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第37話 誰かがいた気配

「よし、コハク。メシも済んだし、ちょっと外に出てみるか」


 ドッグフードで満腹になった柴犬・コハクは、助手席でしっぽを振っている。

 そろそろトイレの時間でもあるし、軽く散歩でもさせよう。


 さっきの倉庫にはゾンビの気配もなかったし、万一の場合はコハクを抱えてフリーダム号へダッシュで戻ればいい。


 フリーダム号のドアを開けて外に出る。

 濡れたアスファルトの匂いに、コハクが鼻をひくつかせた。


「行くぞ、相棒。用が済んだら、ついでにペット用品も探してみようぜ」


 さっきドッグフードを見つけたあたりを中心に、周辺を探索。

 ペットシーツやリードが残っていないか倉庫を漁る。


 パッケージが破れたものも多いが、端の方に比較的きれいな棚が見つかった。

 犬用の食器、玩具、リード……それなりに揃ってる。


「お、これは助かるな……って、あれ?」


 その奥に、事務所らしき小部屋が見えた。


 扉越しに中を覗く。

 カセットコンロ、寝袋、カップラーメンのゴミ──人がいた形跡。


「……誰か、ここに住んでたのか?」


 ドアをそっと開けて中を確認する。

 人影はない。

 だが空気には、まだ生活の匂いが残っていた。


 カップ麺の残骸にはカビが広がっている。

 食べてから数日は経っているだろう。

 だが、つい最近まで誰かがここにいた。


「移動した? それとも……」


 不意に背筋に冷たいものが走る。

 今は無人でも、“何か”が起きたあとかもしれない。


「コハク、戻るよ」


「わふわふ」


 急ぎ足でフリーダム号へと引き返す。

 コハクは何も気にしていない様子で、鼻先をぴくぴくさせながらついてくる。


 車内に戻ってドアを閉めると、ようやく少し落ち着いた。


「……誰かが、生きてた。けど、今はいない」


 それが希望になるか、不安になるか。

 今はまだ、わからない。


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