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第19話 冷凍倉庫を制す者、海鮮を制す

 沼津漁港に到着した。


 かつては全国からバスツアーが押し寄せ、50軒以上の海鮮丼屋や食堂がひしめき合っていたグルメタウン。

 だが今、その活気はなく、建物の影にはゾンビが潜んでいるかもしれない。


「……あそこに突っ込むのは自殺行為だな」


 飲食店街はパスだ。

 店の中にはテーブル、椅子、厨房の狭さ──逃げ場がない。


 だから狙うのは──市場裏手の卸会社の冷凍倉庫。


「仕入れルートなら人も少なかったはず。ワンチャンある」


 できるだけゾンビに気づかれぬよう、フリーダム号を海側から静かに滑り込ませる。


 そこで、希望が視界に差し込んだ。


「……あれ、ソーラーパネル?」


 倉庫の屋上に、斜めに設置された黒い板群。

 ──太陽を受けて、ほんのわずかに反射している。


「自家発電……あるかもな」


 もちろん全てが無事なわけじゃない。

 だが、賭ける価値はある。


 フリーダム号を冷凍倉庫の搬入口へぴたりと横付けし、エンジンを止める。


 耳を澄ます。

 ──静寂。

 冷却ファンの唸りは……外からでは聞こえない。


「仕方ねぇ。開けて確認するしかないな」


 スライドドアを開け、慎重にフリーダム号を降りる。

 倉庫の分厚い鉄の扉。

 錆びつきかけた取っ手を握り、ゆっくり開く。


 ──ヒュン……


 冷気、なし。

「ハズレか……」


 次。


「ハズレ」


 次。


「ハズレ」


 ──4つめの扉を開けた瞬間。


 ゴォォ……


「……っ!」


 顔にあたる、明確な冷気の奔流。


「来たぁああああ!!」


 冷凍庫が、生きていた。

 この感触──間違いなく、内部の冷却装置がまだ稼働している。


「……ソーラーパネル、ありがとう!!」


 興奮を抑えつつ、中を覗く。


 ──目に飛び込んできたのは、鯵の干物。

 そして、カツオ。

 伊勢海老。

 サバ。タチウオ。冷凍マグロの腹身まで。


「……こ、これは……沼津オールスターじゃねぇか!!」


 思わず震える。

 まさか、こんな世界で伊勢海老に再会できるとは。


 片隅には、劣化して崩れかけたパック入りの桜えび、そして真っ黒になったしらす。


「……ああ、さすがに無理だったか」


 名残惜しさを振り切って、まずは保存状態の良い魚介を確認。


「よし……片っ端からフリーダム号に運び込むぞ!!」


 冷気に包まれながら、腕まくりをする。


 今日は、海鮮祭りの開幕だ!!

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