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第24話 ざっじゃぱにーずうぃすきー

 甲府に来た。

 目的は……ワイン! だったはず。


「さてと……ワイナリー、どこだ?」


 フリーダム号のフロントガラス越しに街を見回してみる。

 そこにあるのは、街、街、また街。

 ビル、スーパー、住宅街。

 そしてゾンビの死角に立つ、イオンモールの亡骸。


「……ワイナリーって雰囲気じゃねぇな」


 落ち着け。

 甲州ワインっていうくらいだから、“甲州”が産地だ。


「ってことは……この“甲府”は甲州じゃないのか!?」


 いやいや、まて。たしか甲府は“山梨県の県庁所在地”。

 甲州って、昔の国名じゃなかったか……?

 つまり山梨県全体が“甲州”で――


「……じゃあ勝沼ってどこなんだよぉおおお!!」


 座席で身を乗り出して叫ぶ。誰もいないけど叫ぶ。


 結論。

 わからん。


 地図も道標も当てにならんこの世界、うろ覚えの記憶じゃ無理ゲーだ。

 勝沼……遠かったら面倒くさいし……。


「ここで時間使ってゾンビワイナリーツアーはリスキーだな……」


 頭を抱えたそのとき、視界の端に……朽ちかけた道路標識。


【北杜市 →】


「……北杜?」


 ん? 聞いたことあるぞ、その名前。

 たしか、北の方の清里とか……えーと、白州??


「……白州!? ざっ……じゃぱにーずうぃすきーだと!?」


 バチッと電流が走る。

 まさかの展開、ここに来て主役交代である。


「実はオレ、ワインよりウイスキー派なんだよな……」


 何だこの手のひら返しは。いや、本音が出ただけだ。


「最初からウイスキー探してました、みたいな顔で行こう」


 誰も見てないけど、旅は気分が大事だ。

 そもそも予定なんて決まってない。そう、俺は旅人。終末旅の自由人。


「行き先なんて気分次第さ……よし、北上だ!目指せ北杜!」


 アクセルを踏むフリーダム号。

……荒れた国道を縫い、山を越え、目指すはあの蒸留所の町。


 ウイスキーの瓶が朽ちてないことを祈りつつ──

 もし見つけたら、グラスを片手に星を眺めよう。


「終末だって、うまい酒が飲みたいんだよ」


 旅はまだまだ続く。

 次は、琥珀色の奇跡との出会いだ。

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