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第20話 味噌を求めて、富士の彼方へ

 冷凍庫の勝利、沼津の奇跡──

 大漁の海鮮を抱え、フリーダム号の冷蔵庫はパンパンだった。


「……これは、もう勝っただろ」


 ひとり、ガッツポーズ。


 だが。


「……いや、待て。素材だけで勝てると思うなよ」


 調味料。

 そう、味付けの存在を完全に忘れていた。


「伊勢海老の頭は、当然、味噌汁だろ? でも味噌がねぇ!」


 味噌。

 発酵食品だからワンチャン生きてるかもしれない。

 だが、人の手が入っていなければ──カビの楽園と化している可能性も高い。


「カツオはどうすんだ……薬味……ああ、ネギもミョウガもない……」


 泣きそうになりながら引き出しを漁ると、ひと袋の粉が出てくる。


「お、粉わさびあるじゃん!!」


 希望、わずかに復活。


 だが、焼き魚にもカツオのたたきにも、醤油がほしい。

 味噌も、欲しい。できれば……出汁も。


「このまま食っても絶対うまいけど、完成系じゃねぇんだよ!」


 妥協できない海鮮魂が叫んでいた。


「ってことで、味噌を探す旅に出よう」


 もう少しでフリーダム号の運転席に「味噌を探して三千里」って貼り紙するとこだった。


「コンビニとかスーパー、小さめのとこならサッと覗いてすぐ出る。深追い禁止」


 それでも、コンビニがどれほど物資を残しているかは微妙。


「震災のときも最初に消えたのはコンビニだったからな……期待値は低い」


 味噌の蔵元なんて知らない。

 けど、今は細かく計画立てるより、走りながら探す。


「目指すは富士!」


 地名としての富士、そして──目の前に立ち現れた、あの富士山。


 どーんと正面に、裾野を広げて現れたその姿は、まるで「よく来たな」と言っているようだった。


「おお……でけぇ……」


 見慣れた写真とは違う、音のない静寂の中での富士山。

 その堂々たる姿に、少しだけ背筋が伸びる。


「じゃあ……いくか、フリーダム号」


 エンジンをかけ、アクセルを踏む。

 目指すは、味噌と醤油と、出汁と香味野菜。


 次なる勝利は、“完璧な海鮮メシ”の完成だ。

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