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第35話 コハクと名乗った柴犬

「さて……おまえの名前、わかっちゃったぞ」


 フリーダム号の助手席でしっぽをパタパタさせる柴犬。

 首輪には、しっかりとネームプレートがついていた。


【KOHAKU】


「コハク、か。いい名前だな。琥珀色の毛並みにピッタリだ」


 名前があるってことは、誰かに飼われていたってこと。

 この世界になる前か……それとも途中で離ればなれになったのか。

 でも、探そうにもゾンビと鉢合わせる確率が高すぎる。


「すまんが、今は無理だ。けど、代わりにオレが面倒見てやるよ」


 まずは風呂だ。

 といっても、フリーダム号のユニットバスだけどな。


 ぬるめの温水シャワーをかけると、足元から茶色い水が流れていく。


「……どんだけ泥にまみれてたんだよ」


 シャンプーを手に取り、泡でコハクを包む。

 ワシャワシャと手を動かしても、コハクは目を細めて気持ちよさそうにしている。


「おまえ、大物だな。飼い主が毎日風呂に入れてたのか?」


 3回シャンプーを繰り返し、やっと水が透明になった。

 匂いもスッキリ、見た目もふわふわになった。


「さて、次は飯だな。何があったっけ……あ、ツナ缶!」


 缶を開けて、油を切って、軽く水洗い。

 コハク用の器(代用のステンレス皿)に盛って出してやる。


「ほら、食え」


 バクバクッ、バクバクッ。

 一瞬でなくなった。


「……おまえ、相当食ってなかったんだな……」


 ちゃんとしたドッグフードを探さないとな。

 ツナ缶じゃ、たんぱく質は足りても栄養が偏る。


「昔聞いたことあるぞ。ドッグフードは人間が食べても“薄味でうまい”って」


 つまり、コハクが食える=俺も食える。

 お互いの命綱になる可能性があるなら、探すしかないな。


 ◆◆◆


 気づけば、フリーダム号は那須塩原を過ぎ、福島県に突入していた。


 青空の下、助手席には新しい相棒。


「コハク。これから、よろしくな」


「わふっ」


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