「……雨か」
今朝は、フリーダム号の屋根を叩く音で目が覚めた。
ザァザァ、ポタポタ、規則的な水のリズム。
それはちょっとした安心感でもあり、ちょっとした不安の音でもある。
「この雨……放射線とか混じってないよな……?」
終末世界における“水”は、時に恵みで、時に脅威だ。
まあ、フリーダム号の中にいれば問題ないと思うけど、外に出るのは控えとこう。
それにしても、地球にも水は必要だ。
雨が降るってことは、大気も循環してるってことだろう。
「なら、今日は車内で雨ドライブってやつだな!」
フリーダム号のエンジンに火を入れる。
「ブロロロロロォォォ」
今日も絶好調。口エンジンも快調。
ワイパーがキュッ、キュッと仕事をしてくれている……と思ったが、フロントガラスの撥水コーティングが優秀すぎて、水がコロコロ転がっていく。
「これは気持ちいいな……。車もオレも視界良好!」
まずは御殿場経由。
そう、御殿場アウトレット。
「あそこ……たぶん、ゾンビの巣窟になってるよな……」
高低差のない建物、ガラス張りの店舗。
籠城とかできそうにない構造。
パニックになった人々が、ブランドショップで押し合いへし合い……そして感染……。
「うん、絵が浮かぶ。あのガラス、全部割れてるだろうな」
でも今なら、ブランド品取り放題。
「……興味ないけどな」
ロレックス? ヴィトン? プラダ?
あっても使うシーンないし、価値の基準がすでに崩壊してる。
「俺にとってのブランドは、白州とフリーダム号だからな」
箱根方面は、道の崩落が怖いのでパス。
今日は国道246号を走っていくことにする。
ルート的には、秦野→伊勢原→厚木……このまま辿れば、最終的に渋谷に着くルート。
「まぁ、宗谷岬目指してるのに、また渋谷ってのもおかしいけど、いいんだよ。旅は気分だ」
雨は止む気配なし。
だけど、外が濡れているだけで、車内はいつも通り。
鼻歌まじりにハンドルを握る。
音楽はないけど、エンジン音と雨音と、俺の声があれば十分。
「雨のドライブ……案外、悪くないな」
フリーダム号、今日も快調。
北へ。日本最北端・宗谷岬へ向かって、走る。