冷凍庫の勝利、沼津の奇跡──
大漁の海鮮を抱え、フリーダム号の冷蔵庫はパンパンだった。
「……これは、もう勝っただろ」
ひとり、ガッツポーズ。
だが。
「……いや、待て。素材だけで勝てると思うなよ」
調味料。
そう、味付けの存在を完全に忘れていた。
「伊勢海老の頭は、当然、味噌汁だろ? でも味噌がねぇ!」
味噌。
発酵食品だからワンチャン生きてるかもしれない。
だが、人の手が入っていなければ──カビの楽園と化している可能性も高い。
「カツオはどうすんだ……薬味……ああ、ネギもミョウガもない……」
泣きそうになりながら引き出しを漁ると、ひと袋の粉が出てくる。
「お、粉わさびあるじゃん!!」
希望、わずかに復活。
だが、焼き魚にもカツオのたたきにも、醤油がほしい。
味噌も、欲しい。できれば……出汁も。
「このまま食っても絶対うまいけど、完成系じゃねぇんだよ!」
妥協できない海鮮魂が叫んでいた。
「ってことで、味噌を探す旅に出よう」
もう少しでフリーダム号の運転席に「味噌を探して三千里」って貼り紙するとこだった。
「コンビニとかスーパー、小さめのとこならサッと覗いてすぐ出る。深追い禁止」
それでも、コンビニがどれほど物資を残しているかは微妙。
「震災のときも最初に消えたのはコンビニだったからな……期待値は低い」
味噌の蔵元なんて知らない。
けど、今は細かく計画立てるより、走りながら探す。
「目指すは富士!」
地名としての富士、そして──目の前に立ち現れた、あの富士山。
どーんと正面に、裾野を広げて現れたその姿は、まるで「よく来たな」と言っているようだった。
「おお……でけぇ……」
見慣れた写真とは違う、音のない静寂の中での富士山。
その堂々たる姿に、少しだけ背筋が伸びる。
「じゃあ……いくか、フリーダム号」
エンジンをかけ、アクセルを踏む。
目指すは、味噌と醤油と、出汁と香味野菜。
次なる勝利は、“完璧な海鮮メシ”の完成だ。