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第22話 かいせんどぅぅぅん(孤独のグルメ)

 腹が、鳴った。

 盛大に。


「オレの腹は……いま何腹なんだ?」


 そんなセリフが口から出ていた。


「……いや、焦るな。俺は腹が減っているだけなんだ……」


 五郎さんばりのセリフで空腹をごまかしつつ、立ち上がる。

 そう、今日は――海鮮だ。

 沼津の冷凍倉庫から大勝利してきた、カツオ、マグロ、伊勢海老。

 “終末グルメ王”の称号は、すでに俺のものだ。


 でも、勝負はこれから。


 ◆◆◆


「さて、まずは出汁だな。伊勢海老、頭お借りします」


 伊勢海老の頭を半割りにして、鍋に投入。

 水と乾燥昆布を入れて、弱火でじわじわ――

 フリーダム号のミニキッチンが、極上の香りに包まれていく。


「この匂い……鼻の奥が高級旅館になりそう」


「次、伊勢海老の身。刺身にするぞ……」


 プリップリの透明な身を、ぶつ切り。


「これだけで、ご飯一杯いけるんじゃ……いや、がまんがまん」


「お次はカツオ。三枚におろして……皮目を炙る!ここは男のロマンだろ!」


 藁はない。

 でも俺にはフリーダム号のコンロがある。


「藁焼きだッつって、火力全開いきまーす!」


 皮目をジュッと焼きつけ、香ばしい香りが立ち上がる。


「うおおぉぉ……焼けた焼けた!もはや戦場。これはカツオのたたき爆誕!」


 氷水? ねぇよそんなもん。冷たい水でよし!


「はい次、マグロちゃん。切るぞぉぉぉ!」


 ブロックを半分にスライスしてみたら──


「お、お、お、お前……中トロじゃないかッ! ラッキー!」


 薄紅のサシが美しい。横にあったのはしっかりとした赤身。


「赤とピンクのコントラスト……紅白か。めでたいな」


「ラスト、ご飯!」


 長期保存レンチンご飯、チン!

「ありがとう文明。レンジ最高」


 全部を器に盛りつけていく。

 カツオ、マグロの赤身&中トロ、伊勢海老の刺身。

 その中心に、刻み昆布と粉わさびをトッピング。

 サイドには、伊勢海老の頭が浮かぶ味噌汁。


 完成だ……!


「なんだか……すごいことになっちゃったぞ」


 器を見つめながら、ふとつぶやく。


「……よし、いくか」


 まずは伊勢海老の味噌汁を、ひと口。


「っっっくぅうぅ!……この味噌、正解だった……!」


 エビの濃厚な旨味、昆布のまろやかさ、味噌のコク。

 汁だけで語りたい人生ってある。


 続いて、伊勢海老の刺身。


「ぷりっぷりの甘さ。これこれ、こういうので良いんだよ……!」


 中トロ、わさび醤油ちょいっと付けて、パクッ。


「うおぉぉ……口の中で溶けていく。脂、最高かよ……」


 赤身は?


「うんうん、さっぱりしてて……ご飯と合う! お前はご飯界の英雄か!」


 カツオのたたき。


「焦げ目から香るスモーク感……これもいい。コンロ焼きでもイケてる!」


 全部まとめて、ご飯といっしょにワンバイト。

「海鮮丼ってなんでこんなに……こう、幸福度バグってるんだろ」


 ◆◆◆


 食べ終えて、深く深く息を吐く。

 そして、ひと言。


「……ごちそうさまでした」


 空になった丼を眺めて、もう一度。


「これこれ、こういうので良いんだよ」


「さて、明日も終末だ、何を食おうか……。」

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