不良三人組が姿を消してから数日後の昼下がり。
一見すれば、なんの変哲もない日常が流れているだけに見える。
だが、それは静かに蝕まれていた。
教室の片隅。窓際の席に座るミツキは眉をひそめていた。
ざわついた『声』が、頭の中でうごめいている。
普段なら、読心能力に慣れて、多少のノイズには慣れているはずだった。
(でも、何かが違う)
異常な形の『ざわめき』。
ジャリ…ジャリ…と鳴るラジオのような音の方向を探すミツキ。
音の方向に意識を集中させると、雑音が強く感じたのだ。
雑音を強く感じる方向には、クラスメイトの一人が机に突っ伏していた。
眠っているように見えるその生徒の背中から、淡い影が立ち上がっていた。
人の形をしているようで、していない。ぼやけた輪郭が、黒板の上を這うように動いていく。
「……まさか、この学校に……?」
ミツキは嫌な予感を感じ、立ち上がって、教室の外に出た。
△▼△▼△▼
図書室では、ユキミが一冊の古文書を睨んでいた。
一般には公開されていない古い文献。その文献のタイトルは『古の境界』というものだった。
禍影と戦う者として、知識を得るために借り出された資料だ。
「……『人間界と禍影や狂戦鬼を封じた異界の重なり合いは、心弱き者の隙より生じる』……」
空気の違和感を覚えたユキミは、本を閉じ、視線を上げた。
「……この学校、もう薄皮一枚の上に立ってるだけみたいね」
彼女は文献を戻し、図書室の外に出た。
△▼△▼△▼
同じ頃、屋上でマサムネは瞑想するような体勢を取っていた。
彼の目の前には、赤々と燃える剣が浮いている。
先日の事件で心を痛めたマサムネは、時折、座禅を組むようにしていたのだ。
『なにか違和感を覚えないか』
内なる声がマサムネに問いかける。
「違和感……」
ハッとしたマサムネは、目を開きつぶやく。
目の前の空間が、徐々に歪み始めてきていたのだ。
「あいつらのような犠牲者を出さないためにも、俺は……」
宙に浮いていた炎の剣を手に取ったマサムネ。
「――行こう。俺は守るべきもののために戦うんだ」
彼は屋上を出て、校舎の中へと入っていった。
しばらくして、息を切らした男子生徒が二人、マサムネの前に現れた。
「マサムネか! ……良かった」
「その声は……カズキ!? それに……マオも!?」
「大変だよ、マサムネ。学校のあらゆる空間がねじれたり、歪んだりしてるんだ!」
マオが言う。
「それでお前ら二人はなんとか命からがらここまで来たってことか」
「そうなるな。マオがいなかったら、俺はこの異様な空間をしている学校で死んでたかもしれねえ」
「それはこっちのセリフだよ、カズキ。……マサムネ、戦うんだろう」
「あぁ、そうだ」
マサムネの言葉に、マオが強い意志を持って言葉にする。
自分も戦いたい――と。