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第40話 バリケードとフカヒレの狭間で

 松島を後にして、フリーダム号は北を目指す。


 海を背に、内陸の道をゆるゆる進む。

 助手席ではコハクが鼻先をぴくぴく。

 車内には、さっき食った牛タンの余韻がまだ漂ってる。


「ん〜、いい流れだな」


 ……だった、のだが。


「……おいおい、なんだこれ」


 石巻方面に伸びる道が、バリケードで完全封鎖されていた。


 金属製の柵に、無数の“×”マーク。

 古い注意喚起の看板に、色褪せたままの立ち入り禁止テープ。


「もしかして……これ、女川原発関連か?」


 冗談で済まない空気が、背中を撫でる。


「……これは引き返すのが正解だな。フリーダム号、転進!」


「よし、しばらく内陸ルートで北上だ。

 向かうは……気仙沼!」


 目的はただ一つ。


 フカヒレ。


「気仙沼といったら、もうあれっきゃないよね?」


 乾物の王、フカヒレ。

 高級中華の顔であり、コラーゲンとロマンの塊。


「たぶんどこかの加工場か倉庫に……乾燥状態のまま残ってる……はず!」


 だがここで、ふと冷静になる。


「フカヒレってさ……実は味、ないんだよな……」


「わふ?」


「コラーゲンの塊って感じでさ。スープが命なのよ。

だから必要なのは……鶏ガラスープの素!

それがなけりゃ、せめてオイスターソース!

最悪、昆布出汁!」


 目指すは、気仙沼港周辺の加工場。

 ルートは狭く、山道も多いが、今のフリーダム号なら問題ない。

 燃料は太陽光、気分は中華、助手席には柴犬。


 鼻歌まじりにハンドルを握りながら、俺は叫ぶ。


「行くぞ、フカヒレ探しの冒険だー!」


「わふっ!(謎テンション)」


 天気も上々、風も気持ちいい。

 道端に転がるホタテの殻を横目に、

 フリーダム号は今日も走る。


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