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第27話 白州で静かに乾杯

「……戻ってきちゃったな」


 白州の蒸溜所を離れ、フリーダム号はそっと引き返す。

 向かったのは、道の駅はくしゅう。


 終末世界で静かに佇むこの場所には、確かにあったはずだ。

 天然水の湧き水。


「さて、酒をやるなら……水も一流じゃなきゃな」


 近くの水汲み場で、ポリタンクに冷たい湧き水をたっぷり確保。

 氷はないけど、このキンキンの天然水で水割りなら……むしろご褒美だろ。


 フリーダム号を道の駅の端に停める。

 木々のざわめき。星のまたたき。

 今日はここを、キャンプ地とする!


 コンロに火をつける。

 カチッ。ボッ。


 鯵の干物を網に乗せ、じゅわりと脂がしみ出す。


「鯵って、なんで焼くとこんなに良い香りするんだ……。鯵だけに、味が出てるね……」


 寒いダジャレも、今夜は許す。


 グラスに白州を注ぐ。

 瓶を開けた瞬間、ふわりと森の香りが立ち上った。


 そこへ天然水を加水──

 氷はない。でも冷たい水が代わりを果たす。


 一口。


「……くぅう……っ、これだよこれ……!」


 バニラのような甘さ、白州特有のミントのような森林香。

 加水によって香りがふくらみ、舌にまろやかに広がる。


「これが……終末の水割り……最高じゃないか」


 つまみに焼きあがった干物をかじる。


 皮はパリッと、身はふっくら。

 塩加減が絶妙で、白州との相性がバツグン。


「さすが沼津名物……。お前、やるな……鯵だけに……」


 何度でも言う。言わせてくれ。


 グラスを無意識にカラカラ回してしまう。

 氷はないのに。癖ってやつは染みついてる。


 でも今は、氷なんてなくてもいい。

 この静けさと、香りと、味と、酔いがあれば。


「自然に感謝。人に感謝。ウイスキーに、乾杯」


 今夜は……きっと、良く眠れそうだ。

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