……マオが戦いたいだって?
俺は戸惑った。
なんの力も持ってなさそうな彼が、どうやって?
そう思ったからだ。
「学校が異界化したときにこんなものを手にしてたんだ」
マオが目の前に差し出したのは、濃い藍色の刀だった。
「これで禍影に攻撃できたのか」
「あぁ。アニメや漫画の見様見真似で振りかぶってみたら、真っ二つにできたんだ」
「わかった。それなら、俺と一緒に来てくれるか、マオ」
「いいとも。……カズキはどうする?」
「比較的安全な場所を探すまで、俺たちと一緒に来てもらおう」
俺はマオとカズキとともに、異界化した学校を歩き始めた。
△▼△▼△▼
実際、マオは強かった。
将棋トリオなんかいなくなってしまえばいい、なんて願ったから、彼らが消えてしまったのではないかという後悔の念があったのだろう。
その強い思いが、異界と化した学校の力によって、マオに力を与えたのだろうと俺は思っている。
でなければ、禍影を斬り伏せられる刀なんかを手にするのか、と。
「……! マオ君!?」
「えっと……ミツキさん?」
しばらくして、ミツキが俺たちの前に現れた。
「ミツキ、非戦闘員のカズキを置いていける安全な場所はあったか?」
「あるにはあるけど……。異界と化した学校よ。確実に安全と言える場所は……」
「そうか……。どうする」
「……じゃあ、俺がカズキを守るよ。絶対に」
マオが力強い眼差しをしながら言う。
「わかった。無理だけは絶対にするなよ、マオ」
「もちろんさ」
もう、自分のせいでなにかを失いたくないのだろう。
マオの意志の強さに、俺はそう感じた。
「おそらく、ユキミも動き出してるはず。……ユキミを探しましょ」
「あぁ」
薄気味の悪い異界となった校舎を探っていく俺とミツキ。
襲ってくる禍影を斬り捨てながら、動き出しているであろうユキミを探す。
その時だった。巨大な龍のような影が俺とミツキの頭上を泳いでいた。
「なんだ……あれは!?」
ギャオオオンと鳴きながら、龍が異界の校舎を飛び回る。
そして、不定形の黒い影を見つけては、その口から炎を吐いて焼き払っていく。
「龍も禍影なのか?」
「でも、あの炎は人を焦がしていないわ」
不幸にも禍影に取り憑かれた生徒がいるが、龍が吐く炎は禍影だけを見事に焼き払っている。
「浄化の炎……ってわけか」
「それなら、マサムネの不動明王となにか関係があるのかもしれない」
龍がこちらに気づいたのか、近づいてきた。
まさか俺たちを禍影だと判断したのか!?
そう思ったのだが、攻撃する意志を示さず、炎の剣を持つ右手を差し出すように促してきたのだ。
「こ……こうか?」
『……やっぱりね。なんとなくそんな気がしていたんだ』
龍が口を開いているようだが、声は頭に直接響く。
『私はあなたと関係があるみたい。だから引き寄せられたのかもしれない』
「よくわからんが、君は俺たちと意志を共にするのか?」
『ええ。もし、私があなたたちに攻撃する意志を見せたのなら、その右手が勝手に私を攻撃したと思うわ』
その龍は女の子が話すような喋り方をしていた。
「もし目的が同じなら、一緒に戦わないか?」
『いいわよ。それなら、私の背中に乗って!』
俺とミツキは、その龍の背中に乗って、異界化した校舎を自由に飛び回った。