異界化した校舎が一瞬で元に戻った!
……ということはなかった。
異界が引いたあとも、そこにあった『何か』の名残は、しぶとく現実に染みついている。
異界化の原因となった少女――ノゾミは、マオによって救われた。
助け出されたあと、マオが手にした異能を持って、ノゾミの開けた上半身を元通りに戻したのだ。
「マオくん、ありがとう」
「どういたしまして」
そして、龍が人間の姿になり、俺たちと同じ制服を着ていたのだ。
「……まさか、あの龍が人間の女の子だったとは……」
「驚かせるつもりはなかったのだけど……ね」
「それで、君は……? 俺はマサムネ。
「私はアマネ。
アマネと名乗った少女は、黒髪と赤い瞳を持つ。
それがあんな龍に姿を変えるなんて、もうびっくり……。
「それでアマネはどうして龍に姿を変えられるんだ?」
「――古の時代から、私の血族は龍に姿を変えられるのよ。それも、五大明王に関係があるほどのね」
「そうだったのか」
彼女の瞳に宿った紅い炎が、まだ消えていないことを俺は見逃さなかった。
「まだ……終わってないよな」
「ええ」
ミツキが言う。
「ノゾミをあんな姿に変えやがった白衣の男は、俺をクソガキと言って吐き捨てるように逃げた。
禍影とかいうバケモノも、縫われたバケモノも、全部片付いたわけじゃなんだ」
「だろうな……。マオ」
「なんだ?」
「これからも俺たちと一緒に戦ってくれるか?」
「もちろん。俺も手を貸すよ」
マオは俺の前に腕を差し出し、握手を求めた。
俺は差し出されたその手を握った。
▲▽▲▽▲▽
――別の場所では。
「チッ……。あのクソガキども……」
白衣の男――ベグは、自らの拠点であるテナント募集の看板がかかっている雑居ビルにいた。
「だが……まあ、いい……。これぐらいデータが集まれば、あのクソガキどもの意志を挫くことはできるはずだ」
ベグが苦笑まじりに呟いた、その時だった。
部屋の隅で、影のように沈んだ空間が波打つ。
ぼうっ、とそこに一人の男が現れた。
白銀の髪に、冷たい双眸。
ただ
「……あいかわらず、勝手な真似をしているようだな。ベグ」
ベグは一瞬、口を引きつらせたが、すぐに白衣の襟元を正した。
「これはこれは。ご丁寧に
「皮肉は聞いていない。
ロイグの声は淡々としているのに、どこか血の匂いを感じる。
「私は
「……次はない」
その一言が、ベグの口をピタリと止めた。
「貴様の
ベグの背筋にぞくり、と冷たいものが走る。
ロイグはそれ以上何も言わず、影のようにその場から消える。
ただ、その場に残った