甲府に来た。
目的は……ワイン! だったはず。
「さてと……ワイナリー、どこだ?」
フリーダム号のフロントガラス越しに街を見回してみる。
そこにあるのは、街、街、また街。
ビル、スーパー、住宅街。
そしてゾンビの死角に立つ、イオンモールの亡骸。
「……ワイナリーって雰囲気じゃねぇな」
落ち着け。
甲州ワインっていうくらいだから、“甲州”が産地だ。
「ってことは……この“甲府”は甲州じゃないのか!?」
いやいや、まて。たしか甲府は“山梨県の県庁所在地”。
甲州って、昔の国名じゃなかったか……?
つまり山梨県全体が“甲州”で――
「……じゃあ勝沼ってどこなんだよぉおおお!!」
座席で身を乗り出して叫ぶ。誰もいないけど叫ぶ。
結論。
わからん。
地図も道標も当てにならんこの世界、うろ覚えの記憶じゃ無理ゲーだ。
勝沼……遠かったら面倒くさいし……。
「ここで時間使ってゾンビワイナリーツアーはリスキーだな……」
頭を抱えたそのとき、視界の端に……朽ちかけた道路標識。
【北杜市 →】
「……北杜?」
ん? 聞いたことあるぞ、その名前。
たしか、北の方の清里とか……えーと、白州??
「……白州!? ざっ……じゃぱにーずうぃすきーだと!?」
バチッと電流が走る。
まさかの展開、ここに来て主役交代である。
「実はオレ、ワインよりウイスキー派なんだよな……」
何だこの手のひら返しは。いや、本音が出ただけだ。
「最初からウイスキー探してました、みたいな顔で行こう」
誰も見てないけど、旅は気分が大事だ。
そもそも予定なんて決まってない。そう、俺は旅人。終末旅の自由人。
「行き先なんて気分次第さ……よし、北上だ!目指せ北杜!」
アクセルを踏むフリーダム号。
……荒れた国道を縫い、山を越え、目指すはあの蒸留所の町。
ウイスキーの瓶が朽ちてないことを祈りつつ──
もし見つけたら、グラスを片手に星を眺めよう。
「終末だって、うまい酒が飲みたいんだよ」
旅はまだまだ続く。
次は、琥珀色の奇跡との出会いだ。