「コハク、ちょっと寄り道しようぜ」
「わふっ?」
フリーダム号は今、福島県の中心部を北上中。
だが気づけば、東北旅の雰囲気がシリアス寄りになっていた。
装備整えて、倉庫で生存者の痕跡を見つけて、心がちょっと重い。
だからこそ、気分転換が必要だ。
「ここに来たなら猪苗代湖、一周するしかないっしょ!」
観光地あるあるを、終末風味で味わうのが俺の旅の流儀。
フリーダム号は国道49号を西へ、それから南下して湖をぐるりと回るコースへGO!
最初に見えてきたのは、かつての観光駐車場。
放置された観光バスが2台。
記念写真の看板「ようこそ、猪苗代湖へ!」
「おー、こりゃ定番だな。コハク、ちょっと顔出してくれ」
顔ハメパネルに、柴犬をそっと押し当ててみる。
「はいチーズ!って、誰も撮ってないけどな!」
「わふわふっ(若干迷惑そう)」
次は湖岸を走る一本道。
かつてはレンタサイクルのコースだったらしい。
「まさかキャンピングカーで走る日が来るとは……」
途中に“絶景スポット”と書かれた看板。
「よし、ここで記念写真──って、誰が撮るんだよ!!」
セルフタイマーのカメラも電池切れ。
スマホは通信もクラウドも死んでる。
でも気分は大事。
「コハク、脳内でアルバム作っとけよ」
「わふ」
道の駅猪苗代の看板が見えたが、今日はスルー。
「前回、道の駅でゾンビに囲まれたからな。今回は一周が目的だ!」
途中で観光ボート乗り場らしき場所を発見。
船は……完全に転覆していた。
「……湖上遊覧は無理だったな……残念だな、コハク」
「わふわふっ(尻尾ぱたぱた)」
ぐるりと回って湖の南端。
やたら広い砂浜に到着。
まるで海のように波が押し寄せている。
「ここで昼飯にするか。今日は……カップ麺だな」
フリーダム号のキッチンで湯を沸かす。
その間、コハクが湖を見つめてじっとしている。
「……まさか、お前……泳ぐ気か?」
ザッ!
コハク、突進。
「おいまて待て待て冷たいだろお前!!」
ジャバジャバジャバーッ!
数分後、濡れた柴犬と共にフリーダム号へ帰還。
「バスタオルどこだよぉ……!」
そんなこんなで、笑いあり、記念なし、飯はカップ麺の猪苗代湖一周旅。
でも、心はずいぶん軽くなった。
「コハク、たまにはこういう寄り道も悪くないだろ?」
「わふっ(くしゃみ)」