沼津漁港に到着した。
かつては全国からバスツアーが押し寄せ、50軒以上の海鮮丼屋や食堂がひしめき合っていたグルメタウン。
だが今、その活気はなく、建物の影にはゾンビが潜んでいるかもしれない。
「……あそこに突っ込むのは自殺行為だな」
飲食店街はパスだ。
店の中にはテーブル、椅子、厨房の狭さ──逃げ場がない。
だから狙うのは──市場裏手の卸会社の冷凍倉庫。
「仕入れルートなら人も少なかったはず。ワンチャンある」
できるだけゾンビに気づかれぬよう、フリーダム号を海側から静かに滑り込ませる。
そこで、希望が視界に差し込んだ。
「……あれ、ソーラーパネル?」
倉庫の屋上に、斜めに設置された黒い板群。
──太陽を受けて、ほんのわずかに反射している。
「自家発電……あるかもな」
もちろん全てが無事なわけじゃない。
だが、賭ける価値はある。
フリーダム号を冷凍倉庫の搬入口へぴたりと横付けし、エンジンを止める。
耳を澄ます。
──静寂。
冷却ファンの唸りは……外からでは聞こえない。
「仕方ねぇ。開けて確認するしかないな」
スライドドアを開け、慎重にフリーダム号を降りる。
倉庫の分厚い鉄の扉。
錆びつきかけた取っ手を握り、ゆっくり開く。
──ヒュン……
冷気、なし。
「ハズレか……」
次。
「ハズレ」
次。
「ハズレ」
──4つめの扉を開けた瞬間。
ゴォォ……
「……っ!」
顔にあたる、明確な冷気の奔流。
「来たぁああああ!!」
冷凍庫が、生きていた。
この感触──間違いなく、内部の冷却装置がまだ稼働している。
「……ソーラーパネル、ありがとう!!」
興奮を抑えつつ、中を覗く。
──目に飛び込んできたのは、鯵の干物。
そして、カツオ。
伊勢海老。
サバ。タチウオ。冷凍マグロの腹身まで。
「……こ、これは……沼津オールスターじゃねぇか!!」
思わず震える。
まさか、こんな世界で伊勢海老に再会できるとは。
片隅には、劣化して崩れかけたパック入りの桜えび、そして真っ黒になったしらす。
「……ああ、さすがに無理だったか」
名残惜しさを振り切って、まずは保存状態の良い魚介を確認。
「よし……片っ端からフリーダム号に運び込むぞ!!」
冷気に包まれながら、腕まくりをする。
今日は、海鮮祭りの開幕だ!!