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第23話 葡萄と樹海と甲州ワイン

「よし、ここを……キャンプ地とする!!」


 たからかに宣言した俺の声が、だだっ広い空き地に虚しく響いた。

 夜間移動はゾンビが活発になるからNGだ。

 食って、寝て、明日動く。これがフリーダム式サバイバル。


 今日の寝床は、富士山を遠くに望む見晴らしのいい場所。

 月明かりに照らされたフリーダム号が、まるで小さな城のように見える。

 気分は完全にキャンプだ。というか、この世界ではキャンプしかない。


 満腹の腹をさすりながら、ベッドにもぐり込む。


「伊勢海老もカツオもマグロも、完璧だったな……」


 明日の朝、また残り汁温めて飲もう。

 そう思いつつ、心地よい疲労感と満腹感に包まれながら眠りについた。


 ◆◆◆


 朝。

 目覚ましの代わりに、ゾンビのうめき声ではなく鳥の鳴き声。


「お……今日は平和か?」


 眠気まなこでキッチンへ向かい、昨夜の鍋をコンロにかける。

「残り汁……最高の朝食って、コレのことだよな……」


 湯気の立ち昇る味噌汁をカップに注ぎ、一口。


「ふぅう……しみる……。オレは今、確かに“生きてる”って感じる……」


 温泉よし。

 海鮮よし。

 となると――次は酒だ。


「日本人だもの。温泉・グルメ・酒。この三本柱は外せない」


 旅の次なる目的地は決まった。

 甲府! 甲州ワインだ!!


 ワインは年代物が良いとよく聞く。

 ってことは、むしろ今こそが飲み頃かもしれない(※個人の願望です)。


「問題は、見つけられるかどうか……だな」


 でもな、ワインは瓶詰め、密閉、冷暗所保存が基本。

 望みはある。むしろ腐らずに熟成してるかもしれない。


 ルートは、富士→富士宮→富士山の裾野をかすめて山を越えていく。


「そういや、この辺……“ふもとっぱら”があるな」


 キャンプアニメの聖地だ。

『ゆるキャン』のあの草原……今じゃ誰もいないけど、むしろ本来のキャンプ地感ある。


「でも今の俺、どこでもキャンプだからな」


 ふもとっぱらに敬意を払いながら、軽く一礼して通過する。


 道中、富士五湖のあたりを通ると、空気が変わる。

 山道は荒れ放題。アスファルトの上に雑草が生え、電柱は倒れ、建物はツタに覆われていた。


「完全に……自然に還ってんな」


 特に、青木ヶ原樹海の近くに入ったとたん、空気が違った。

 深く、湿り気を含んだ空気。

 木々が密集して、空の光も入ってこない。


「GPSも地図も役に立たねぇ。道があるのかも怪しいな……」


 フリーダム号の装甲は無敵でも、行き止まりに入ると面倒くさい。

 慎重に、少し遠回りして樹海エリアを迂回する。


 山を越え、やがて甲府盆地が見えてきた。


「来たぞ……葡萄とワインの都、甲州!」


 遠くに見えるぶどう畑は、もはや荒れ地のように広がっていた。

 でもどこかの酒蔵、ワイナリーの地下に──生きたワインが眠っているはずだ。


「いざ、ワインハント!」


 葡萄の香りに包まれる予感にテンションが上がる。

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