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第15話 しらす断念とチャーハンの誓い

 藤沢を抜け、フリーダム号は湘南の海へとたどり着いた。


 潮の香り。砂浜のきらめき。

 道路の向こうに、あのアイコンが姿を見せる──


 江ノ島。


「来た!江ノ島だぁぁ!!」


 テンションMAXでアクセルを踏みかけたその時。


「……え?」


 視界が、切れていた。


 江ノ島へ続く橋──江ノ島大橋が、完全に崩落していた。


「あ……あ……」


 絶句。


「し、生しらすの……踊り食いが……が、が……っ」


 秀人、立ち尽くす。


「どっちにしろ、漁なんてしてないんだからあるわけないけど!!」


 一人でツッコみつつ、ハンドルを叩く。


 悔しさで腹の虫が鳴る。

 だから。


「もういい、チャーハン食うわ!」


 フリーダム号のキッチンに直行。

 冷凍庫から、これまた霜まみれの冷凍チャーハンを取り出す。


「よし、レンチンだ!」


 電子レンジ、タイマー設定、多めにチン。


 チーン。


 開けると、米はふにゃっとしていたが、

 ソースの香ばしさとほんのり焦げた匂いが立ち昇る。


「うん、問題ない。気分は中華街!」


 海を見渡せるシートに座り、パックのままスプーンを突っ込む。


「はふっ……うまい……」


 江ノ島には渡れなかった。

 生しらすは幻だった。

 だが、チャーハンは裏切らない。


 外では湘南の海が広がっている。


 普通なら、サーフボードを抱えた若者たちが波を追い、海の家が音楽を流しているはずのこの浜辺には──


「……ゾンビしかいねえじゃん」


 海水に浸かって腐敗の進んだゾンビたちが、ときおり波に流され、よろけながら浜に戻ってくる。


「いやサーファーじゃなくて、サーフゾンビやん……」


 ちょっと笑いながら、チャーハンを口に運ぶ。


 それでも、海は綺麗だった。

 空は青く、波の音だけは昔と変わらない。


 ◆◆◆


 フリーダム号は、湘南の海岸通りをゆっくりと進む。


 ただでさえ狭い道に、放置された車の群れ。

 その合間を縫うように、フリーダム号は慎重にハンドルを切っていく。


「これが終末世界のドライブスルーだな……」


 やがて、見えてきたのは国道1号線の痕跡。


 ここから先は──

 箱根駅伝でおなじみの箱根路。


「おお、ついに“箱根マラソンルート”に突入だ!」


 箱根の温泉は、もうすぐそこ。


 フリーダム号は再びエンジン音を響かせ、南西の山並みに向かって、静かに加速を始めた。

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