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第8話

 不良三人組が姿を消してから数日後の昼下がり。

 一見すれば、なんの変哲もない日常が流れているだけに見える。

 だが、それは静かに蝕まれていた。


 教室の片隅。窓際の席に座るミツキは眉をひそめていた。

 ざわついた『声』が、頭の中でうごめいている。

 普段なら、読心能力に慣れて、多少のノイズには慣れているはずだった。


(でも、何かが違う)


 異常な形の『ざわめき』。

 ジャリ…ジャリ…と鳴るラジオのような音の方向を探すミツキ。

 音の方向に意識を集中させると、雑音が強く感じたのだ。

 雑音を強く感じる方向には、クラスメイトの一人が机に突っ伏していた。

 眠っているように見えるその生徒の背中から、淡い影が立ち上がっていた。

 人の形をしているようで、していない。ぼやけた輪郭が、黒板の上を這うように動いていく。


「……まさか、この学校に……?」


 ミツキは嫌な予感を感じ、立ち上がって、教室の外に出た。


 △▼△▼△▼


 図書室では、ユキミが一冊の古文書を睨んでいた。

 一般には公開されていない古い文献。その文献のタイトルは『古の境界』というものだった。

 禍影と戦う者として、知識を得るために借り出された資料だ。


「……『人間界と禍影や狂戦鬼を封じた異界の重なり合いは、心弱き者の隙より生じる』……」


 空気の違和感を覚えたユキミは、本を閉じ、視線を上げた。


「……この学校、もう薄皮一枚の上に立ってるだけみたいね」


 彼女は文献を戻し、図書室の外に出た。


 △▼△▼△▼


 同じ頃、屋上でマサムネは瞑想するような体勢を取っていた。

 彼の目の前には、赤々と燃える剣が浮いている。

 先日の事件で心を痛めたマサムネは、時折、座禅を組むようにしていたのだ。


『なにか違和感を覚えないか』


 内なる声がマサムネに問いかける。


「違和感……」


 ハッとしたマサムネは、目を開きつぶやく。

 目の前の空間が、徐々に歪み始めてきていたのだ。


「あいつらのような犠牲者を出さないためにも、俺は……」


 宙に浮いていた炎の剣を手に取ったマサムネ。


「――行こう。俺は守るべきもののために戦うんだ」


 彼は屋上を出て、校舎の中へと入っていった。

 しばらくして、息を切らした男子生徒が二人、マサムネの前に現れた。


「マサムネか! ……良かった」

「その声は……カズキ!? それに……マオも!?」

「大変だよ、マサムネ。学校のあらゆる空間がねじれたり、歪んだりしてるんだ!」


 マオが言う。


「それでお前ら二人はなんとか命からがらここまで来たってことか」

「そうなるな。マオがいなかったら、俺はこの異様な空間をしている学校で死んでたかもしれねえ」

「それはこっちのセリフだよ、カズキ。……マサムネ、戦うんだろう」

「あぁ、そうだ」


 マサムネの言葉に、マオが強い意志を持って言葉にする。

 自分も戦いたい――と。

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