「よし、コハク。メシも済んだし、ちょっと外に出てみるか」
ドッグフードで満腹になった柴犬・コハクは、助手席でしっぽを振っている。
そろそろトイレの時間でもあるし、軽く散歩でもさせよう。
さっきの倉庫にはゾンビの気配もなかったし、万一の場合はコハクを抱えてフリーダム号へダッシュで戻ればいい。
フリーダム号のドアを開けて外に出る。
濡れたアスファルトの匂いに、コハクが鼻をひくつかせた。
「行くぞ、相棒。用が済んだら、ついでにペット用品も探してみようぜ」
さっきドッグフードを見つけたあたりを中心に、周辺を探索。
ペットシーツやリードが残っていないか倉庫を漁る。
パッケージが破れたものも多いが、端の方に比較的きれいな棚が見つかった。
犬用の食器、玩具、リード……それなりに揃ってる。
「お、これは助かるな……って、あれ?」
その奥に、事務所らしき小部屋が見えた。
扉越しに中を覗く。
カセットコンロ、寝袋、カップラーメンのゴミ──人がいた形跡。
「……誰か、ここに住んでたのか?」
ドアをそっと開けて中を確認する。
人影はない。
だが空気には、まだ生活の匂いが残っていた。
カップ麺の残骸にはカビが広がっている。
食べてから数日は経っているだろう。
だが、つい最近まで誰かがここにいた。
「移動した? それとも……」
不意に背筋に冷たいものが走る。
今は無人でも、“何か”が起きたあとかもしれない。
「コハク、戻るよ」
「わふわふ」
急ぎ足でフリーダム号へと引き返す。
コハクは何も気にしていない様子で、鼻先をぴくぴくさせながらついてくる。
車内に戻ってドアを閉めると、ようやく少し落ち着いた。
「……誰かが、生きてた。けど、今はいない」
それが希望になるか、不安になるか。
今はまだ、わからない。