「腹、減ったなぁ……」
福島を抜けて、さらに北へ。
コハクも助手席でウトウトしてる。
道は順調、空も晴れ、気分も上々。
そして俺の脳内には、ひとつの言葉が浮かび続けていた。
牛タン。
「仙台といえば牛タン。これはもう、旅の義務みたいなもんだろ」
とはいえ、もちろん今は営業してる店なんてない。
でも、どこかに冷凍品が残ってる倉庫があるはず。
冷凍タン、スライス済み、焼肉用……そういうラベルを探して工業団地を回る。
◆◆◆
そして……発見!
【冷凍牛タン(業務用)10kg】
しかも2箱。ラップもバッチリ、霜も最小限。
これは、勝った。
「ただ、知ってるかコハク。牛タンって“仙台の牛”使ってるとは限らないんだぜ」
「わふ?」
「戦後な、仙台にはアメリカの駐留軍がいてさ。
アメリカから輸入された大量の牛肉があった。
でも向こうの人はタンなんか食わない。
じゃあってんで、日本人がうまいこと焼いて……名物になったんだよ」
「わふーん(なるほど顔)」
「だから、ぶっちゃけどこで食べようが気分の問題。
気分で“仙台で牛タン”って思ったら、もうそれで正解なんだよ」
というわけで、フリーダム号のキッチンで調理開始。
塩で軽く揉んで、鉄板でジュウジュウ。
「ほら、焼けてきたぞ……うおぉぉこの匂いは反則!」
コハクが鼻をヒクヒクさせて近づいてくる。
「おまえは後でな! 塩分控えめにしてやるから!」
熱々の牛タンを噛みしめながら、
「やっぱ厚切りが最高だな……」と呟く。
外の景色は、杜の都・仙台。
朽ちたビルの向こうに、緑がちらほら残っている。
腹を満たしたら、次は観光。
目指すは日本三景のひとつ──松島。
海岸沿いに出ると、かつての観光遊覧船乗り場が見えてきた。
もちろん、船はすべて朽ち果てている。
だけど、島々の風景は今も変わらない。
松島湾。
無数の小島が海に浮かび、木々が風に揺れる。
静かだ。
美しい。
そして……どこか寂しい。
思わず口から、言葉がこぼれた。
「松島や……ああ松島や……松島や……」
「わふ?」
「いや、意味はない。なんか昔からそう言うらしいんだよ」
コハクが小首をかしげる。
「俳句というより念仏だな、これは」
そんなことをぼやきながら、
フリーダム号は松島の海岸通りを、静かに北へと走り出した。