「……戻ってきちゃったな」
白州の蒸溜所を離れ、フリーダム号はそっと引き返す。
向かったのは、道の駅はくしゅう。
終末世界で静かに佇むこの場所には、確かにあったはずだ。
天然水の湧き水。
「さて、酒をやるなら……水も一流じゃなきゃな」
近くの水汲み場で、ポリタンクに冷たい湧き水をたっぷり確保。
氷はないけど、このキンキンの天然水で水割りなら……むしろご褒美だろ。
フリーダム号を道の駅の端に停める。
木々のざわめき。星のまたたき。
今日はここを、キャンプ地とする!
コンロに火をつける。
カチッ。ボッ。
鯵の干物を網に乗せ、じゅわりと脂がしみ出す。
「鯵って、なんで焼くとこんなに良い香りするんだ……。鯵だけに、味が出てるね……」
寒いダジャレも、今夜は許す。
グラスに白州を注ぐ。
瓶を開けた瞬間、ふわりと森の香りが立ち上った。
そこへ天然水を加水──
氷はない。でも冷たい水が代わりを果たす。
一口。
「……くぅう……っ、これだよこれ……!」
バニラのような甘さ、白州特有のミントのような森林香。
加水によって香りがふくらみ、舌にまろやかに広がる。
「これが……終末の水割り……最高じゃないか」
つまみに焼きあがった干物をかじる。
皮はパリッと、身はふっくら。
塩加減が絶妙で、白州との相性がバツグン。
「さすが沼津名物……。お前、やるな……鯵だけに……」
何度でも言う。言わせてくれ。
グラスを無意識にカラカラ回してしまう。
氷はないのに。癖ってやつは染みついてる。
でも今は、氷なんてなくてもいい。
この静けさと、香りと、味と、酔いがあれば。
「自然に感謝。人に感謝。ウイスキーに、乾杯」
今夜は……きっと、良く眠れそうだ。