机を蹴り飛ばすような音。そして、騒ぎ立てる声。
その方向には、あいつらがいた。
――
まとめて『将棋トリオ』なんて呼ばれてる。もちろん皮肉で。
見た目は派手で、態度もでかい。教師にすらタメ口で、教室の隅を『縄張り』みたいにしている連中。
正直、誰も関わりたくないと思っている。だからこそ、クラス全員が彼らを冷ややかな目で見ている。
彼らがケラケラ笑いながら、去ったあと、ひとりのクラスメイトが彼らに聞こえないようにつぶやく。
「……あいつら、うぜぇよな……。早く禍影とかに襲われて、消えちまえばいいのに」
俺は思わず、聞こえた方向にふり返った。
言ったのは、
クラスの中でも目立たず、口数も少ない。
だが、彼は将棋トリオに因縁をつけられ、殴られたこともあったらしいという。
だからこそ、そんなことを言ったのかもしれない。
でもあとになって、その言葉がずっと頭の片隅に残り続けることになる。
▲▽▲▽▲▽
放課後。人気のない裏手の廃倉庫が将棋トリオのいつもの集まる場所であった。
「なあ、アキラ」
「どうした、ゴウ」
「ここに誰か来る言うてたよな? ホンマに誰か来るんか?」
「来るって言ったからそれを信じろ。それか自分、ビビってんのか?」
アキラがゴウに言う。
「ちゃうわボケ!」
「ははっ。相変わらずだなあ」
「くそったれ……。アキラやなかったら一発殴ってたわ」
ムスッとするゴウにケラケラ笑いながら、片手で缶ジュースを開けるアキラ。
「けど、こればっかりは俺もゴウと同じ気分だよ、アキラ」
レンが言う。
「せやろ、レン。怪し過ぎんねんな……。それにこのノリ……気ぃ悪ぅてかなんわ」
その時だった。彼らの前で『カツン』と靴音が鳴った。
その音に驚く将棋トリオ。
「お、おい……アキラ……ゴウ……」
「どないしてん、レン。そんな声出し……て……」
青ざめた声を出すレンをからかおうとしたゴウだったが、言葉が止まる。
アキラもゴウもゆっくりと歩いてきた誰かを見つめた。
現れたのは、白衣をまといながらも、目に狂気を宿した男だった。
「お集まり、感謝するよ。いやぁ、実に興味深い素材が三つも揃うなんてねぇ……!」
「――なんや、おっさん。なに企んどんねん」
ボキボキと鳴らしながら、ゴウが白衣の男の前に立つ。
ニヤリと笑った彼が指を鳴らすと、黒い影のような何かが湧き出し、将棋トリオを包み込んだ。
「ぅわ……ッ! なんやこいつ、離さんかい!!」
「やめっ……!!」
「なんだこれは……!?」
叫びが、影に呑まれていく。
「ふふっ……恐れなくていい。君たちの『進化』の第一歩だ……!」
彼らが白衣の男の前に姿を表すとき――もう、元の三人ではなくなっていた。
「さあ、ともに参ろうか。……世界を壊すためにね!!」
白衣の男に連れられた将棋トリオは、廃倉庫から出て、夜の街を恐怖に変えるために歩き出したのだった。