藤沢を抜け、フリーダム号は湘南の海へとたどり着いた。
潮の香り。砂浜のきらめき。
道路の向こうに、あのアイコンが姿を見せる──
江ノ島。
「来た!江ノ島だぁぁ!!」
テンションMAXでアクセルを踏みかけたその時。
「……え?」
視界が、切れていた。
江ノ島へ続く橋──江ノ島大橋が、完全に崩落していた。
「あ……あ……」
絶句。
「し、生しらすの……踊り食いが……が、が……っ」
秀人、立ち尽くす。
「どっちにしろ、漁なんてしてないんだからあるわけないけど!!」
一人でツッコみつつ、ハンドルを叩く。
悔しさで腹の虫が鳴る。
だから。
「もういい、チャーハン食うわ!」
フリーダム号のキッチンに直行。
冷凍庫から、これまた霜まみれの冷凍チャーハンを取り出す。
「よし、レンチンだ!」
電子レンジ、タイマー設定、多めにチン。
チーン。
開けると、米はふにゃっとしていたが、
ソースの香ばしさとほんのり焦げた匂いが立ち昇る。
「うん、問題ない。気分は中華街!」
海を見渡せるシートに座り、パックのままスプーンを突っ込む。
「はふっ……うまい……」
江ノ島には渡れなかった。
生しらすは幻だった。
だが、チャーハンは裏切らない。
外では湘南の海が広がっている。
普通なら、サーフボードを抱えた若者たちが波を追い、海の家が音楽を流しているはずのこの浜辺には──
「……ゾンビしかいねえじゃん」
海水に浸かって腐敗の進んだゾンビたちが、ときおり波に流され、よろけながら浜に戻ってくる。
「いやサーファーじゃなくて、サーフゾンビやん……」
ちょっと笑いながら、チャーハンを口に運ぶ。
それでも、海は綺麗だった。
空は青く、波の音だけは昔と変わらない。
◆◆◆
フリーダム号は、湘南の海岸通りをゆっくりと進む。
ただでさえ狭い道に、放置された車の群れ。
その合間を縫うように、フリーダム号は慎重にハンドルを切っていく。
「これが終末世界のドライブスルーだな……」
やがて、見えてきたのは国道1号線の痕跡。
ここから先は──
箱根駅伝でおなじみの箱根路。
「おお、ついに“箱根マラソンルート”に突入だ!」
箱根の温泉は、もうすぐそこ。
フリーダム号は再びエンジン音を響かせ、南西の山並みに向かって、静かに加速を始めた。