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第26話 白州の琥珀を探して

 白州蒸溜所の建物の奥、地下倉庫の入口。


「……ここだな。酒の宝庫、夢の琥珀色の眠り場」


 重たい扉をそっと開ける。ひんやりとした空気が顔を撫でた。

 懐中電灯を片手に階段を下りていくと──奥のほうで何かが動いた。


 ビクッ。


「……来たか……ゾンビか……?」

 背中に冷や汗が走る。足音が、ゆらりと近づいてくる。構える俺。


 ──だが、現れたのは……


「んがぁ……うぃ……うぃひひ……」


 泥酔したジジイ。


「……おい。ゾンビじゃねーのかよ……!」


 緊張を返せ、と言いたいところだったが、床に転がった瓶の数がすごかった。


 白州、白州、白州。とにかく白州。

 こっちは真剣に命の危機を感じてたのに、この爺さん、酒池肉林の酩酊中じゃねぇか。


「おっちゃん、ここでなにしてんの……?」


「わしゃ、ここを守っとるんじゃ……ワシの酒……誰にも渡さん……」


 なんだこのラスボスみたいなセリフ。


 どうやら蒸溜所に残って、地下倉庫を勝手に住処にしたらしい。


「酒は……捨てるほどあるがの……食いもんが、ねぇ……」


 なるほど。

 飲むだけ飲んで、食ってないのか。

 ……それ、死ぬぞ。


 俺はフリーダム号に戻り、食料庫を漁った。


 缶詰。

 カツオのたたき。

 伊勢海老(刺身用)。

 鯵の干物。

「大漁セットのお届けです!」


 袋いっぱいに詰めて持っていくと、爺さんは目を輝かせた。

「……あんた、神か。いや、神様じゃな……」


 そして、始まる“物々交換”。


「これやるよ。ノンエイジと、12年。それから18年、24年もある」


「ちょ、まっ──それ、本来いくらするか知ってる!? 24年なんて……100万いくやつだぞ!?」


「ええじゃろ。こんな世界じゃ、金は紙くず。ワシにはもういらん……あんたが生きとるなら、飲め」


 じいさん、良いこと言うな……!

 いやでもすごいなこれ。終末だからこそ手に入った奇跡。


 白州のノンエイジ×2、12年×2、18年×2、24年×2。


「……これ、オレ、もう死んでもいいんじゃないかな」


 じいさんは、ここを出る気はないらしい。


「わしゃ、酒と一緒に朽ちる。それでええ」


 言ってることはカッコいいけど、酔っぱらいだからな。

 ま、止めはしない。俺も今しか生きてないようなもんだし。


 ◆◆◆


「とんでもないもん、手に入れちまったな……」


 フリーダム号に戻り、ウイスキーのボトルを眺めながらにやける俺。

 まるで宝石。ラベルだけでもご飯三杯いける。


「さーて、どれから飲もうか。……いや、今は飲まないぞ? 運転あるし」


 しばらくは大事に……

 いや、たまには贅沢に……

 悩むのも、また楽しい。


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