246号線、北上中。
相変わらずの雨。止む気配はない。
「視界は悪くないが、気分は湿気てるな……」
それでもフリーダム号は快調。
撥水コート最強、視界はクリア。
ワイパーがリズムを刻み、雨音が静かにBGMを奏でる。
「そろそろ厚木も近いか?」
眠くなるような単調な道に、鼻歌で抗う。
そんなときだった。
「……ん?」
道路脇。
ポツンと立つ、古びたバス停。
その下に、傘を差した誰かが──いた。
「……マジか」
思わず減速。
遠目に見ても、明らかに“人の形”をしている。
雨の中、じっと立って、動かない。
顔は見えない。
けど、傘を持ち、微動だにしないその姿。
「ゾンビ……じゃないよな? いや、動きなさすぎる」
でももし、生きてるなら?
助けを求めて立ってるなら?
それとも──ただの置物?
フリーダム号の速度をさらに落とす。
だが、完全に止まるには至らない。
「いや、関わるな。変に近づくな。そう教わったろオレ……!」
徐行で、ゆっくりバス停を通過する。
チラッと横目で確認。
確かに、そこにいた。
人型。傘。立っている。
でも、顔が、見えない。
フリーダム号が数十メートル通り過ぎたところで、バックミラーを見る。
「……っ!」
いなかった。
バス停。傘。
人影が、消えていた。
ブレーキは、踏まなかった。
アクセルを、じわりと踏み直した。
「今のは……なんだ?」
誰か?
何か?
それとも──幻?
「……いやいやいや、考えすぎだ。あれは……ただのマネキン、そう、雨対策に置かれた客寄せ……いやそんなわけあるか」
口では軽口を叩いてみる。
でも心のどこかが、冷えている。
雨の音が、やけに大きく聞こえた。