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第10話

 薄気味悪い異界化した校舎では、禍影に取り憑かれた生徒が次々と現れ、さながら百鬼夜行の様相を見せていた。

 それを見つけるたび、龍は浄化の炎を吐いて、元の人間に戻していたのだ。


「元を断たないとキリがないわね」

「確かにそうだ。……でも、元がどこにあるのか。それにユキミも見当たらないしな……」


 しばらくして、暗闇の中で淡い光が見えた。

 もしかしてと思い、龍にその淡い光に近づくように言う。


「……! マサムネ、ミツキ……!?」


 やっぱり、ユキミだった。


「それに……マオ!? お前、カズキと一緒にいたんじゃあ……!?」


 濃い藍色の刀を持つ男子生徒-マオもユキミと同じところにいた。


「カズキ君なら、私が校舎の外に出したわ。校舎の外なら異界化していないみたいだったから、脱出させたの」

「そうか。それなら一安心だ。……でも、どうしたんだ、マオ。なにか思い当たるフシでもあったのか?」

「禍影とかいうバケモノを斬り伏せる力があるのなら、俺だって戦いたかったのさ。それだけだよ」


 本当にそれだけなのだろうか?

 少し疑問に思ったが、禍影と戦えるのなら、それでいいだろうとその時は思っていた。


 △▼△▼△▼


 俺、ミズキ、ユキミ、マオの四人で龍の背に乗って異界化した校舎を巡る。

 異界化した理由も、その発生源もわからないまま、しらみ潰しにかかるのも次第に限界が来る。

 どうしようもなくなって来た頃、更に学校の異界化が進み、普通の人間では息苦しさを感じてくると思っている。

 その時、マオが何かに気がついたらしい。


「……あの禍影……。見覚えのあるやつだ!」

「なんだって?」

「あれは『姫騎士プリンセス・ナイトリリカ』のルミエール=リリカなんだ!」


 姫騎士リリカ……?

 あとで調べたら、アニメ作品の名前らしく、女の子だって戦うときは戦うことがコンセプトにあるらしかった。


「けど、このリリカはまるで闇堕ちしたような……。名付けるならダークネスリリカっていうんだろうか……」


 その禍影が、針のように細長い刀身を持つ刀剣で俺たちに向かってきた!


「……けど、そうか……! わかったよ、マサムネ。この異界化の原因が!」

「あれだけで!?」


 禍影――マオの言うダークネスリリカ――の攻撃を避けながら、マオが異界化校舎の原因がわかったという。


「図書委員のノゾミちゃんだ!」

「その、ノゾミって子とこの禍影ってなにか関係があるのか!?」

「大有りだよ! 彼女は姫騎士リリカのファンなんだ!」

「……! ならば!」

「そうしたら、彼女がいる場所は図書室のはず……!」


 マオの言葉に、ユキミがハッとしたらしい。


「灯台下暗し……ってことね」

「なんでだ!?」

「異界化する前に、図書資料室にいたの。まさか、カウンターにいた図書委員の女の子だったとは……!」

「それなら、この禍影をなんとかして図書室に向かわないと!」


 俺が三人に言って、図書室に向かおうとするが、ダークネスリリカが足止めしようとしてくる!


「ダークネスリリカだかなんだか知らないが、俺たちの邪魔をするな、禍影のバケモノがッ!!」


 青白い炎に包まれた炎の剣でダークネスリリカを焼き払う。

 ギャアアアという悲鳴を上げながら、その禍影は黒い霧となって霧散した。


 △▼△▼△▼


 問題の図書室は異界化の影響が最も色濃かった。

 生理的な気味悪さを強く感じる。


「あ………あああ…………ああああああ…………」


 ミツキが突然うわ言のような言葉を言いながら、その場で倒れたのだ。

 もしかして、この図書室から発せられる強い念のようなものを感じたからなのか?


『クンクン……。邪悪な悪臭がする……』

「わかるのか?」

『うん。鼻がひん曲がりそうなぐらいに強い邪悪な匂いがする』


 龍が言う。


『ミツキって女の子は私に任せて、ユキミとマサムネとマオの三人で乗り込みなよ』

「……すまない!」


 意を決して、俺たちは、図書室のドアを開けた。


 ――目の前にはもっと最悪な光景が広がっている。


 図書室の中央に鎮座していたのは、元が『女の子』だったのかすらわからないほどだった。

 女の子の上半身だけが、無数の管とツタのような配線に絡め取られ、宙吊りになっている。

 胸から下は、まるで根を張るかのように床に埋め込まれ、机や椅子を溶かして吸収したような異様な塊とどうかしていた。

 身体のあちこちには、透明なパイプが突き刺さり、その中を黒ずんだインクのような液体が脈打つたびに図書室全体がうねり震えている。

 まるで図書室そのものが、生きた肉の迷宮となっていて、女の子を中心とした巨大な心臓のように動いているかのようだった。


「……ノゾミちゃん」

「あれが……そうなのか?」

「多分。俺が近づくよ。マサムネとユキミさんはそこにいて」


 マオが濃い藍色の刀を持ちながら、彼女に近づいた。

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