腹が、鳴った。
盛大に。
「オレの腹は……いま何腹なんだ?」
そんなセリフが口から出ていた。
「……いや、焦るな。俺は腹が減っているだけなんだ……」
五郎さんばりのセリフで空腹をごまかしつつ、立ち上がる。
そう、今日は――海鮮だ。
沼津の冷凍倉庫から大勝利してきた、カツオ、マグロ、伊勢海老。
“終末グルメ王”の称号は、すでに俺のものだ。
でも、勝負はこれから。
◆◆◆
「さて、まずは出汁だな。伊勢海老、頭お借りします」
伊勢海老の頭を半割りにして、鍋に投入。
水と乾燥昆布を入れて、弱火でじわじわ――
フリーダム号のミニキッチンが、極上の香りに包まれていく。
「この匂い……鼻の奥が高級旅館になりそう」
「次、伊勢海老の身。刺身にするぞ……」
プリップリの透明な身を、ぶつ切り。
「これだけで、ご飯一杯いけるんじゃ……いや、がまんがまん」
「お次はカツオ。三枚におろして……皮目を炙る!ここは男のロマンだろ!」
藁はない。
でも俺にはフリーダム号のコンロがある。
「藁焼きだッつって、火力全開いきまーす!」
皮目をジュッと焼きつけ、香ばしい香りが立ち上がる。
「うおおぉぉ……焼けた焼けた!もはや戦場。これはカツオのたたき爆誕!」
氷水? ねぇよそんなもん。冷たい水でよし!
「はい次、マグロちゃん。切るぞぉぉぉ!」
ブロックを半分にスライスしてみたら──
「お、お、お、お前……中トロじゃないかッ! ラッキー!」
薄紅のサシが美しい。横にあったのはしっかりとした赤身。
「赤とピンクのコントラスト……紅白か。めでたいな」
「ラスト、ご飯!」
長期保存レンチンご飯、チン!
「ありがとう文明。レンジ最高」
全部を器に盛りつけていく。
カツオ、マグロの赤身&中トロ、伊勢海老の刺身。
その中心に、刻み昆布と粉わさびをトッピング。
サイドには、伊勢海老の頭が浮かぶ味噌汁。
完成だ……!
「なんだか……すごいことになっちゃったぞ」
器を見つめながら、ふとつぶやく。
「……よし、いくか」
まずは伊勢海老の味噌汁を、ひと口。
「っっっくぅうぅ!……この味噌、正解だった……!」
エビの濃厚な旨味、昆布のまろやかさ、味噌のコク。
汁だけで語りたい人生ってある。
続いて、伊勢海老の刺身。
「ぷりっぷりの甘さ。これこれ、こういうので良いんだよ……!」
中トロ、わさび醤油ちょいっと付けて、パクッ。
「うおぉぉ……口の中で溶けていく。脂、最高かよ……」
赤身は?
「うんうん、さっぱりしてて……ご飯と合う! お前はご飯界の英雄か!」
カツオのたたき。
「焦げ目から香るスモーク感……これもいい。コンロ焼きでもイケてる!」
全部まとめて、ご飯といっしょにワンバイト。
「海鮮丼ってなんでこんなに……こう、幸福度バグってるんだろ」
◆◆◆
食べ終えて、深く深く息を吐く。
そして、ひと言。
「……ごちそうさまでした」
空になった丼を眺めて、もう一度。
「これこれ、こういうので良いんだよ」
「さて、明日も終末だ、何を食おうか……。」