北へ向かう国道を、フリーダム号は静かに走る。
コハクは助手席で眠り、ユイは後部で小さく体を丸めている。
30分ほど進んだ頃、ふと右手に見覚えのある看板が現れた。
UNIQLO
「あ、ユニクロ……」
その瞬間、あることに気がついた。
「……そうだ、ユイ、慌てて逃げてきたから着替えとか持ってないよな?」
「……はい、何も……」
「ちょっと待ってて。中に入って適当に服、取ってくるよ」
「……私も、一緒に行っていいですか?」
「え?」
ユイは、うつむきながら小さな声で言った。
「……あの、下着とか……」
「あ、ああ、そっか、ごめんごめん。そりゃそうだな」
フリーダム号を駐車し、グロック17を手に取る。
マガジンを確認し、装填数を確かめる。
「少し後ろからついてきて。危なくなったらすぐ戻るから」
「はい」
店のショーウィンドウはすでに割れていた。
ガラス片を踏まないよう慎重に中へ入る。
店内は広く、だが死角も多い。
気配を探りながら、ゆっくりと進む。
「……入ったのは男性エリアか。ってことは、レイアウトは定番だな」
ユニクロ特有の構造。
手前にメンズ、奥にレディースとキッズ。
下着は店の最奥。警戒しながら進む。
「これ、カゴ。気になったものは片っ端から入れていい。あとで選べばいいから」
「はい、わかりました」
ユイは音を立てないように服を集めていく。
俺はグロックを構え、周囲の棚を警戒する。
最奥まで到達。死角は潰した。
「ユイ、こっち。下着コーナー。俺は見ないから、選んで」
「ありがとう……」
数分後、ユイが静かに言う。
「もう大丈夫です」
「よし、じゃあさっさと出よう」
少し早足で帰路につく、その時。
「ガシャァァァァァァン!!」
ユイの持っていたカゴが、ラックにぶつかって倒れた!
「っち、やったか……! 急げ!!」
俺はユイを先に走らせる。
「後ろは見ないで、フリーダム号まで走れ!!」
「……はいっ!」
その瞬間、死角からゾンビが複数、姿を現した。
「ちっ……距離近すぎだろ!」
咄嗟に、最前の一体の頭部を狙って引き金を引く。
バァァァァン!
ゾンビが崩れ落ちる。だがその後ろにも……いる。
「相手にしてられるか!!」
グロックをホルスターに戻し、ダッシュでショーウィンドウを飛び越える。
外には、無敵のシェルター、フリーダム号。
運転席に飛び乗り、ドアを閉める。
息が上がる。コハクが吠え、ユイが振り返る。
「……間に合ったな」
「ドジで……ごめんなさい……」
「いや、大丈夫。ちゃんと帰って来れた。それでいい」
終末世界で、下着ひとつ手に入れるのにも命がけ。
でもそのひとつで、誰かの心は少しだけ軽くなる。