富士山に見送られながら、フリーダム号は走る。
目指すは、味噌、醤油、そして出汁。
そう──海鮮を完成させる“最後のピース”だ。
そしてたどり着いたのは、老舗の醸造所──日本酒や味噌、醤油を造っていた発酵の里。
建物は年季が入っていたが、石壁や木造の柱は健在。
蔵元の表札も残っており、観光客向けに整備されていたらしい施設跡には、直売所らしき小屋も併設されていた。
「中に……残ってるといいけど」
まずは味噌蔵を覗く。
そこに鎮座していたのは、大きな木桶の味噌樽。
蓋は外れており、表面にはびっしりと白や黒のカビ。
遠目には完全に終わってる。
「……いや、待てよ」
秀人は、そっと樽に近づいた。
味噌は、発酵食品。
上のカビは自然に発生するもの。
もしかしたら──中の層は、まだ……!
「やるだけやってみるか」
備え付けの木杓子を使い、表面のカビを慎重に取り除く。
その下に現れたのは──
赤褐色に艶めく、芳醇な香りの味噌の層。
「……生きてる。味噌、生きてた!!」
手に取ると、指先にじんわりと広がる塩気と、大豆の甘み。
香りも強い。これは──味噌汁に最高だ!
直売所跡を漁ると、瓶詰めの醤油が数本見つかった。
ガラス製、しかも塩分濃度が高く腐敗の心配がないため、保存状態は抜群。
多少風味は落ちているかもしれないが、塩分と香りはしっかりある。
「煮物や、カツオのたたきに使えそうだな……!」
さらに棚の奥から、密閉容器に入った乾燥昆布を発見。
「やった……出汁まで揃った!!」
袋を開けると、空気も湿っておらず、カラリとした香り高い昆布が姿を見せる。
これで──
伊勢海老の味噌汁、完成が見えた。
「勝ったな……!」
秀人は、空になった空を仰ぎ、にやりと笑った。