甲府の街を抜け、フリーダム号は北へ向かって走っていた。
「いや〜、ワイナリー探してたはずなんだけどな……。気がつけばウイスキーまっしぐらよ」
そんな独り言を呟いていると、左手に異質な建物が現れた。
高いコンクリートの塀。
鉄条網。
見張り台。
柵、柵、柵、そして柵。
「……なんか、柵しかないんだけど」
すぐにピンと来た。
「これ、甲府刑務所か……!」
いまや終末世界、出られない=入れない。
逆に言えば、中にゾンビいない可能性、ある。
もしかして、生存者が拠点にしてるかも?
もしくはゾンビ駆逐して、安全地帯化してるかも?
……と、妄想だけは壮大に膨らむ。
「いや、でもな……武器、ないんだわ。なにと戦う気だよ俺……」
いま突っ込んだら、普通にゾンビだらけで泣く未来しか見えん。
「とりあえずウイスキー飲もうぜ!」
正義のように唱えたその一言で、刑務所は華麗にスルー決定。
武器のない旅人にできるのは、逃げる判断の早さだけ。
韮崎を通過。
山が増えてきた。空が高い。
どんどん気分が“飲むぞ!”モードに入ってくる。
「そういや、道の駅はくしゅうってこの辺だよな……」
かつて湧き水が有名で、ライダーやキャンパーが集っていたあの場所。
「あえてスルーするのがツウ。今は蒸溜所一直線!」
◆◆◆
そしてついに、見えてきた。
巨大な看板。SUNTORY 白州蒸溜所。
山の中腹に抱かれたその建物は、終末世界でも凛として残っていた。
ガラスが割れてる箇所もあるが、石造りの構造は健在。
「……きたぜ。ここが聖地か」
フリーダム号をそっと駐める。
あたりは静か。ゾンビの気配も、いまは感じない。
「頼むぞ……瓶が残っててくれ……琥珀色の……夢が……!」
勝手に緊張しながら、秀人はフリーダム号を降りた。