松島を後にして、フリーダム号は北を目指す。
海を背に、内陸の道をゆるゆる進む。
助手席ではコハクが鼻先をぴくぴく。
車内には、さっき食った牛タンの余韻がまだ漂ってる。
「ん〜、いい流れだな」
……だった、のだが。
「……おいおい、なんだこれ」
石巻方面に伸びる道が、バリケードで完全封鎖されていた。
金属製の柵に、無数の“×”マーク。
古い注意喚起の看板に、色褪せたままの立ち入り禁止テープ。
「もしかして……これ、女川原発関連か?」
冗談で済まない空気が、背中を撫でる。
「……これは引き返すのが正解だな。フリーダム号、転進!」
「よし、しばらく内陸ルートで北上だ。
向かうは……気仙沼!」
目的はただ一つ。
フカヒレ。
「気仙沼といったら、もうあれっきゃないよね?」
乾物の王、フカヒレ。
高級中華の顔であり、コラーゲンとロマンの塊。
「たぶんどこかの加工場か倉庫に……乾燥状態のまま残ってる……はず!」
だがここで、ふと冷静になる。
「フカヒレってさ……実は味、ないんだよな……」
「わふ?」
「コラーゲンの塊って感じでさ。スープが命なのよ。
だから必要なのは……鶏ガラスープの素!
それがなけりゃ、せめてオイスターソース!
最悪、昆布出汁!」
目指すは、気仙沼港周辺の加工場。
ルートは狭く、山道も多いが、今のフリーダム号なら問題ない。
燃料は太陽光、気分は中華、助手席には柴犬。
鼻歌まじりにハンドルを握りながら、俺は叫ぶ。
「行くぞ、フカヒレ探しの冒険だー!」
「わふっ!(謎テンション)」
天気も上々、風も気持ちいい。
道端に転がるホタテの殻を横目に、
フリーダム号は今日も走る。