温泉で体を癒やし、ビールで満たされ、その夜は、フリーダム号のふかふかベッドで即落ちだった。
ぐっすり、ぐっすり。
──そして朝。
「……ぐ〜〜〜」
寝起き第一声は、自分の腹の虫だった。
「お、おはよう……俺の胃袋」
風呂でリラックスしすぎたせいか、空腹がエグい。
たこ焼きもチャーハンも食べ尽くし、非常食も尽きかけている。
「よし、今日の目標は……海鮮だ!」
思いついたら即行動。
箱根の山を再び下る。
「ここからなら沼津だな!海鮮の宝庫、港町の王様!」
冷凍倉庫が生きていれば、冷凍マグロ、サバ、イカ、カニ、エビ……!
「食うぞ!行くぞ!海鮮祭りだァァァ!!」
テンションはすでに漁師モード。
フリーダム号は芦ノ湖を経由して、箱根のワインディングを慎重に──
「って言いたいとこだけど、俺の相棒はフリーダム号。ブレーキ焼き付くとか、そういうヤワな車じゃねぇ」
とはいえ、事故ったら元も子もないので、安全運転だけは守りつつ、徐々に高度を下げていく。
「風呂の次は飯。生きるってのは、こういうことだな」
◆◆◆
三島の町に入ると、空気がぐっと温かくなった。
道沿いの建物は、ほとんどが形を保っている。
植物が絡まり、看板は色あせてはいるが、崩壊まではしていない。
「やっぱ内陸より海沿いの方が傷んでるな……って考えたら、冷凍倉庫が無事な可能性もまだある!」
フリーダム号はそのまま、国道1号を西へ。
「このまま走ったら名古屋まで行けるな……それはそれでアリだけど」
考えながらも、頭の中はすでに海鮮丼モード。
三島を抜け、いよいよ沼津漁港が見えてくる。
広い道、海の香り、そして海の向こうに広がる静かな水平線。
「……さて、海の幸……本当にまだ残ってるか?」
ゾンビだらけの施設だったら撤退する覚悟もある。
でも、可能性があるなら賭けてみる価値はある。
「いざ、沼津漁港へ──」
目指すは、“冷凍庫の中に残された奇跡の一品”。
フリーダム号が静かにエンジン音を響かせ、港町へと滑り込んでいく。