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第31話 雨の朝とアウトレットゾンビ

「……雨か」


 今朝は、フリーダム号の屋根を叩く音で目が覚めた。

 ザァザァ、ポタポタ、規則的な水のリズム。

 それはちょっとした安心感でもあり、ちょっとした不安の音でもある。


「この雨……放射線とか混じってないよな……?」


 終末世界における“水”は、時に恵みで、時に脅威だ。

 まあ、フリーダム号の中にいれば問題ないと思うけど、外に出るのは控えとこう。


 それにしても、地球にも水は必要だ。

 雨が降るってことは、大気も循環してるってことだろう。


「なら、今日は車内で雨ドライブってやつだな!」


 フリーダム号のエンジンに火を入れる。


「ブロロロロロォォォ」


 今日も絶好調。口エンジンも快調。


 ワイパーがキュッ、キュッと仕事をしてくれている……と思ったが、フロントガラスの撥水コーティングが優秀すぎて、水がコロコロ転がっていく。


「これは気持ちいいな……。車もオレも視界良好!」


 まずは御殿場経由。


 そう、御殿場アウトレット。


「あそこ……たぶん、ゾンビの巣窟になってるよな……」


 高低差のない建物、ガラス張りの店舗。

 籠城とかできそうにない構造。

 パニックになった人々が、ブランドショップで押し合いへし合い……そして感染……。


「うん、絵が浮かぶ。あのガラス、全部割れてるだろうな」


 でも今なら、ブランド品取り放題。


「……興味ないけどな」


 ロレックス? ヴィトン? プラダ?

 あっても使うシーンないし、価値の基準がすでに崩壊してる。


「俺にとってのブランドは、白州とフリーダム号だからな」


 箱根方面は、道の崩落が怖いのでパス。

 今日は国道246号を走っていくことにする。


 ルート的には、秦野→伊勢原→厚木……このまま辿れば、最終的に渋谷に着くルート。


「まぁ、宗谷岬目指してるのに、また渋谷ってのもおかしいけど、いいんだよ。旅は気分だ」


 雨は止む気配なし。

 だけど、外が濡れているだけで、車内はいつも通り。


 鼻歌まじりにハンドルを握る。

 音楽はないけど、エンジン音と雨音と、俺の声があれば十分。


「雨のドライブ……案外、悪くないな」


 フリーダム号、今日も快調。

 北へ。日本最北端・宗谷岬へ向かって、走る。

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