「今日も……生き延びたな、俺」
雨はやまず。だが、心は折れていない。
朝からずっとフリーダム号を走らせ、気づけばかなり北上していた。
「順調。実に順調。よし、平常心を保った俺を……褒め称えよう!」
ひとりで拍手。虚しくなんてない。これが俺の世界の正解だ。
……ただひとつ。
ひとつだけ、引っかかってる。
あの時、バス停を通り過ぎた瞬間、見た気がしたんだよ。赤い服の女の子。傘を差してた。
子供だ。多分、小学生くらいの。
顔は……わからなかった。
でも確かに、そこにいた“気がした”。
「……いや、いないいない。そんなはず、ないんだって」
頭を振る。忘れよう。あれは見間違い。マネキン。うん。マネキン。
気を取り直して、フリーダム号は進む。
国道246号、厚木を越えたあたりで、判断する。
「このまま都心突入は……ナシだな。ゾンビ、確実に多い」
東京方面は、過去の経験からしても危険度が高すぎる。
なので、ルートを変更。
16号線に乗って、都心をぐるりと回避する作戦だ。
八王子、狭山、川越──と、埼玉を横切る。
途中、道路脇の車に潜んでいたゾンビを数体見るも、接触なし。
日中、人の集まらない道を選んで進むこの戦法──正解だ。
「……これはアレだな。人がいないところは、ゾンビもいない法則」
少しテンションも戻ってきた。
◆◆◆
やがて、春日部に入る。
「おっほーい! おらシンノスケだゾ〜!」
誰もいない車内で叫んでみる。
「……うん、こういうのは気分の問題だ」
春日部といえば、クレヨンしんちゃんの聖地。
俺が観光するなら、誰もいない商店街じゃなくて、道の駅だろう。
4号バイパスに入って、「道の駅庄和」へ到着。
周囲は静か。
雨はまだ降り続いている。
でも屋根のあるスペースにフリーダム号を停め、今日はここでキャンプ。
「よし、今夜はここをキャンプ地とする!」
定番の宣言も板についてきた。
ベッドに潜りながら、ふと思う。
明日は……晴れるかな。
「雨、もうちょい続くかもな。でも、次晴れたら洗濯しよう」
湿った服も、湿った心も、太陽が全部乾かしてくれる。
……そう信じたい。