「……生存者、かもしれない」
滑走路の向こうで、何かが燃えていた。
黒煙が立ち上り、風が焦げた臭いを運んでくる。
ゾンビが火を扱えるとは思えない。
もしも人がいたなら
「幸い、こっちには無敵のフリーダム号がある」
外に出なきゃ平気だ。
滑走路は広い、スピードを出せばゾンビでも何でも避けられる。
そうと決まれば即実行!
空港裏手、立入禁止のバリケード。
迷わず、アクセルを踏む!
ガシャァアァアアン!!
「フリーダム号、荒っぽくしてごめんな!」
バリケードをなぎ倒し、滑走路へ突入。
目の前には……飛行機の残骸。
崩れた主翼、焦げた機体、そして、その影に、ゾンビ。ゾンビ。ゾンビ。
「ここ、ゾンビ多すぎだろ!!」
機体の隙間を縫うようにしてフリーダム号を進める。
黒煙のもとは……キッチンカー。燃えている。爆発寸前だ。
ミニバスの中にも人影……と思ったが、動きが鈍い。
「……ゾンビかよ」
次の瞬間、ボンッ!!
ミニバスが爆発した。ゾンビの断末魔とともに、火の手が広がる。
「生存者……いなかった、か?」
帰るべきか。そう思ったときだった。
「たすけてーー!!」
声。はっきりした、人の声。
ゾンビは声を出さない。
音の方向を探すと、キャンピングカーの屋根から女性の顔がのぞいている。
「そこのキャンピングカーの人、助けてーー!」
「マジかよ……!」
ここで逃げるのは……男が廃る。
フリーダム号をそのキャンピングカーに横付け。
自分のルーフハッチを開け、屋根づたいに彼女の元へ向かう。
「大丈夫? とりあえず上がって!」
手を差し出し、彼女の腕を掴む。
その手には、はっきりと生の温もりがあった。
引き上げると、彼女は一息ついて小さく笑った。
「ちょっと待ってて」
フリーダム号の中へ戻る。
センターコンソールを操作し、乗車許可に“許可済・一時登録”の入力。
「降りてきて大丈夫だよ」
彼女はルーフハッチから静かに降り、そのまま崩れるように座り込んだ。
「とりあえず、今は休んでて」
フリーダム号は静かに、しかし確実に進み始める。
炎に包まれた滑走路を、ゾンビの群れをかわしながら、走り抜ける。
新しい命を乗せて。
新しい旅が、また始まろうとしていた。