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第21話 発酵の里で、最後のピースを手に入れろ

 富士山に見送られながら、フリーダム号は走る。

 目指すは、味噌、醤油、そして出汁。

 そう──海鮮を完成させる“最後のピース”だ。


 そしてたどり着いたのは、老舗の醸造所──日本酒や味噌、醤油を造っていた発酵の里。


 建物は年季が入っていたが、石壁や木造の柱は健在。

 蔵元の表札も残っており、観光客向けに整備されていたらしい施設跡には、直売所らしき小屋も併設されていた。


「中に……残ってるといいけど」


 まずは味噌蔵を覗く。


 そこに鎮座していたのは、大きな木桶の味噌樽。


 蓋は外れており、表面にはびっしりと白や黒のカビ。

 遠目には完全に終わってる。


「……いや、待てよ」


 秀人は、そっと樽に近づいた。


 味噌は、発酵食品。

 上のカビは自然に発生するもの。

 もしかしたら──中の層は、まだ……!


「やるだけやってみるか」


 備え付けの木杓子を使い、表面のカビを慎重に取り除く。


 その下に現れたのは──


 赤褐色に艶めく、芳醇な香りの味噌の層。


「……生きてる。味噌、生きてた!!」


 手に取ると、指先にじんわりと広がる塩気と、大豆の甘み。

 香りも強い。これは──味噌汁に最高だ!


 直売所跡を漁ると、瓶詰めの醤油が数本見つかった。


 ガラス製、しかも塩分濃度が高く腐敗の心配がないため、保存状態は抜群。

 多少風味は落ちているかもしれないが、塩分と香りはしっかりある。


「煮物や、カツオのたたきに使えそうだな……!」


 さらに棚の奥から、密閉容器に入った乾燥昆布を発見。


「やった……出汁まで揃った!!」


 袋を開けると、空気も湿っておらず、カラリとした香り高い昆布が姿を見せる。


 これで──


 伊勢海老の味噌汁、完成が見えた。


「勝ったな……!」


 秀人は、空になった空を仰ぎ、にやりと笑った。

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