「さて……おまえの名前、わかっちゃったぞ」
フリーダム号の助手席でしっぽをパタパタさせる柴犬。
首輪には、しっかりとネームプレートがついていた。
【KOHAKU】
「コハク、か。いい名前だな。琥珀色の毛並みにピッタリだ」
名前があるってことは、誰かに飼われていたってこと。
この世界になる前か……それとも途中で離ればなれになったのか。
でも、探そうにもゾンビと鉢合わせる確率が高すぎる。
「すまんが、今は無理だ。けど、代わりにオレが面倒見てやるよ」
まずは風呂だ。
といっても、フリーダム号のユニットバスだけどな。
ぬるめの温水シャワーをかけると、足元から茶色い水が流れていく。
「……どんだけ泥にまみれてたんだよ」
シャンプーを手に取り、泡でコハクを包む。
ワシャワシャと手を動かしても、コハクは目を細めて気持ちよさそうにしている。
「おまえ、大物だな。飼い主が毎日風呂に入れてたのか?」
3回シャンプーを繰り返し、やっと水が透明になった。
匂いもスッキリ、見た目もふわふわになった。
「さて、次は飯だな。何があったっけ……あ、ツナ缶!」
缶を開けて、油を切って、軽く水洗い。
コハク用の器(代用のステンレス皿)に盛って出してやる。
「ほら、食え」
バクバクッ、バクバクッ。
一瞬でなくなった。
「……おまえ、相当食ってなかったんだな……」
ちゃんとしたドッグフードを探さないとな。
ツナ缶じゃ、たんぱく質は足りても栄養が偏る。
「昔聞いたことあるぞ。ドッグフードは人間が食べても“薄味でうまい”って」
つまり、コハクが食える=俺も食える。
お互いの命綱になる可能性があるなら、探すしかないな。
◆◆◆
気づけば、フリーダム号は那須塩原を過ぎ、福島県に突入していた。
青空の下、助手席には新しい相棒。
「コハク。これから、よろしくな」
「わふっ」