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第33話 春日部シンノスケと雨の道の駅

「今日も……生き延びたな、俺」


 雨はやまず。だが、心は折れていない。

 朝からずっとフリーダム号を走らせ、気づけばかなり北上していた。


「順調。実に順調。よし、平常心を保った俺を……褒め称えよう!」


 ひとりで拍手。虚しくなんてない。これが俺の世界の正解だ。


 ……ただひとつ。

 ひとつだけ、引っかかってる。


 あの時、バス停を通り過ぎた瞬間、見た気がしたんだよ。赤い服の女の子。傘を差してた。


 子供だ。多分、小学生くらいの。

 顔は……わからなかった。

 でも確かに、そこにいた“気がした”。


「……いや、いないいない。そんなはず、ないんだって」


 頭を振る。忘れよう。あれは見間違い。マネキン。うん。マネキン。


 気を取り直して、フリーダム号は進む。

 国道246号、厚木を越えたあたりで、判断する。


「このまま都心突入は……ナシだな。ゾンビ、確実に多い」


 東京方面は、過去の経験からしても危険度が高すぎる。

 なので、ルートを変更。

 16号線に乗って、都心をぐるりと回避する作戦だ。


 八王子、狭山、川越──と、埼玉を横切る。

 途中、道路脇の車に潜んでいたゾンビを数体見るも、接触なし。

 日中、人の集まらない道を選んで進むこの戦法──正解だ。


「……これはアレだな。人がいないところは、ゾンビもいない法則」


 少しテンションも戻ってきた。


 ◆◆◆


 やがて、春日部に入る。


「おっほーい! おらシンノスケだゾ〜!」


 誰もいない車内で叫んでみる。


「……うん、こういうのは気分の問題だ」


 春日部といえば、クレヨンしんちゃんの聖地。

 俺が観光するなら、誰もいない商店街じゃなくて、道の駅だろう。


 4号バイパスに入って、「道の駅庄和」へ到着。


 周囲は静か。

 雨はまだ降り続いている。

 でも屋根のあるスペースにフリーダム号を停め、今日はここでキャンプ。


「よし、今夜はここをキャンプ地とする!」


 定番の宣言も板についてきた。


 ベッドに潜りながら、ふと思う。

 明日は……晴れるかな。


「雨、もうちょい続くかもな。でも、次晴れたら洗濯しよう」


 湿った服も、湿った心も、太陽が全部乾かしてくれる。


 ……そう信じたい。


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